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楽先輩と部屋で二人きり

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楽先輩と打ち合わせしていた通り、寮の前で待ち合わせをした。

だけど、そこに現れたのは楽先輩じゃなくて――美女だった。しかも、その美女の左手の薬指には、赤い糸が巻き付いている。あれ?もしかして、この美女って……


「え、ん?もしかして楽先輩ですか?」

「うん。今日は女子中学生のコスプレをしてみたよ。どう?」

「どうって……」


楽先輩の銀色の髪が、今日は黒色のロングヘアになってる。切れ長の目が「女性ならではの可憐さ」を増していて、どこかの清楚なお嬢様に見える。ハッキリ言って、かなり美人。


女子中学生っていうより、女子高生にも見える。背が高いからかな?大人びて見えるからかな……?あ、楽先輩、お化粧してるんだ!


「(キレイ……)」

「花畑さん?」


長い間なにも喋らなかったから、私が怒っているのかと勘違いした楽先輩。すごく不安そうな顔をして、私を見る。

だけど、いざ私が目を合わせると……今度は楽先輩が、不自然に私から目を逸らした。

そして申し訳なさそうな顔で、沈んだ声で――「ごめんね」と、ポツリと私に謝った。


「どうして謝るんですか?楽先輩」

「いや、だって……いきなり女装されたらビックリするよね」

「そりゃ、ビックリはしましたけど……」


だからって、嫌ってわけじゃない。むしろ――


「キレイすぎてビックリして……。あの、楽先輩。お願いがあるんです」

「え、俺に?」

「楽先輩にしか、頼めません!」

「う、うん?」


頭に疑問符が浮かんだ楽先輩。そんな先輩に、私が「お願い」した事。それは、お化粧の仕方。

実は、中学に入学してからというものの。少しずつお化粧がしたいなーなんて思っていた私。

雑誌を買ったり、百均で有名なお化粧道具を揃えたり。それは、もう、色んな手を尽くしたんだけど――


「完成するのは、いつもピエロみたいに厚化粧な私なんです」


ピエロ、の言葉に笑われると思った。だけど楽先輩は「分かるよ」と真剣に同意してくれた。


「初めは難しいよね。慣れるまでは、俺も何回も変な顔になったよ。もう笑っちゃうくらいの」

「今の楽先輩からは想像が出来ません!」

「そう?じゃあ……俺の部屋、ちょっと覗いてみる?」

「……え?」

「メイク道具がたくさんあるから、花畑さんの役に立てるかも」

「(かなり見たい!)」


寮は、もちろん男女別で別れていて。下駄箱までは一緒なんだけど、そこから先、棟が分かれている。もちろん、それぞれの棟に、ぞれぞれが立ち入ってはいけない。

つまり、男子寮の楽先輩の部屋に私が行くのは、いけない事。

とは分かっているんだけど……目の前にいる楽先輩のキレイな顔を見たら、どうしても我慢ならなくて……。


「私にお化粧の仕方を教えてください!どこまでもついて行きます、師匠!」

「クスッ。はい、わかりました」


そんなこんなで――

寮母さんの目を盗んで、私はケーキ屋さんではなく、楽先輩の部屋に入る。

部屋は基本的に二人一つの相部屋。楽先輩は、なんと不動先輩と一緒の部屋なんだって。


「わー、女子寮と家具も配置も何もかも一緒なのに、置かれている物が違うってだけで、部屋の雰囲気がガラッと変わりますねぇ」

「ほとんど不動くんのだよ。俺は、自分の部屋にしか物を置かないから」

「へー」


私の目に写るのは、難しいパソコンの本や、大きな機械みたいなもの。機材っていうのかな?

確か、不動先輩は「動画配信」をしてるんだっけ?それに必要な物が、部屋のあちこちに転がってるみたい。
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