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告白の返事
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しおりを挟む凌久くんへの気持ちを自覚した夕方のこと。
私は、男子寮と女子寮の共通ラウンジに来ていた。そして、私の他にも……
「いきなり招集ってやめてよ~。今日は動画の編集をしようと思ってたのに」
「お、俺は寝ている所を、無理やり起こされて!」
「……要件は?」
不動先輩、歌沢くん、楽先輩――そうそうたるメンバーが、ラウンジに集合していた。そして私たちを呼んだ張本人は一人だけ経ち、座る全員を見下ろしていた。
「要件はただ一つ。これから、このメンバーで一本の動画を作る」
おおまじめな顔で言い切った凌久くん。そんな彼の言葉に、驚いた顔をしたのが私。そして、不審な顔をしたのが……その他、大勢。
「ごめん、今日ってエイプリルフール?」
「すみません今、すごく疲れてて……幻聴?」
「……イヤだ」
で、ですよねー!というのが本音。だって凌久くん、この四人の相性が良くないのは、エレベーターの中で嫌と言うほど分かってたことじゃん。
それなのに、どうしてこのメンバーで動画?一体、何を考えてるんだろう。
私に「歌沢くんのアイドル人生を継続させる良い案がある」なんて言って、こんな展開になってるけど……。まさか、先輩方をも巻き込むとは。さすがは凌久くんと言うべきか。恐れを知らない人はすごいな。
「それで、どういう動画を作るの?」
ブーブー文句を言う皆は、一旦置いといて。私が凌久くんに説明を求めると「簡単だ」と、凌久くんがニッと笑った。次に備え付けてあるホワイトボードに、なにやら作戦を書き始める。
意外にキレイな字……じゃなくて。
作戦のタイトルは、こう。「歌沢の新曲を爆売れさるための動画づくり」――という事は、そっか。
凌久くんは歌沢くんのために、動画を作ろうとしてくれてるんだね。凌久くんの、私を助けると言った言葉は、どうやら本当だったみたい。
「歌沢が加入しているアイドルグループが存続の危機だ。新曲が売れねーと問答無用で解散らしい。合ってるな?」
「合ってます、けど……。なんで、それを知って……あ」
「あ」の時に、とっさに私を見た歌沢くん。私は「ゴメン」のポーズをした。けど歌沢くんは、怒った顔を一瞬しただけ。あとは食い入るように、凌久くんの話を聞いていた。
「歌沢の新曲について、インタビューする。司会は楽……”先輩”」
「え、俺?」
「女子がキャーキャー言いそうなコスプレして、歌沢のグループに曲の宣伝とか。そう言う系のインタビューをしてほしい」
「キャーキャーって。言い方を考えてよね、声宮くん。先輩の俺にも敬語を使わないし。そういうの悪い癖だよ」
眉を顰めた楽先輩に、凌久くんは「ふん」と鼻を鳴らすだけ。内心「楽”先輩”って言ったんだから文句いうなよ」とか思ってそう……。
空気が重くなったけど、歌沢くんが「それで」と先を促した。さっきよりも、目がキラキラと輝いている。
「動画の撮影および編集は不動……先輩。動画内におけるナレーションは、俺がやる」
「え~やっぱり俺なの?ってか、ほぼ俺まかせじゃん。一番負担が重いと思うんですけど~?」
「報酬は、売れた歌沢が何かおごってくれるらしい」
凌久くんが言うと、歌沢くんが「何でもおごります!」と言った。だけど、眉間にシワを寄せたのは不動先輩で……。
「ごめん~俺って男とご飯は行かないんだよね~」
「ひぃ!す、すみません……っ!」
不動先輩の笑顔に、心なしか青筋が入ってる気がする。エレベーターの中でも思ったけど、やっぱり不動先輩と歌沢くんの相性が悪い。それ以上に、楽先輩と凌久くんの相性の方が悪いけど。
だけどアイドル生命がかかっている歌沢くんは、以前はビクビクしてたけど、今は違った。武者震いなのか、手がフルフルと震えている。
「でも必ずおごらせてくださいよ、不動先輩。だって、皆さんと一緒に作る動画――それって、最強の動画じゃないですか!すっごくやる気が出てきました!
花畑先輩が声宮先輩に相談してくださったおかげです!花畑先輩に言って良かった……!本当にありがとうございます!」
「歌沢くん……っ」
「俺、頑張りますね!花畑先輩のためにも!」
「う、うん!」
歌沢くんが私に向かって、グッとガッツポーズを作る。完璧にエンジンがかかった歌沢くんを見て、凌久くんは「”芽以のためにも”って言葉は何かムカつくけど」と言いながら、勝ち誇った顔をした。
「俺と楽先輩と不動先輩がいて注目されないわけねーしな。俺らが総出で後押しすんだ。お前は、さっさと有名になれっての」
「はい……!」
歌沢くん、故障したエレベーターの中では、凌久くんの事を敵視していたけど……。どうやら二人、馬が合うみたい。なんだかいい感じで「先輩と後輩」のタッグが出来上がってる。
とりあえずは安心かな?と。私が気を緩めた、その時だった。
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