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楽先輩と部屋で二人きり

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「前、不動くんが自分の部屋のドアを開けて生の動画配信しててさ。その後ろを、何も知らない俺が通ったら、視聴者からすごい反響が良かったらしくて……。

それから不動くんは、どんな場所であろうとも、俺が通りそうな場所を陣取って、生の動画配信するんだよ」


「それで機材があちこちにあるんですね。にしても、不動先輩の執念ってすごい」

「恥ずかしいからやめてって、いつも言ってるんだけどね」


そう言う楽先輩の顔に、怒った表情は見られなかった。むしろ、柔らかく笑っていて……。心が広いなぁ、って思う。昨日の声宮くんの件があったから、余計に。


「不動先輩にクレームとかは……?」

「言わないよ。だって、動画配信って視聴者数が全てでしょ?俺が一瞬だけ写る事で不動くんの役に立てるなら、そこに波風を立てようとは思わないかな」

「楽先輩……」


や、優し過ぎるよ……。普通、プライベートの自分を知られるのって嫌じゃない?

しかも不動先輩の視聴者って、何人いるんだろう。有名人だから、かなりの人数だと思うけど。その人数に「見られてもいい」なんて……尊敬しかない。

そんな事を思っていると、楽先輩が「こっちだよ」と手招きしてくれる。そうだ、これからお化粧の勉強をするんだった!

「お邪魔します!」と勢い良く入った私。そして一気に目を奪われた。なぜなら――


「おっきいミシンがある!それに、そのミシンで作られたっぽい服や帽子!全部かわいい!それにカバンや、ウィッグ、靴の種類もすごいです!」


私の言葉に、楽先輩は面食らったような顔をした。だけど照れたように笑って「良かった」と、私を座布団の上に座るように促す。


「本当はね、俺……ずっとドキドキしてたんだ」

「ドキドキ?何に、ですか?」


尋ねると、楽先輩は自分自身を指さす。そして次に、この部屋全体を示すように、両手を広げた。


「俺自身と、この部屋を花畑さんに受け入れてもらえるか。デートをする約束をした日から、ずっと不安だったんだ」

「(今サラッと”デート”って言った!)」


じゃなくて。「デート」の件は、また後で聞くとして――

楽先輩が、そんな事を思っているなんて知らなかった私。そんな私の目の前に、いつの間にか小さなテーブルがセットされる。そして、そのテーブルの上に、スゴイ数のメイク道具が並べられた。

「わあ!」と感動する私の声に、楽先輩はふッと笑みを浮かべる。だけど、お化粧の説明は後回しらしい。

私の顔に使ったお化粧は、違う場所へ置いていく。その行為を繰り返しながら、先輩の手によって、私の顔に魔法が掛けられていく。お化粧という魔法。

そんな中。

先輩は、さっき言った「ドキドキ」の意味を、私に話してくれた。


「俺がコスプレしてるってのは結構有名なんだけど。女性のコスプレもするってのは、まだあまり知られてないみたいなんだ。

と言っても、女性のコスプレを始めたのは、つい数か月前からだから、ほとんどの人が知らなくて当たり前なんだけどね」

「女性のコスプレ、かなり似合ってます。だけど、数か月前のクオリティじゃないですよ?完成度高すぎです!」

「うん。鋭いね、花畑さん」


私の顔に、何やら茶色の液体を塗り込んでいく楽先輩。切れ長の目を細めて、少しだけ無邪気に笑った。


「実はね、俺……昔から、女の子の服に興味があったんだ。上にお姉ちゃんがいた事と……俺の顔が両性的って事もあって。両親も面白半分で、お姉ちゃんのお下がりの服を、よく俺に着せて遊んでいたんだ」

「へぇ、楽先輩にお姉さんが。さぞ美人さんなんでしょうねぇ」

「さぁ、どうかな。でも、服の趣味は一緒だったよ。お姉ちゃんの服は、俺も好きだった。

そこからかな?両親が面白半分で着せた女の子の服を、自分から着てみたいと思うようになったのは」


だけど――と声のトーンが低くなった楽先輩。鏡越しに見る先輩の顔は、キレイな女性の顔だけど……眉間に皺が寄っていた。
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