56 / 58
溺愛争奪戦
4
しおりを挟む「こ、こんな状態でごめんね。動画はどう?順調に進んでる?」
「はい!明日撮影を終わらせて、その日の内に動画配信するって、不動先輩が言ってくれました!」
「は、早い!」
でも、そっか。新曲の発売日は、一週間後だもんね。宣伝する期間がいるよね。だったら宣伝動画の配信は、早いに越したことはない!
「皆、動いてくれるんだね。歌沢くんのために、素敵な動画を作ってくれるんだね」
「はい……っ」
口を真一文字に、キュッと閉じた歌沢くん。その顔には「皆の努力を決して無駄にしない」と書いてあるように見えた。
「……今の歌沢くんは、とってもキラキラしてる。それに、とってもカッコイイよ。これから歌沢くんは有名になって、皆から愛されるアイドルに絶対なるって、私はそう思うんだ」
「芽衣先輩……」
歌沢くんは、私の手に、自分の手をそっと重ねる。温かい、心地いい手だ。
「俺、芽衣先輩と出会えなかったら、きっとアイドルを諦めていました。だけど今なら、どんな逆境だろうと、必ず乗り越えてみせるって……燃えてるんです、俺」
「燃えてる……。なんか、カッコイイね」
「そう思えたのも、芽衣先輩のおかげですよ」
「そんなことないよ、歌沢くんが頑張ってる証拠だよ」
へにゃっと笑った私。そんな私を見て、歌沢くんは凛とした表情から、一気に泣きそうな顔になった。え、どうしたの!?
「こんな俺だけど、先輩……聞いてくれますか?」
「ん?何を?」
「俺、まだ先輩のことを諦めたくないって……。それを、言いたくて」
「歌沢くん……」
そっか、歌沢くんも、私と声宮くんが付き合ってるって、何となく分かってるんだ。
っていうか、そうだよ。動画のことでバタバタしてたけど、歌沢くんは私に告白してくれたんだ。まだ返事してないなんて、私のバカ!
「ごめん。私、歌沢くんに言いたい事が――」
ここまで言った時だった。歌沢くんは、自分の人差し指を私の唇に、ちょんっと当てる。綺麗な長い指が、私の唇にわずかに沈んだ。
「歌沢、くん?」
「告白の返事は、まだ、しないで下さい」
「え、でも、」
「……いいんです」
歌沢くんは、私の唇から指を離す。その後どうするかと思ったら、そのまま自分の指に口づけをした。ちゅっと。
最初は私の唇、次に歌沢くんの唇。順番に彼の人差し指が触れていった。……ん!?
それって、つまり間接キスだよね!?指の間接キスって……さすがアイドル!
呆然としていると、歌沢くんが「しますね」と背中を丸めて私に近づいた。え、するって何を?何をするの!?
咄嗟にギュッと目を瞑った私。だけど、何も起こらなくて……少しづつ、瞼を開いた。
すると歌沢くんは、なんだか意地悪な顔をして私を見ている。そして、
「するって、何をすると思ったんですか?」
と、ニヒヒと声がつくような、そんな顔で笑った。
「だ、騙された!」
「もう、可愛いなぁ芽衣先輩は。するのはキスじゃなくて、宣戦布告です」
「へ?宣戦布告?」
「はい――」
歌沢くんは、笑ったまま凌久くんを見る。ハキハキと動画の流れをまとめている彼を見て、歌沢くんの目に複雑な色が混じった。
「俺は、まだまだ声宮先輩には叶わない。足元にだって及ばない。だけど、いつか絶対に超えてみせます」
「歌沢くん……」
「人気声優・声宮凌久を越える、ビッグなアイドルになります。そして、いつか絶対あなたを奪いますから」
「!」
「覚悟しててくださいね」
ニコッと笑った歌沢くんの瞳の奥に、広いコンサート会場が見える。ファンが「歌沢くんー!」と呼ぶ声が、今すぐにでも聞こえてくるような気がした。
歌沢くん、あなたなら、きっと大丈夫。だって、あなたはいつも、こんなに頑張っているのだから。
努力は叶う、想いは実る。私もさっき、それを実感したばかり。だから歌沢くんも、きっとたどり着ける。あなただけのゴールに――
「CD、絶対に買うからね」
「ありがとうございます!芽衣先輩に応援して貰えたので、フルパワーで頑張りますね!」
「うん!」
ニコニコ、にこにこ、と。私たちが笑いあっていた、その時だった。
ガシッ
歌沢くんの肩に回る、大きな腕。見ると、歌沢くんの背後に、怖い顔をした凌久くんが立っていた。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
左左左右右左左 ~いらないモノ、売ります~
菱沼あゆ
児童書・童話
菜乃たちの通う中学校にはあるウワサがあった。
『しとしとと雨が降る十三日の金曜日。
旧校舎の地下にヒミツの購買部があらわれる』
大富豪で負けた菜乃は、ひとりで旧校舎の地下に下りるはめになるが――。
【完結】またたく星空の下
mazecco
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 君とのきずな児童書賞 受賞作】
※こちらはweb版(改稿前)です※
※書籍版は『初恋×星空シンバル』と改題し、web版を大幅に改稿したものです※
◇◇◇冴えない中学一年生の女の子の、部活×恋愛の青春物語◇◇◇
主人公、海茅は、フルート志望で吹奏楽部に入部したのに、オーディションに落ちてパーカッションになってしまった。しかもコンクールでは地味なシンバルを担当することに。
クラスには馴染めないし、中学生活が全然楽しくない。
そんな中、海茅は一人の女性と一人の男の子と出会う。
シンバルと、絵が好きな男の子に恋に落ちる、小さなキュンとキュッが詰まった物語。
こわがりちゃんとサイキョーくん!
