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恋への気づき*凌久*
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しおりを挟む俺は最近、ある事に悩んでいる。そのある事とは――
「ねぇ凌久くん、動画の最初にナレーションを入れてもらいたいんだけど」
「……」
「ねぇ、凌久くん!聞いてる?」
「……聞いてる」
ウソ。本当は全然聞いてない。そんな俺を見透かしているのか、目の前にいる芽衣は頬をぷぅと膨らませた。
「真剣に相談してるんだけど」
「真剣に聞いてるだろ」
「本当に……?」
動画を作ると発表した後、皆がホワイトボードの前で、何やら書き込みながらワイワイと騒ぐ一方。
ラウンジの椅子に座ったまま腕を組んでいる俺を、芽衣は不満ありげに見つめている。
かと思えば、俺の隣の椅子に「ヨイショ」と座った。その目は不安そうで、俺と一瞬だけ目が合っても、すぐに逸らされてしまった。
「なんだよ」
「え、っと……ありがとうって。お礼が言いたくて」
「お礼?あぁ、歌沢のことか」
言うと、芽衣はコクンと頷く。そして口角を上げて嬉しそうに笑った。
「凌久くん、素敵な提案をしてくれて本当にありがとう。どんよりした歌沢くんが、キラキラした目になったのが嬉しいし……。それに、このメンバーで何か一つの物を協力して作るって事も嬉しいの」
「……ふぅん」
「ふ、ふぅんって……」
もっと他に言う事があるでしょ!とでも言いたそうだ。
だけど、それはこっちのセリフ。俺だって、もっと他にお前に聞きたいことがあるんだよ。
「……芽衣ってさ、」
「ん?」
「この中の誰かの事、す――。いや、やっぱり何でもない」
「え、なに?気になるよ」
芽衣は、戸惑いなく俺に近寄った。あぁ、もう。しまった。考え事しながら喋ったから、余計な事を言っちまった。
「ねぇ、なに?」
「気にすんな。何でもねぇよ」
そう、何でもない。
だって芽衣は、俺にとって、ただのクラスメイトだ。
あの日、故障したエレベーターの中で。
この学園に来た理由は「運命の人を見つけるため」だと言った芽衣。そんなガキみたいな理由で?本気か?なんて思ったら、つい笑ってしまった。
だけど、そんな芽衣とデートに行くことになって……。
ん?何でそんな事になったんだっけ?
あぁ、歌沢との勝負があったんだ。歌沢の挑発にまんまと乗った俺が、無理やり芽衣を遊園地に連れて行った。行けたアトラクションは、お化け屋敷のみだったけどな。
お化け屋敷を怖がって、手を繋いでほしいと言ってきた芽衣。俺の事を苦手だと思ってるくせに、ありえねぇ力で俺の手を握ってきた。
その時から、芽衣ってよくわからねぇ奴だなって思った。俺の事を苦手なくせに、手なんか握って、ってな。
だけど、遊園地の帰り道。
芽衣の飲みかけのペットボトルを、俺が冗談半分で貰った。その時の芽衣の赤い顔を見て……少しだけ、芽衣への見方が変わった。
なんていうか、うん……そう。
俺以外の奴にも、芽衣はこんな表情をすんのかなって――少しだけ、芽衣に興味を持ったんだ。
といっても、それだけの事だ。
「それだけだった、のになぁ」
「ん?……んん?」
「はぁ……」
「な、なんでため息!?」
それなのに、ある日の俺は、とある事に気づいてしまった。それは、芽衣に好きな人がいるかもしれないという事だ。
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