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溺愛争奪戦

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「い、行きたい……」

「あ?聞こえないなー」

「行きたい!デート!!」


勢いで言うと、想像以上に大きな声が出てしまった。そして、その声は少し離れている皆にも聞こえたのか、


ガタガタ、ガタン!


と大きな音が聞こえる。見ると、歌沢くんが倒れて、楽先輩が椅子にもたれかかっていた。

ルイ先輩だけはニコニコしていて「俺はまだ耐性あるけど、この子らにはショックが大きいようだから、そういう話は小声で言ってあげてね~」と手をヒラヒラ振っていた。


「す、すみません……っ」

「ぷっ!」


必死に謝る私を見て、吹き出す凌久くん。凌久くんのせいで、こんな事になってるのに!もう!


「凌久くん~」

「悪い悪い。でも合格。いい虫除けになった」

「虫除け?」


コテンと頭を倒す私。凌久くんは、満足そうに笑っている。な、なんだろう?


「気にすんな。で、どこに行きたい?デート」

「えーっと、あ! ゆ、遊園地に行きたい。前のリベンジで……」

「……」

「ダメ、かな?」


恐る恐る聞くと、凌久くんは、また「ぷはっ」と笑った。そして自分の左手を、胸の辺りまで持ち上げて、私に手の甲を見せる。


「凌久くん?」

「遊園地でもどこでも、芽衣を連れて行ってやるよ。ただし、見える指輪を買ってからにしような」

「!」


私にしか見えない、赤い糸。赤い指輪。これが凌久くんにも見えたら良いのにって、心のどこかで思ってた。

そうしたら......まさか凌久くんから「指輪を買おう」と言われるなんて。

そんな事を言われちゃったら、もう――


「凌久くん、耳を貸して」

「?」


不思議そうな顔で、私に耳を近づける凌久くん。私は、皆に聞こえない声で、そっと静かにささやいた。


「凌久くんのこと、世界一大好きだよ」

「っ、!」

「ふふ」


笑いながら、凌久くんから離れる。すると彼は、全力で照れていた。

眉を顰めて、口をへの字にして、耳まで真っ赤にして――だけど、それでもカッコイイんだから、私の彼氏はちょっとズルい。


「ったく、鈍感なのに、そういうとこだけグイグイ来るんだもんな。くそ」


ちょっと怒ったらしい凌久くんは、私の頭をぐしゃりと撫でた。そして、


「デートの日。芽衣がいくら嫌がっても、手をずっと繋ぐからな。覚悟しろよ?」

「え」

「最初のデートの日、嫌がってたじゃねーか」


――おい、芽衣。なに手を離してんだよ
――これからデートなんだぞ?ほら、手よこせよ


「あ……」


そう言えば、そんな事あったなあ。

歌沢くんとの勝負に勝つ――それだけのために、凌久くんが私と手を繋ごうとしてると思ったから。むなしくて、悲しくて。だから「手は繋がない」って、私が拒否したんだっけ。


だけど……今は?


「ねぇ凌久くん、デート……楽しみ?」

「……」

「凌久くん?」


すると、凌久くんが一言。


「彼女とのデートを楽しみにしねぇ彼氏っていんの?」

「!」


その破壊力、宇宙規模。


「も、もう充分です……、ありがとうッ」

「あ?なんのことだよ。とにかく。いくら芽衣が”離して”って言っても、もう離してやらねーからな!」

「ふふ、分かりましたッ」


その後――


無事に動画は完成し、ルイ先輩によって配信された。配信直後から、信じられないくらい多くの人に拡散された。


そして歌沢くんのグループはグングン知名度を上げていき、新曲は「売り切れ続出」の大ニュースとなったのだ。王子たちの協力のおかげで、歌沢くんはアイドルを続けられることになった。


その後、歌沢くんとルイ先輩と楽先輩の三人は、打ち上げという名のご飯に行ったらしい。


え、なんで凌久くんは呼ばれなかったのかって?なぜなら、その日、凌久くんは――


「芽衣~早くしろって」

「ご、ごめん遅れちゃった!」


何度目かの、私とデートの日だったのです!


「ほら芽衣。手つなぐぞ」


私に差し出された凌久くんの手。その指に光る、皆にも見える指輪。肌に馴染む、ピンクベージュの指輪。


「きれい……」

「また指輪を見てんのかよ」

「何度見ても嬉しいものなの!」

「はいはい。で――こっちは?」


いまだ空の手を、ぶらぶら動かす凌久くん。


「俺だって、芽衣と手を繋ぐのは何度だって嬉しいけど?」

「ッ!」


いつも強めな彼の、時たま甘いスパイス。


「ツンとデレのコンボ……強いっ」

「なんだよ、それ」

「ふふ、内緒!」



その合わせ技に、今日も私は赤面中です!




【 抜けがけ禁止×王子たちの溺愛争奪戦 】


〈 END 〉

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