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楽先輩と部屋で二人きり

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逃げるように、凌久くんが先にベッドから降りた。そして私をみないまま話し続ける。


「寮母さんは、これから別の階に行くはずだ。今なら玄関に誰もいねぇ。その隙に、早く部屋に戻れ」

「え、あ……うん」


頷いた時に、凌久くんが少しだけ私の方へ振り返る。その時に、彼の黒髪がひらりと揺れた。

そして、私と繋がっている赤い糸も――

私は赤い糸に目をやりながらも、ドアへ急ぐ。


「お、お邪魔しました」

「ん……もう来るなよ」

「も、もう来ないもん」


廊下に誰もいない事を確認して、パタンとドアを閉める。

ドアが完全に閉まる前、私を見ていた凌久くんの顔が、少し赤いように見えたのは……気のせいだったのかな?


「(あ、ドアに声宮ってネームが貼ってある。ここって凌久くんの部屋だったんだ)」


だから寮母さんも、凌久くんがこの部屋にいても何も言わなかったんだね。ん?待てよ。ってことは……

さっき私が寝転がったベッドって……凌久くんがいつも寝起きしてるベッド?


「(って、何考えてるの、私……っ)」


自分の中の変な気持ちをパッパッと消すように。誰にも見つからないように、最新の注意を払って女子寮に戻る。そして無事に、自分の部屋に帰ることが出来た。


「なんだか、色々あった一日だったなぁ……」


寮は普通は相部屋だけど、私は一人きり。寮希望の子が少ないんだって。そう言えば、凌久くんも……だよね?ドアに凌久くんのネームしかなかったし。


「って、なんで凌久くんの事ばっかり考えてるの私……」


短時間で凌久くんの色んな表情を見ちゃったから、頭の中がパニックになる。


「化粧似合ってる」って私を褒めたのも、
いきなり「名前で呼べ」って言ったのも、
帰り際、凌久くんが赤くなっていたのも――。


全部ぜんぶ、いつもの凌久くんっぽくなくて混乱する。

あ、だけど、


「そんな凌久くんは、嫌いじゃなかった……かな?」


ドキドキ鳴る心臓に手をあてる。すごい速さ……。ドドドドって、太鼓を連打しているみたい。全身も熱いし、汗ばんでるし。


「いやいや、落ち着いて。私……っ」


ため息一つついて、勉強椅子に座る。すると、目に入るのは――


「私の好きな漫画、と……情報の宿題プリント!?」


しまった!情報の宿題はパソコンがないとできないんだった!学校のパソコンを使わせてもらおうと思ってたのに、すっかり忘れてたよ!


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仕方ない。月曜の朝、早く行って学校のパソコンを使わせてもらおう。パソコン苦手だから、憂鬱だなぁ……。

すると、ちょうどいいタイミングでスマホが鳴る。見ると、鈴ちゃんから電話だった。通話ボタンを押すと、いつもの癒される鈴ちゃんの声が聞こえる。


『もしもし芽衣ちゃん?もし良かったら明日一緒に遊びたいなって、』

「す、鈴ちゃん~」

『え、どうしたの?芽衣ちゃん』


いつもの声に思わず安心した私は……自分一人では抱えきれなくなった思いを、鈴ちゃんに話す事にした。

歌沢くんと楽先輩から、告白をされたこと。そして、凌久くんとあったあれやこれや……。

悩みながら話す私とは対照的に、電話口の向こうでは鈴ちゃんが「え~!」、「きゃあー!」って。鈴ちゃんが、なんとも乙女らしい声を出したのだった。
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