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運命の人

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だけど、有難いことに。そんな挙動不審な私を、「まあいいけど」とスルーしてくれる凌久くん。腰に手をあてて、窓の外の景色に目をやりながら……なにやら気まずそうに聞いてきた。


「寝込んでた時に……俺、何か喋った?」

「え、何かって……」

「いや……その……、あ~!やっぱ、なんでもねぇ!」


髪の毛をグシャリとかき乱して、凌久くんは私の前からいなくなる。少し焦ったような彼の背中を、私は見えなくなるまで見つめた。


「(もしかして、私に色々喋った事……覚えてないのかな?)」


風邪を引いた事で、昔のトラウマを思い出して、凌久くんが泣いちゃった事……。熱で覚えてないなら、その方がいいよね?凌久くんは、思い出したくないだろうし。

そう思って納得した時。鈴ちゃんが、私に声を掛ける。


「め、芽衣ちゃん……っ」

「ん?どうしたの、鈴ちゃん?」


すると鈴ちゃんは「あ、あれ……」と教室のドアを指さした。すると……ニット帽をかぶってサングラスをした人が、顔の半分だけを覗かせて、じーっと私を見ていた。挙動不審感、満載。


「め、芽衣ちゃんを呼んでほしいって言われたんだけど……。でも、あの人……不気味じゃない?」

「(デジャブだ……)」


不気味な人の検討がついたため、鈴ちゃんに「大丈夫だから」と言って、ドアに向かう。そして「お待たせ歌沢くん」と小声で言うと……


「は、はなばだげじぇんばい……っ」


涙でグシャグシャにした顔の歌沢くんが、大きなサングラスの隙間から見え隠れした。


「これもデジャブだなぁ」なんて思いながら、どうして泣いているのか、理由を聞く。


「お、お話が、あって……き、きました……っ」

「話?私に?」

「花畑先輩にしか、頼れる人が、いなくて……っ」

「歌沢くん……」


人目を顧みず大泣きしているところを見れば……ただ事じゃないみたい。場所を変えた方がいいと思って、二人きりになれる場所へ移動をしていた、その時。


「ん?あれは……芽衣?」


廊下にいた凌久くんが、目ざとく私たちの姿を見つける。そして静かに、あとをつけていたのだった。

と、そんな事は知らない私たち。人気(ひとけ)のない階段の踊り場で、向かい合って話をした。


「な、何があったの?歌沢くん……」

「う、うぅ……実は……っ」


二ッと帽子とサングラスをとった歌沢くんの顔は、アイドルらしからぬ……すごい顔だった。ファンの子たちは「どんな顔だってみたい!」と言うだろうけど……この顔は、ダメだと思う。


「じ、実は……プロデューサーから”次の曲が売れなかったら解散だ”って。そう言われて……っ」

「え!か、解散!?」

「どうしまじょう~花畑先輩~!!」

「(ど、どうしましょうって言われても……っ!)」


う、歌沢くん!相談する相手を間違えてるよ!

こういうのは普通、メンバーの人達と意気投合して「やってやんぜ!」みたいな雰囲気になって、その努力を認めてもらって、晴れてグループ継続☆ってのが、お約束なんじゃないの!?

だけど、歌沢くんの話を聞いていると……。思わぬところに、落とし穴があった。


「ぐ、グループの皆は、なんていうか、あまり……やる気が、なくて」

「へ?」

「ダメでもともと、とか……むしろよくここまでやれた、とか……。もう全部終わったような、お祭り騒ぎをしていて……」

「お、お祭り騒ぎ……?」


って事はアレ?すごく熱心にアイドルをやっていたのは歌沢くんだけで、後は楽しめればそれでいいや的なピープルの集まりだったって事?


「それは……辛かったね、歌沢くん」

「うっ、俺、もう……どうしたらいいか、わからなくて……っ!」


ボロボロと、次から次に涙を落とす歌沢くん。そんな悲しみにくれる歌沢くんを見ていると、私まで悲しくなってきて……。

だけど……先輩の私が、ここで泣いちゃダメだよね。

歌沢くんは、せっかく私を頼ってきてくれたんだから!!


「歌沢くん、新曲っていつ発売なの?」

「い、一週間後です」

「新曲の見本って、ある?」

「いっぱい、あります!ありまくってます……!」


新曲のCDを、私に渡してくれる歌沢くん。「上手くないですけど」という一言と一緒に。

歌沢くんは、学校でのモテる自分と、アイドル界での売れない自分のギャップに悩んでいた。その悩みの種が、このCD一枚に集約されている――そう思うと、


「(ゴク……ッ)」


たったCD一枚が、すごく重たく感じた。
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