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運命の人

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「私……すごく、間違ってた」

「ん。知ってる」

「私の周りには、心強い人がたくさんいるのに……。その人たちの事を、全く見ていなかった」

「それも知ってる」


飽き飽きしたような返事の仕方が、なんとも凌久くんらしくて。こんな時だけど、心が和んだ。


「ねぇ凌久くん、手伝ってほしい事があるの」

「言え。なんだよ」


あの凌久くんが笑ってる。その顔を見て、今まで不安一色だった私の顔にも、やっといつもの「私らしさ」が戻って来た。

「あのね」と笑みを浮かべる私。そんな私を、凌久くんは、もう睨んだりしなかった。


「私の友達を、一緒に助けてほしい。

どうしても助けたいの。私一人では無理だから、力を貸してください」

「――上等」


笑っていた凌久くんは、更に口角を上げた。黒い髪がサラッと揺れるくらいに、ほどよく顔を傾けながら。

だけど「その前に」と。座る私と目線を合わせるためか、私と向かい合うようにして、凌久くんも座った。


「一つだけ質問に答えろ」

「へ?なに?」

「歌沢の事、どう思ってんだよ。さっき友達って言ってたけど、それ……本当かよ?」

「!」


――私の友達を、一緒に助けてほしい


「(何を言われるかと思ったら……)」


顔を少しだけ赤らめながら。凌久くんが言ったのは、こんな事。思わず体の力が抜けた。


「そ、そんな事……。何を聞かれるのかと思ったよ」

「いいから答えろ。で、どうなんだよ」

「好きだよ。でも……ファンとしてだよ」

「ファン?じゃあ、鞄についてるあのデカい人形は、」

「うん、ファンだから買ったの。他に理由はないよ?」


そう言うと凌久くんは、「へぇ」と驚きながら返事をした。なに?その反応……。そう思っていると、「もう一つ」と。今度は、なにやら怒った顔で質問をしてきた。


「あのチャラい奴が言ってたぞ。芽衣に”キスの件をよろしく”って」

「チャラい?キス……?」

「朝、一緒に情報の宿題したんだろ?」

「(あぁ!不動先輩の事か!)」


ポンと手を叩いた私。そんな私を見た凌久くんが「キスに覚えがあるのかよ……」と、一気に顔を青ざめた。


「ち、違うちがう!宿題を教えてくれたのは本当。キスの事は、不動先輩が、ただ私をからかっただけ!」

「……」

「ほ、本当だって!」


何やら疑われているようなので、必死に「違う」と伝える。すると凌久くんは、何とか納得してくれた。


「まぁ、あのチャラい奴の言いそうな事だよな。冗談っぽいって最初っから分かってたっての」

「は、はは……」


すごく強がりに聞こえるのは、気のせい……かな?

少しだけくすぐったい感覚を覚えた私。ドキドキしながら、ぎこちなく笑う凌久くんを見た。

すると凌久くんは「仕方ねぇなぁ」と、私の頭にポンと手を置く。


「じゃあ許す」

「え?許すって、」

「アイツの問題。しっかり手伝ってやるって、そう言ったんだよ」

「っ!」


それだけ言うと凌久くんは、まるで「ついて来い」と言わんばかりに階段を下り始める。

その時、凌久くんと繋がっている赤い糸が、ふわふわと二人の間を所在なく漂った。

漂っている様子が、どこか戸惑ってるように見えて……。なんだか、今すぐにでも凌久くんの指から離れていきそうで。

そんな不安定な赤い糸を見て、急にソワソワし始めた私は「凌久くん」と。目の前の彼を呼び止める。
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