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運命の人
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しおりを挟む「お前の中で正解を出せなきゃ、アイツは確実にアイドル人生が終わるぜ?
お前が首を突っ込んだことなら、お前のが何とかしてアイツを救って見せろよ」
「正解……?」
「そーだよ。どうしたらアイツのアイドル人生を継続させられるか。アイツに頼りにされてるんだから、芽衣がしっかりしないとな?」
「~っ」
本当に、その通りだ……。歌沢くんは、一抹の望みをかけて私に頼んでくれた。そんな私が「どうしよう」って悩んでたんじゃ……歌沢くんのグループは、確実に解散になってしまう。
「(どうしよう……どうしたら……っ)」
「……」
目がグルグル回って、地に足がつかない錯覚を覚える。何かを考えているはずなのに、実際のところ、何も考えられていない。
ただ凌久くんに「何かを考えている私を見せる」ための――今の自分は、そんなパフォーマンスをしている操り人形のように思えた。
これじゃあ、どうしたって……歌沢くんを救えない。
「(どうしよう……っ)」
「……はぁ」
すると、凌久くんがいつものため息をついた。そして少し屈んで、私の頭に、自身の頭をくっつける。
そして、何をするかと言うと、
ガンッ
「いっ!?」
思い切り、私の頭に頭突きをした。
「いったぁ~っ!!!!な、なにしてんの、凌久くん!?」
あまりの衝撃にしりもちをつく。そんな中、痛みに悶絶する私に、凌久くんは涼しい顔で「知らねーよ」と言った。え……「知らない」って、あんまりじゃ……。
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「石頭……」
「昔から頭は硬ぇんだよ」
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「俺はな、”一人で抱え込んでるお前”なんて知らねーよって。そう言ったんだぞ」
「へ?」
「一人で抱えてウジウジしやがって……。一回、目を覚ませ。そして周りを見ろ。
お前の周りには、自分一人しかいねーのかよ?」
「!」
その時、ぶわっと。心地よい風が吹く。
その風が脳まで回って……私はやっと、目が覚めた。
「そうか、私……」
何か突破口を見つけたらしい私を見て、凌久くんはニヤリと笑う。
「芽以って、頼れる奴が周りに一人もいねーの?ちげーだろ」
「違う、けど……。私が何とかしなきゃって、そう思って……」
すると凌久くんは「バカだなぁ」と呆れた顔をする。
そして、
「お前は一人じゃないだろ?」
そう言った。
「(その言葉は――っ!)」
むかし凌久くんが演じた役のキャラクター。私が声優の凌久くんを好きになった「きっかけ」のキャラクターだ。
そして、さっきの凌久くんの言葉は、そのキャラの台詞。この台詞を、当時の私は何回も聞いた。
「(あぁ、そうか。私……思い出した)」
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さっき、
――そう言えば、前にもこんな感覚があったような
って思ったけど……思い出したよ。その時の事を。
そう、女子グループから外された時。あの時も、こんな状況だったんだ。
『芽衣ちゃんって、私たちを頼ってくれないよね?』
『なんで何でも相談してくれないの?』
『親友でしょ?もっと色々、話してよ!』
それでも変わらなかった私に、しびれを切らした友達が言ったんだ。
『芽衣ちゃんきらーい。行こう、皆』
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その事実に悲しんでいた、あの日。
凌久くんが演じるキャラの、あの言葉に助けられたんだ。
【 お前は一人じゃない 】
そして時は流れて、再会した今――凌久くんは、また、同じ言葉で私を救ってくれた。
ありがとう凌久くん。私、今度こそ選択肢を間違えないよ。
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