またり鈴春
児童書・童話
【第2回きずな児童書大賞にて奨励賞受賞しました❁】
怖がりの花りんは昔から妖怪が見える
ある日「こっち向け」とエラソーな声が聞こえたから「絶対に妖怪だ!!」と思ったら、
学校で王子様と呼ばれる千景くんだった!?
「妖怪も人間も、怖いです!」
なんでもかんでも怖がり花りん
×
「妖怪は敵だ。すべて祓う」
みんなの前では王子様、
花りんの前では魔王様!!
何やら秘密を抱える千景
これは2人の人間と妖怪たちの、
ちょっと不思議なお話――✩.*˚

こちら第二編集部!
月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、
いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。
生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。
そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。
第一編集部が発行している「パンダ通信」
第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」
片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、
主に女生徒たちから絶大な支持をえている。
片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには
熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。
編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。
この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。
それは――
廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。
これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、
取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。

【完結】だからウサギは恋をした
東 里胡
児童書・童話
【第2回きずな児童書大賞応募作品】鈴城学園中等部生徒会書記となった一年生の卯依(うい)は、元気印のツインテールが特徴の通称「うさぎちゃん」
入学式の日、生徒会長・相原 愁(あいはら しゅう)に恋をしてから毎日のように「好きです」とアタックしている彼女は「会長大好きうさぎちゃん」として全校生徒に認識されていた。
困惑し塩対応をする会長だったが、うさぎの悲しい過去を知る。
自分の過去と向き合うことになったうさぎを会長が後押ししてくれるが、こんがらがった恋模様が二人を遠ざけて――。
※これは純度100パーセントなラブコメであり、決してふざけてはおりません!(多分)
氷鬼司のあやかし退治
桜桃-サクランボ-
児童書・童話
日々、あやかしに追いかけられてしまう女子中学生、神崎詩織(かんざきしおり)。
氷鬼家の跡取りであり、天才と周りが認めているほどの実力がある男子中学生の氷鬼司(ひょうきつかさ)は、まだ、詩織が小さかった頃、あやかしに追いかけられていた時、顔に狐の面をつけ助けた。
これからは僕が君を守るよと、その時に約束する。
二人は一年くらいで別れることになってしまったが、二人が中学生になり再開。だが、詩織は自身を助けてくれた男の子が司とは知らない。
それでも、司はあやかしに追いかけられ続けている詩織を守る。
そんな時、カラス天狗が現れ、二人は命の危険にさらされてしまった。
狐面を付けた司を見た詩織は、過去の男の子の面影と重なる。
過去の約束は、二人をつなぎ止める素敵な約束。この約束が果たされた時、二人の想いはきっとつながる。
一人ぼっちだった詩織と、他人に興味なく冷たいと言われている司が繰り広げる、和風現代ファンタジーここに開幕!!
龍神の化身
田原更
児童書・童話
二つの大陸に挟まれた海に浮かぶ、サヤ島。サヤ島では土着の信仰と二つの宗教が共存し、何百年もの調和と繁栄と平和を享受していた。
この島には、「龍神の化身」と呼ばれる、不思議な力を持った少年と少女がいた。二人は龍神の声を聞き、王に神託を与え、国の助けとなる役割があった。少年と少女は、6歳から18歳までの12年間、その役に就き、次の子どもに力を引き継いでいた。
島一番の大金持ちの長女に生まれたハジミは、両親や兄たちに溺愛されて育った。六歳になったハジミは、龍神の化身として選ばれた。もう一人の龍神の化身、クジャは、家庭に恵まれない、大人しい少年だった。
役目を果たすうちに、龍神の化身のからくりに気づいたハジミは、くだらない役割から逃げだそうと、二年越しの計画を練った。その計画は、満月の祭の夜に実行されたが……。
40000字前後で完結の、無国籍系中編ファンタジーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる