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不動先輩とパソコン室

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「先輩ってパソコンの事、いつも独学で勉強されてるんですか?」

「今は便利な世の中だからね。ネットで調べれば大抵の事は解決するよ」


カチカチとマウスを操作しながら答える先輩。あ、こういう仕草は、中学生に見えないな。


「へーすごいですね。あ、先輩の動画がスゴく人気だって聞きました!一人で作られてるんですか?」

「うん、全部オレの手作り。良かったら見てみる?」

「はい!」


すると不動先輩は、慣れた手つきでキーボードに文字を打つ。すると、瞬く間に色んな動画が出て来た。全てのサムネイルに、不動先輩が写っている。


「これが俺の作ってる動画」

「わ~!すごい」


一つの動画を、二人で見る。動画の内容は、視聴者から出たお題に、不動先輩が答えていくというものだった。

愛の言葉を囁いて、とか。
告白するなら、どんな風に?どか。
彼女の誕生日には何をする?とか。

それらのリクエストに、不動先輩がセリフだけ答えたり、たまに演技込みで答えたり――

不動先輩のファンからしたら、そりゃもうお宝みたいな動画が出来上がっていた。


「不動先輩って、演技が上手なんですね。すごい、見入っちゃいます」

「もっと褒めていいんだよ~♪」


ルンルンな不動先輩に、私もニコニコ。だから、何も考えずに言葉が出た。


「まるで俳優さんみたい」と。


すると、今度は不動先輩がピシッと岩のように固まって、動かなくなってしまった。笑顔が、曇っている。


「えと、あの……不動先輩?」

「……」


俳優――という言葉を出した途端。不動先輩の顔から、笑顔が消えた。

いつどんな時だって、先輩はニコニコ笑っているのに。エレベーターが故障した時だって、不動先輩だけは笑っていたのに……。

そんな不動先輩から笑顔が消えるなんて。私、なにかイケない事を言っちゃったかな……?


「あ、あの、不動先輩……。せ、先輩は機械が得意なんですね!尊敬します。私は全然なんで」


って、違うちがう。そんな事を言いたいんじゃなくて!

だけど、こういう時。

相手のテリトリーに踏み入っていいものか。踏み入らないべきなのか。その正解が分からない。


すると不動先輩は、パソコンの画面を見たまま、片手は自分の顎の下に。そしてもう一方の手は、私の頭を撫でながら――

少しだけ口角を上げ、喋り始めた。


「俺は、本当にやりたかった事が出来なかったからね。せめてこっち(動画)は極めようって思ったんだ」

「本当に、やりたかった事?」


聞き返すと、先輩は私を見てニコリと笑う。無邪気な笑顔じゃなくて、優しくて……ちょっぴり悲しそうな笑顔。


「俺ね、元は俳優志望なんだ。だけど、常に自由に表現したい俺からしたら、俳優は難しくてさ」


――でも監督、この場面は、
――いいから!監督の俺の言う通りにすればいいんだ!


「俺の演技力は高かったけど、他の人と衝突する事が多くてね。俳優業界は繋がりが命なところがあるからさ。俺みたいな奴は、すぐに業界から弾かれるんだよ」

「不動先輩……」


不動先輩は、私を見てニコリと笑った。その時に不動先輩の口元にあるホクロも、つられてツイッと上がる。


「俺の動画作りはね、昔の俺を供養するためだよ。色んな役を理想の演技でやってみたいっていう俺の欲求を、視聴者からのリクエストを受けて消化しているんだ。

だから――

この動画の始まりから終わりまで、俺のための動画。俺が俺のために捧げる動画なんだ」

「自分のための、動画……」

「そう。一見、視聴者のための動画に見えるけど……違うんだよ。まぁ、俺の自己満動画ってとこかな!」

「じ、」


自己満動画……って。そんな言葉を初めて聞いた。

だけど確かに、動画の中の不動先輩はすごく楽しそう。イキイキしてるっていうか、全力で楽しんでるっていうか。

そんな先輩の伸び伸びした演技に、視聴者の皆が、どんどん不動先輩の事を好きになる。そして虜になっていく。

「ファンが増える=素敵な事の連続」って、そう思えた。
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