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楽先輩と部屋で二人きり

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「俺ね、屋上で君の姿を見て、勇気を貰って、それから……。いつの間にか、学校で君の姿を探すようになったんだ。

そして何度か見かけるうちに、偶然にも君の名前を知った。そして……あのエレベーターの中で、初めて話すことが出来たんだよ」


――楽先輩、私の事……知っているんですか?
――うん


「嬉しくて、楽しくて。もう一度、芽衣ちゃんと話したいと思ったんだ。それで、急にケーキ屋に行こうなんて誘ってしまって……。

ごめんね。俺が芽衣ちゃんと一緒にいたいがあまり急に誘ったもんだから……困らせちゃったよね。連絡先を交換した時から、俺に対してすごく気を遣っているように見えたから」

「い、いえ!困るだなんて、そんな」


あれは「楽先輩とデート」って意識しちゃって、勝手に私が緊張しただけだから、先輩は何も悪くないんです!――と素直に言えなくて。

だからか。先輩は落ち込んだ顔のまま、続きを話す。


「今日、女同士なら花畑さんも困らないかなって……そう思って女性のコスプレをしたんだ」

「そう、だったんですか……」


楽先輩、そこまで私の事を考えてくれてたなんて……。

だけど、楽先輩は「でもなぁ」と。困ったように、拗ねたように。薄い唇を尖らせる。


「こっち(女性)の方ばかり気に入られるのは、ちょっと嫌かも」

「え?」

「俺が俺に……嫉妬しちゃう」

「!」


そ、そんな可愛い事を言うなんて……!先輩なのに、私よりも体が大きい楽先輩の事を「可愛い」なんて。そう思ってしまった。

だけど、そんな私に畳みかけるように。楽先輩は私に近づく。

そして――


「コスプレの俺じゃなくて……俺自身を、芽衣ちゃんに好きになってもらいたいって。そう思ってるんだ」

「……え?」

「好きだよ、芽衣ちゃん。俺がかわるきっかけをくれた君を、あの日から、俺はずっと好きなんだ」

「へ、」


へ――!?


突然の言葉に、一気に顔が赤くなる私。だけど、混乱する私に楽先輩は……


「だからね、さっきみたいに。俺にこうやって唇を触られたらね、」


と、さっきの繰り返しみたいに。楽先輩は、また私の唇に触る。

ツツツと私の唇をなぞる楽先輩の指先が、なんだか熱くて。触れられた箇所から、熱がジワジワ私に伝染する。

すると、そんな私の変化に「くすッ」と笑ったのは楽先輩。


「そう、良い子」


と、耳元で私を甘やかし、溶けるまで褒める。


「俺に唇を触られたら、くすぐったいって思うんじゃなくて。赤くなって、恥ずかしがって?そして俺に……

いっぱいいっぱい、ドキドキするんだよ?」

「は、はぃ……っ」


この時、楽先輩が初めて意地悪っぽく見えた。だけど声宮くんとは違う意地悪。優しくて、ドキドキする意地悪。

私は恥ずかしくなって、鏡から目を背ける。ドキドキ、バクバク、オロオロ――

どうしたらいいか分からなくて、私は「今日はこの辺で帰りますね!」と、急ぎ足で楽先輩の部屋を出た。


バタンッ


一人取り残された楽先輩は、顔を両手で覆いながら、


「怖がらせないように、女性のコスプレをして会ったのに……。今、この時に迫って怖がらせて、どうするの。俺のバカ……っ」


と、一人反省会をしていたなんて。

もちろん、そんな事は知らない私。

急いで女子寮に戻ろうと、とにかく男子寮を走っていた。だから、気づかなかった。

先の曲がり角から、ある人が、

姿を見せようとしていたなんて――


「え!?」
「は?」


ドンッ


急に現れた目の前の人に、思い切りぶつかってしまった……。

い、痛い……。でも、私が痛いって事は、ぶつかられた人も相当痛いんじゃ!?

そう心配して「大丈夫ですか!?」と顔を上げた時だった。


「いってぇな、おい。何やってんだよ、早くのけ、ろ……って、芽衣?」

「こ、声宮くん!?」


なんと、ぶつかって私が押し倒してしまった相手は、声宮くん。

さっきまで怒った顔をしていたのに、今では「何で男子寮に?ってか、その顔」と驚いた目で、私を見ていた。


「えっと、別に不法侵入とかじゃなくて、これにはワケがあって……っ」

「ワケ?……! おい、静かにしろ」

「むぐッ」


いきなり、声宮くんに口をふさがれる。声宮くんの手によって、私の手はスッポリ覆われた。声宮くん、手が大きい……。

じゃなくて!

誰かの声を聞いた声宮くんは、だんだんと顔色を変える。そして顔の青みがだいぶ増したところで「チッ」とお決まりの舌打ちをかました。


「おい、芽衣」

「な、なに?」

「今からとんでもねー状態になるけど、絶対に声を出すなよ」

「と、とんでもない状態?」


って、なに?

そう聞いたけど、声宮くんは「急げ」と言って、一番近くにあった部屋の中に入る。そしてベッドに私をボフッと寝かせると、声宮くんも私の隣に寝転んだ。


「ん!?」

「バカ!静かに!」

「(そ、そんな事言ったって!)」


二人の体の上に、器用に布団をかぶせる声宮くん。そして「絶対に声を出すな」と私に囁いた、同時刻。

コンコン、バタンーーと。ノックの後に、部屋の扉が開いた。そして静かに部屋の中に入って来た人。

その人は――
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