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不動先輩とパソコン室

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「キャー!不動先輩~!」
「ルイ先輩がいるー!」
「なんで二年の教室に~!?」


なんと不動先輩が、私の教室に来ていたのだった。その手には、私の名前が書かれた情報の宿題プリント。


そう、先輩とのキスシーンの話で慌てた私は、せっかく不動先輩に教わって完成させたプリントを、パソコンの横に忘れていたのだった。

それに気づいた不動先輩が、わざわざ私の教室に届けてくれたんだけど……

私は不在。そんな私の代わりに不動先輩に対応したのは、なんと凌久くんだった。


「三年が俺のクラスになんの用だよ」

「先輩には敬語を使おうね、声宮くん?」

「……チッ」


先輩にも変わらない態度で接する凌久くん。だけど、次に不動先輩が話した言葉により――その表情は、一変する。


「これ、芽衣ちゃんに渡しといて。朝せっかく一緒に終わらせた宿題を、忘れて行ったからさ」

「は?朝?」


不審がって、眉をピクリと動かした凌久くん。そんな彼を、不動先輩は見逃さなかった。

「ふふ」と意味深に笑った後に、凌久くんの耳に顔を近づける。そして、


「あと、キスの件よろしくねって。それも伝えといて」

「……は?」


ヒソヒソ声だった不動先輩とは違って、凌久くんは大きな声で「どういうことだよ」と先輩を睨む。

まさか王子同士のケンカ!?と、周りのギャラリーはスマホを片手に、ゴクリと息を呑んだ。

だけど、そこはやっぱり不動先輩というべきか。


「ほらほら、そんなに熱くならない。詳しくは芽衣ちゃんに聞きなって」


そう言って、凌久くんの肩をポンと叩く。だけど……不動先輩は、凌久くんに触れた自分の手をジッと見た。そして、


「ねぇ凌久くん。本当に熱くない?大丈夫?」

「あ?なにが」

「まぁ、大丈夫そうだからいっか」


頭をコテンと横に倒して、いつもの笑みを浮かべた不動先輩。そして「じゃーね~」とギャラリーと一緒に、教室から去って行った。

凌久くんは「何だったんだよ」とポツリと呟いた。その後に、私の机上にプリントを置く。

その時に眉間に皺を寄せて、


「キスの件って何だよ……」


と、苦々しく口にした。

なんて。

そんな事があったなんて、知らなかった私。トイレから帰った後、机上に情報のプリントがある事に気づく。

そして「あ、ここにプリントあったんだ~」と呑気に笑っていたのを、凌久くんがため息をつきながら見ていたのだった。



その日の帰り道。


帰り道、と言っても。私は寮だから、寮の玄関で靴を閉まっていた。

その時、後ろから人影が見える。足音もなく、静かに――


「え?」


急に現れた影に、思わずビックリする。そして急いで後ろを振り返った、のだけど……


「はぁ……はぁ……」

「り、凌久くん!?」


寮の玄関にもたれかかる凌久くんの姿。浅い息を何度も繰り返し吐いていて、いかにも苦しそう。

「え、どうしたの!?」


慌てて凌久くんくんに駆け寄る。すると、顔が真っ赤になった凌久くんが、私の手を取って、

パシッ

潤んだ目で私を見て、こう言った。


「風邪……引いたかも」

「え!?」


か、風邪を引いたって……!でも、帰りの会の時は、普通だったよね!?


「まさか、ずっと調子悪いの我慢してたの!?」

「うるせぇよ……耳元で大きい声だすな」

「そ、そんな事言ったって、」


その時、私は寮母さんがいつもの部屋にいないのを知る。ドアには「職員室で会議中」となっている。

ということは、寮にはいないって事だよね?


「凌久くん……これから私のする事を、怒らないでね」

「……あ?なんて言った……?」

「お邪魔しますって、そう言ったの」


熱のせいで理解が追いつかず、ハテナマークを浮かべる凌久くん。そんな彼の腕を、私の首にグイと回す。


「捕まっててね!凌久くん!!」

「う、うるせぇ……」


目指すは、凌久くんの部屋。

この病人をベッドに寝かせるために――

私は再び、男子寮に足を踏み入れた。
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