抜けがけ禁止×王子たちの溺愛争奪戦

不動先輩とパソコン室

３

「さっき不動先輩は”俺のためだけの動画”って言いましたけど……。私のための動画でもありますよ」


言うと、不動先輩は首を傾げる。「なんで？」と聞く声は、本当に不思議そう。


「だって動画の中の不動先輩、すごくキラキラ光って見えます。すごく楽しそうです。そんな先輩を見られるのは、楽しいし嬉しいです。元気を貰えます！だから先輩の作ってくれる動画は、私のための動画にもなるなぁって。そう思ったんです」

「芽衣ちゃん……」


不動先輩は、驚いた目で私を見た。そして次に、動画の中の自分を見る。ニコニコ笑って演技をしている自分を指さして、


「俺、キラキラしてる……？」


と、不動先輩に似合わない、不安そうな顔で、私に尋ねた。

その顔を見てると「もちろん！」って言葉と共に……思い切り、その背中を押してあげたい衝動に駆られる。


ポンッ


「自信を持ってください、不動先輩！先輩は先輩にしか出来ない事をやり遂げ、多くの人を魅了しているんです！先輩の動画で元気になる人が、たくさんいるんです！」

「っ！」

「(……いつもニコニコ笑っていた顔の裏で、先輩が悲しい過去を背負っていたなんて。全然知らなかった)」


目指していた将来を断ち切られる――理由はどうであれ、それは辛く悲しいこと。

だけど不動先輩は、ずっと演技を続けている。俳優は諦めたけど、演技を続ける事は諦めてない。

それは、とても、カッコイイ事。


「私、今まで先輩の事を誤解してました。不動先輩は女の子にしか興味がないのかと思ってましたが……違うんですね。

先輩が本当に大好きで、一途に思ってるのは――演技。その一つだったんですね」

「ッ！　うん……そうだよ」


そうだよ――と笑った時の先輩の顔が、すごく優しい。キラキラした光を放っていて……たくさん輝いている。

そんな先輩の顔は大人っぽくも中学生っぽくもなかった。夢を追いかける人の顔――私には真似出来ない、素敵な顔。


「先輩、いつか私もリクエストしていいですか？もっと色んな先輩が見たいです！」

「もちろんだよ～♪芽衣ちゃんになら、裸の俺も見せるよ？」

「じょ、冗談でもやめてください！」


顔を真っ赤にして拒否する私を、不動先輩は「可愛い♪」と言った。

その時。

不動先輩のスマホが、ピロンと音を立てた。スマホの画面に目を通した不動先輩は「へぇ」と、ニヤリと笑って見せる。


「何かあったんですか？」

「芽衣ちゃん、良いニュースだよ♪」

「良いニュース！なんですか！？」


ニコニコ笑う不動先輩につられて、思わず私もニコニコしてしまう。だけど、先輩の口から出た言葉は……


「次のリクエスト、なんとキスシーン！キスしてる時の演技をしてくれってさ」

「キ、……ん？」

「でも、俺一人じゃ限界あるでしょ？こういうのは、相手がいてなんぼだし……。だから芽衣ちゃん！俺を助けると思って、キスシーンに付き合ってくれない？」

「へ！？」

「フリだけだから♪俺を助けるためだと思って、お願い！」


パンッと両手を合わせて拝まれたら……助けてあげたいって、思う。だけど、


「（キスした事ないから、練習台にならないと思うんだけど……！？）」


だから断るしかない。すみません、先輩！

だけど、先輩とキスのフリをしなくていい理由が出来たと、安心する。

だってファーストキスは好きな人と……でしょ？それだけは譲れないもん！例えフリだけだとしても！


「芽衣ちゃん？じゃあ早速、今から」

「い、いえ！私には荷が重くて！あ、あの、教えてくださってありがとうございました！」


ビューンと効果音がつきそうな速さで、情報処理室を後にした私。そんな私を、不動先輩がクスクス笑って見ていたのだった。



それから少し時間が経ち、昼休み――



私と鈴ちゃんがトイレに行っている間に、私のクラスでは騒がしい事が起きていた。