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運命の人

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「う、歌沢くん!私の方で、案を練ってみるから……今日のところは休んで。ね?ひどいクマだよ。あまり寝れてないんじゃない?顔色も良くないし……」

「確かに……。最近、全く寝れません……」


言いながら、既にフラフラしている歌沢くん。「めまいがするので、とりあえず保健室に行ってもいいですか?」という彼の手を握る。


「歌沢くん。めまいがするなら、私が送って、」

「っ!」


だけど、顔を赤くした歌沢くんに、パシンと――私の手が叩かれる。その時の歌沢くんの表情は、少し怒っているようで……。

あ、あれ?私……何か、悪い事をしちゃったかな……?


「う、歌沢くん?」

「すみません、一人で行けるので……大丈夫です」

「わ、分かった……気を付けてね」


トボトボ歩く、寂しそうな彼の背中を見送る。その間も、歌沢くんに叩かれた手がジンジンと疼いて……なかなか治まらなかった。


「は……はぁ~……」


ズルズルと、座り込んでため息をつく。歌沢くんに何か言葉をかけなきゃって必死だったけど……さっき私、なんて言った?


――私の方で案を練ってみるから、今日のところは休んで。ね?


「なんで、そんな事を言っちゃったの……。本当に、私に出来るのかな……?」


私が歌沢くんを救えるのかな。何か、役に立てるのかな。

いや、違う。何か良い案を出さないといけないんだ。

だって、そうしないと歌沢くんのアイドル人生が終わってしまうのだから――


「でも、どうやって……」


CDを持って打ちひしがれていた時だった。後ろの方で「おう」と声が聞こえる。この声は……もう聞き間違えるはずがない。


「凌久くん……」


なぜか、この場にいた凌久くんに、思わず動揺する私。そんな私を悟るように、凌久くんは「ハン」と鼻で笑った。


「人の人生のターニングポイントに、気軽に足を踏み入れた気分はどうだよ?」

「き、気軽にって……私は、別にそんなんじゃっ!」


すると凌久くんは大きな声で「ちがわねーよ」と、そう言った。


「お前が今してるのは、そういう事なんだよ」

「っ!」


力強い眼差し。私を射抜かんとする、眼光の鋭さ。どうやら凌久くんは、私に怒っているらしかった。彼の怒気が、全身から溢れている。その雰囲気に、私は緊張してしまって……思わずゴクリと唾を呑んだ。


「わ、私は、ただ……歌沢くんの力になりたくて……っ」

「全部がぜんぶ、誰かのためになるかってったら、そうじゃねーだろ。なんでアイツが、さっきお前の手を振り払ったか分かるか?」

「え……」


確かに。さっき、歌沢くんは私の手を叩いた。それも、力強く。赤くなった彼の顔が、少し怒って見えて……。

それは、なんで――?

いつまでも答えが出せないでいると、凌久くんは浅く息を吐いた後に、正解を教えてくれた。


「好きな人に、自分の全てを支えられるのが恥ずかしいんだよ。アイツ」

「そ、そうなの……?」

「ま。男なら、誰だってそう思うもんだ」


そう言って、凌久くんは途中まで登っていた階段を登りきる。そして、私の目の前に来た。

さっきの歌沢くんよりも、やや高い身長。私がずっと探していた、運命の人。

その運命の人は、決して私を甘やかしたりしなかった。今までで一番に真剣な凌久くんの顔が、私の背筋をシャキッと伸ばす。


「こんな重い問題を、お前一人に相談したアイツはアホだ。まだまだ未熟なんだよ。経験が足りねぇ」

「そ、そんな風に言わなくても、」

「けどな」


凌久くんは、さっきと同じように。私を鋭い瞳で睨んだ。その瞳から「いい加減、目を覚ませ」と。そう言われている気がした。


「そんな大きすぎる問題を、一人でなんとかしようと抱え込むお前も、充分アホで未熟なんだよ」

「なっ!」

「人の人生を、自分の手で変えられるって思うんじゃねーぞ。己惚れるな、芽衣には芽衣の”出来る上限”ってのがあんだよ。そこをはき違えるな。お前の手で救える事なんて、限られてんだからな」

「っ、……」


図星だった。確かに、凌久くんの言う通りだ。

安請け合いしてしまった――と。歌沢くんの姿が見えなくなって、実感した。そして、不安になって怖くなった。私一人で、一体どうしたらいいんだろうって……。


「(あれ?)」


そう言えば、前にもこんな感覚があったような――

物思いにふけていると、凌久くんは「それで、正解は?」と私を見降ろした。
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