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繋がるリング
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しおりを挟む「凌久くん……?」
「や、悪い……。まさか、芽衣がそんな事を思ってたなんて、知らなくて……。でも、そうか。ずっと俺のファンでいてくれたんだな。ありがとう、芽衣。そして、悪かった。ひどい事を言ったよな、俺」
「凌久くん……」
あの凌久くんが、私に謝ってる。真っすぐに、真剣に。そして「ごめん」と、また同じ言葉を繰り返す。
「芽以が追いかけても、会えねーはずだ。だって俺、声優を一度辞めてんだよ。ちょうど、あのアニメを終えた辺りからな」
「うん。熱の時に、凌久くんが話してくれたよ」
「!?」
怒った顔をした凌久くんに「ごめん」のジェスチャーをする。
「やっぱり熱の時にペラペラ喋ってたのかよ……。その辺の記憶が曖昧だったんだ。クソ。俺が聞いた時に、ウソつきやがったな?」
――寝込んでた時に……俺、何か喋った?
「ごめん。知られたくない事だったのかもって……そう思ったから」
「……はぁ」
ため息をついた凌久くん。私を立たせた時から今までずっと繋がっていた私の手を、パッと離す。行き場をなくした彼の手は、乱暴にポケットに収まった。
「変に気を遣うな。ファンに迷惑を掛けたんだ。嫌な昔話でも何でも、掘り起こして、俺に罪を償わさせろ」
「凌久くん……」
辞めたくない声優を辞めて、悔しい思いをしたのは凌久くん自身。それなのに、あたかも自分の責任みたいに言っちゃうのは……いかにも凌久くんの性格っぽい。
これが、声宮凌久くん。
私の好きな人。
私の――運命の人。
「歌沢くんに相談された時。あの時も凌久くんは、私に“一人じゃないだろ”って、昔と同じ言葉で励ましてくれた。私は二度も、凌久くんに助けられたんだよ。
それにね、私が凌久くんの事を好きって気づいた時から――赤い糸は、凌久くんから一度も離れてないんだよ。これってスゴイ事じゃないかなって、そう思うんだ。
だけどね」
さっきの事を思い出す。しゃがんでいた時、いきなり私が顔を伏せたのを心配して、凌久くんが「目にゴミが入ったのか?」って心配してくれた時。
実はね、あの時。赤い糸に、変化があったんだよ。
「さっきね、その赤い糸が――プツンって、切れたの」
「へ……?」
今まで伏し目がちで私の話を聞いていた凌久くんは、パッと顔を上げた。そして眉を少しだけ八の字にして、私を見る。
「切れたって……じゃあ、もう、」
「でもね」
私は自分の左手を顔の高さまで上げ、左手の薬指を見た。すると思わず、笑みが浮ぶ。そんな私を見た凌久くんは、ますます混乱していった。
「赤い糸が切れて嬉しいのかよ……?」
「ううん、違うの。赤い糸は切れたんだけど、薬指に巻きついてるの。まるで指輪みたいに」
「へ?」
「そして、私と同じ赤い指輪が、凌久くんにもついてるの。見た瞬間、驚きすぎて、思わず顔を伏せちゃった。あと……泣きそうになるくらい、嬉しかったの」
「嬉しい?」
凌久くんは、小首を傾げる。
「うん、嬉しい。だって、お揃いの指輪って、まるで夫婦みたいだなって……。そんな事を思ってしま、って……」
「……」
「……」
ん!?
「……そういや芽衣。さっきしれっと、俺の事を好きって言ったよな?」
「え!?」
――私が凌久くんの事を好きって気づいた時から、赤い糸は凌久くんから一度も離れてないんだよ
ほんとだ!言ってる!!
ど、どどど、どうしよう!?
思わず凌久くんを見る。すると、彼は私よりも顔を真っ赤にしていた。
「あの、凌久くん、ごめん!思った事が、つい口に出ちゃって……」
「~っ、お前は!そういう事を平気でポンポン口にするなよ!聞いてるこっちが恥ずかしいだろうが!」
「わ、私も今、かなり恥ずかしい……!」
「は、恥ずかしいって……、あ~もう!」
凌久くんは力が抜けたのか、へにゃへにゃと、その場にしゃがみ込む。そして手で額を支えながら、
「自分で蒔いた種だろ……責任取れ」
と、私を恨めしそうに見た。
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