大嫌いなキミに愛をささやく日

またり鈴春

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過保護なライバル

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「という事があって……。これからどうしたらいいと思う?」
「物語の開始10ページくらいで早々に告白した鳳条くんに、一介の私が何を言えようか…いや何も言えない」
「え?何?」


「何でもないよ」と脱力して笑うのは、友達の泡音(あわね)ちゃん。
 勉強は苦手らしいけど、恋愛に関してはお手の物のキレイめ可愛い子ちゃん。


「むしろ、凜は今まで気づかなかったわけ? 鳳条くんが凛を好きな事に」
「存在を抹殺しようと企んでた相手に、まさか好かれてるなんて思う?」
「いや怖すぎ泣いた」


「鳳条くん可哀想に」と目にハンカチを当てている泡音ちゃん。
 なんか「私が悪い」流れになってない?
 え、私が悪いの?


「大体さ。鳳条くんが”凛の守護神”って噂されてるの知らなかったの?」
「しゅ、守護神?」


 破壊神じゃなくて?
(結構本当にそう思ってた)


「鳳条くんは、凛の事になると過保護だし優しいし。特別待遇なんだよね」
「と、特別待遇?」

「だって凜だけでしょ。鳳条くんが自分の名前呼びを許してる相手って」
「え、私だけ?」


 気づいてないの?と、泡音ちゃんは驚いた顔をした。
 だけど、私の方が驚くわけで……。
 え、本当に私しか「煌人(あきと)」って呼んでないの?


「他の女子は悔しいからその話を口にはしないけど、鳳条くんの事を下の名前で呼びたがってる子は何人もいるよ」
「なんで私だけ?」

「だから言ったでしょ?凛は特別待遇なんだって」
「……」


 い、今まで本当に知らなかった。
 だって煌人の事を気にもしてなかったから(本当に本気で)。


「(私にだけ、“煌人”って呼ばせてるの?)」


 しかも入学して早々。


『次のテストで俺の方が点数が良かったら、俺の事を名前で呼んで』


 なんて……。
 なんで?
 どうして名前で呼んでもらいたかったの?


「煌人はさぁ、」


 いつから私の事を好きでいてくれたんだろうって――
 ふと、そう思った。
 すると、私が思っている事を察してくれたのか、泡音ちゃんが「ふふ」と可愛い笑みを浮かべる。


「少しは鳳条くんの事を、真剣に考えられるようになった?」
「どういう、」

「今朝、登校してきた凛が教室に入って来た時、鳳条くんを見て思い切り顔を歪めてたから。どうせいつものケンカかと思ったら、まさか告白されてたなんてねぇ」
「ちょ、ニマニマするのやめてっ」

「まーまー」


 すごく楽しそうな泡音ちゃんの背中を押す。
 もうすぐチャイムなりそうだし、そろそろ席に戻ったら?という意味を込めて。

 だけど泡音ちゃんは、めげなかった。
 私に押されながらも「それでさ」と話を続ける。


「で、返事はどうするの?」
「へ、返事も何も……」


 教室の出入り口で「キャー鳳条くん~」と女子に囲まれてる煌人を見る。


「お菓子は好き?」
「おー、好き」

「甘い物もイケるんだねぇ!」
「甘党なんだよ、俺」


「……あれが昨日告白した人の顔に見える?泡音ちゃん」
「いーや。むしろ、これから誰かを食わんとする勢いだね」
「だよねぇ……」


 女子に囲まれる煌人のまんざらでもなさそうな顔を見て、やっぱり昨日の告白はウソなのでは?って思っちゃう。


「煌人が誰かを好きになるって、信じられないなぁ」


 ましてや、それが自分だなんて――と、ため息が出た。


「おーいおい、そこで何でため息?」


 呆れたように言う泡音ちゃんが、ジト目で私を見る。


「むしろ光栄じゃん。だって鳳条くんと言えば、頭も顔もスタイルも良い。スポーツ万能でお金持ち!
 告白の返事で何を迷う事があるんだっての~。私からしたら羨ましいばかりだよ。私なら即OKする。むしろ食い気味で!」
「だって今までライバル視してたから、煌人には好意どころか、」

「恋心もない、と?」
「むしろ敵意しかない……」


 しどろもどろ話す私に、泡音ちゃんは「まぁね」と眉を下げて笑った。


「小学校ではイキイキしてた凛の表情が、中学校に入ってからは影がつきまとってるもんね~」
「暗いってこと?」

「うん。キノコ生えそう」
「(キノコ!?)」


 どれほどジメジメした雰囲気だったんだろう。今まで無自覚だっただけに、恐ろしい。
「だけど」と泡音ちゃんが続ける。


「鳳条くんと話をしてる時だけは、凜が元気そうに見えたけどね」
「いやいや。むしろアイツのせいで、勉強で結果が出なくて落ち込んでたのに?」

「親友と書いてライバルと読むんだよ、凛」
「……」


 いや、読まないと思う。
 ハァとため息をついて、再び煌人を見る。
 すると、

 バチッ


「(わ、目が合っちゃった……っ)」


 煌人も私の方を見ていて、思い切り視線がぶつかった。
 慌てて顔を逸らした私を見て、泡音ちゃんが面白そうに笑う。


「ぷぷ。まさか凛のそんな姿が見られるなんてね~」
「そ、そんなって?」

「恋にワタワタしてる所だよ~」
「……」


 考え込んでいると、チャイムが鳴った。
 そう言えば、次の授業は宿題があったっけ。


 ガタッ


 そんな事を考えていると、私の目の前に煌人が戻って来た。
 入学式のあいうえお順のまま席替えしてないから、名字が近い私たちは前後の席。
 前に煌人。後ろに私。
 ちなみに私はこの席を「ライバルが常に視界に移る最悪の席」って呼んでる。


「なぁ凛。さっきの、何?」
「さっきのって?」


 座る直前に、煌人が私を不思議そうな目で見る。


「照れたような顔で俺を見てたじゃん」
「……はぁ?」


 思わず頭を抱える。
 何をどう見たら、さっきの私が「照れた」顔に見えたんだろう。


「見間違いだよ。それか気のせい」
「見間違いでも気のせいでも無かったら?」
「……煌人の圧倒的な勘違い」


 言うと、煌人は「ぶッ」と笑った。


「見間違いでも気のせいでも、圧倒的な勘違いでもない事を祈るわ」


 そう言って、煌人はクルリと前を向いた。
「なんだそれ」と。
 私はやっと落ち着いて、授業に集中する事が出来る。


「(はぁ、疲れた……)」


 煌人の言葉で。
 たった一言だけで。


『俺がお前を好きって言ったら、どうする?』


 私はこうも疲れてしまう。
 今まで縁がなかったから考えた事なかったけど、どうやら恋愛は苦手みたい。
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