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溺愛争奪戦

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「凌久くんの事が好きです。私と、付き合ってくれませんか?」


凌久くんに好きだと、ついに言ってしまった。まさか、自分が告白する日が来るなんて。


「凌久くんが好き」

「~っ、」


凌久くんは、最初は目を点にしていた。だけど、私の告白がだんだん現実味を帯びてきたのか。また手で顔を隠して「お前は……っ」とうなだれる。

そんな凌久くんを「可愛い」と思いつつ、私が凌久くんを好きになった経緯を話した。


「凌久くんの部屋で台本を見た時。私がずっと探していた声優さんが凌久くんだって分かって……嬉しかったの」

「嬉しい?」

「だって、探してた声優さん=運命の人って、私は思ってたから。そして、その声優さんは凌久くんだった。

そっか私の運命の人は凌久くんだったんだ、よかったって――そう思ったの」

「芽衣……」


「エレベーターの中では“嫌な人”って思ってたけどね」と言うと、凌久くんはバツの悪そうな顔をした。だんだんと沈みゆく夕日を見る凌久くん。しゃがみ込んだまま、器用に肩肘をついた。


「あれは、その、悪かったよ……」

「うん、謝ってくれたから許すよ」


ヒヒッと意地悪く笑うと、凌久くんもフッと笑った。俯いてるからか、前髪が目の高さまで落ちてきて、今にも目に入りそう。目に入ったら、痛いよね?ちょっと直してあげよう。


「凌久くん、ちょっといい?」

「は?あ、おい」


凌久くんの顔を覗き込んで、ちょいちょいと彼の前髪を直す。意外に柔らかい。それに凌久くんって、なんだかいい匂いがする。

男の子なのに、女の子の私よりもいい匂いするなんて――と、凌久くんの女子力に嫉妬していた時だった。

パシッと。私の手が、凌久くんによって捕まる。


「え、」

「芽衣、お前まさか、忘れてないよな?」

「忘れるって、何を……」


言うと、凌久くんは私の手を持ったまま立ち上がる。引っ張られて、私も自ずと立ち、凌久くんの正面に来た。


「告白ってのは、返事を聞かないといけないだろ?俺、まだ返事を言ってないからな」

「え、あ……だって、それは……」


顔に熱が溜まる。凌久くんを、直視できない。


「凌久くんは人気声優だから、その……一般人の私なんかと付き合えないんじゃないの?」

「自分で告白しといて、今更なに言ってんだよ。じゃあ、俺が他の誰かと付き合ってもいーのかよ」

「うっ、それは……嫌」


素直に言うと、凌久くんは「そーかよ」と言って、ニッと笑う。


「それが聞けりゃ充分だ」

「へ?」

「芽衣、こっち来て」

「え、こっちって……」


もう充分、近い距離にいるんだけど……!?だけど凌久くんからすると、どうやら二人の距離は、まだまだ遠いらしい。

オロオロする私に痺れを切らした凌久くんが「こっち」と、強引に私の腕を引っ張る。

するとグンッと私の体が傾き、凌久くんの胸の中にダイブした。温かい凌久くんの体温が、私を優しく迎えてくれる。


だけど、気になることが……


「あの、凌久くん。すごくドクドク言ってるよ?」

「……」

「凌久くん?」


凌久くんの心臓あたりに、ちょうど私の耳があるんだけど……。凌久くんの心臓が、すごい音を立てて動いていた。

まさか調子が悪い?と心配する私の前で、凌久くんは「チッ」とお決まりの舌打ちをする。


「な、なんでこの状況で舌打ち!?」

「芽衣が鈍いからだろ」

「に、鈍い?」


すると凌久くんは、自身の両腕を、そっと私の背中に回した。え、これって……


「私、抱きしめられてる……?」

「気づくの遅せぇよ、バカ」

「え、だ、だって……!」


何か言おうとする私を黙らせようとするためか。凌久くんは更に力強く、ギューッと私を抱きしめる。

そして私の耳元で、いつもより小さな声でささやいた。


「これが答えだ」

「答え?」

「……本当に鈍いな、芽衣は」


溜息をついた凌久くん。自分の体から、私をベリッと剥がす。そして私の両頬に手を添えて……優しい表情を浮かべながら、こんな事を言ってきた。
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