抜けがけ禁止×王子たちの溺愛争奪戦

またり鈴春

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恋への気づき*凌久*

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「そう言えば、会えたのかよ?」

「え、誰に?」

「運命の人にだよ。ソイツと会うために、この学園に入学してきたんだろ?」

「ッ!」


俺の言葉に、芽衣はビクッと反応した。そして、みるみるうちに顔が赤くなっていく。

え、なんだよ。どういう事だよ。まさか、本当に「運命の人」に会ったのかよ?


――私が歌沢くんのただのファンって聞いて、どう思った?


顔を赤くして、ちょっと震えながら、俺にそんな事を聞いてきたくせに。何だよ、お前はもう運命の人に会ってたのかよ。


「(なんか、気に食わない)」


ってか、それって。
芽衣のいう運命の人って――


楽先輩だったりするのかよ?


「……チッ」

「え、な、なんで舌打ち……?」

「知らねー」

「えぇ……?」


なんだよ、なんでこんなにもイライラすんだよ。なんでこんなにも、芽衣に腹が立つんだよ。


「凌久くん、どうしたの?何か困った事があった?」

「……なんもねーよ」


困ってもねーし、何とも思っちゃねーよ。例えお前がニコニコ嬉しそうに笑ってたって、俺は――


「いや……やっぱ無理だな」

「え」

「芽衣、ちょっと来い」

「えぇ!?凌久くん!?」


芽衣の手を握って、そして強引に引っ張って、俺はラウンジを後にした。後ろで歌沢を始めとする「王子たち」が、なにやら文句を言ってるのが聞こえる。


だけど、いい。
文句なんて、言わせておけ。


「ね、ねぇ凌久くん!どこに行くの!?」

「……知らねぇ」


その時に、後ろを向いて芽衣を見る。すると芽衣は、俺を見てるんじゃなくて、俺と握った手を見ていた。


「なんで、俺を見ねーんだよ」

「え?」


気づけば、ポツリと呟いていた。自分でも驚くほど、自然に出た言葉だった。


「あぁ、もう、ワケわかんねぇ……」


歩くのをやめて、しゃがんだ俺。芽衣との手は自然に離れた。

何も考えていた俺は、どうやらスリッパのまま外への来てしまったらしい。体育館が近いから、部活中の生徒の声が聞こえる。

ピーッ

ホイッスルが、耳に届く。そして、耳を通って、音が空へ突き抜けていった。空には真っ赤な夕日。眩しいほどだ。


「凌久くん」

「……悪い、戻るぞ」


夕日なんか観察して、どうすんだよ俺。だけど、混乱する俺とは反対に、芽衣は落ち着いていた。「綺麗だね」と言って、俺と同じようにしゃがんだ。


「……勝手に引っ張ってきて、怒ってないのかよ」

「そりゃビックリはしたけど、怒らないよ。だって、何か理由があったんだよね?」

「理由……」

「凌久くんが私を助けてくれたみたいに、私も凌久くんを助けたいし。だから、何か悩み事かあるなら、頼ってくれると嬉しいな」

「芽衣……」

「へへ」


照れくさそうに笑う芽衣に、思わず俺の頬も緩んだ。なんだ、芽衣ってこんなに逞しい奴だったっけ。

芽衣の言ってくれた言葉に、少しの嬉しさを覚える。相談するのがいい、のか?

だけど、ここに来た理由って言ってもなぁ。


「(それに、俺に悩み事なんて……)」


その時、俺はさっきまでの事を、頭の中で簡単に整理した。


芽衣に好きな人がいること。
芽衣が運命の人と出会えたこと。
それを聞いて腹が立ったこと。
けど俺には関係ないことだと思い直し割り切ろうとした。けど、無理だったこと。


「(ん?おい、それって……)」


思わず芽衣を見る。急に俺が芽衣を見たからか、芽衣はビックリして「ひゃっ」と声を上げた。


「ど、どうしたの?凌久くん」

「いや、何でも……」


なんでもない、ワケがない。

だって、今の流れだと……


「(まさか、俺って、)」


芽衣の事が好きなのか――?


そう思った時。俺を見ていた芽衣が、目をこれでもかと開いて、俺の手を見た。

ん?また「俺の手」か?

いつものように手を確認するけど、俺の手には何も付いてない。だけど芽衣ときたら、俺の手を見て顔を真っ赤にしていた。


「おい、芽衣?」

「……っ」


ガバッと。芽衣は顔をさげて、自分の両膝におでこを付ける。な、なんだよ。何かあったのか?


「芽衣?」

「ん、ごめ……っ」


顔を上げた芽衣を見て、ビックリした。だって、今にも泣きそうな目をしてたから。


「目にゴミでも入ったのか?見せてみろ」

「ちが、違くて……」


じゃあ何だよ?

お手上げ状態の俺が、芽衣が落ち着くのを待つ。すると芽衣は頬をパチンと叩いて、何やら気合を入れた。

そして真剣な目をして俺を見て、


「これから私が話す事、聞いて欲しいの」


と、そう言った。そんな改まって言われたら、頷くしかない。そんな俺を見て、芽衣はゆっくりと深呼吸をした。

そして――


「じつは私……赤い糸が見えるの」


とんでもない事を、俺に打ち明けるのだった。

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