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歌沢くんとマラソン大会
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「! 花畑先輩……?」
「歌沢くん、私ね。さっき歌沢くんに会った時に、君はすごい人だなって思ったんだよ」
「俺が、すごい……?」
「うん」
鈴ちゃんの表情を見てれば分かるよ。あの一瞬のうちに、鈴ちゃんの心に入っていった歌沢くん。
他者を魅了する――歌沢くんの、その輝きは、きっと他の人が持っていないものだから。
「アイドルの事は詳しくは分からないけど……でも私が思うのは、歌沢くんは眩しいって事かな」
「俺が……眩しい?」
「そう。太陽と一緒だよ。眩し過ぎて、皆ギュッと目を瞑っちゃうの。だから歌沢くんの本当の魅力を、まだ皆が見えてないんじゃないかなって。そう思うんだ」
「!」
歌沢くんは、一瞬だけ驚いた顔をした。その顔は、彼の手の下から少しだけ覗いていて。眉間に皺を寄せた表情が……今度こそ泣いてるんじゃないかって思った。
「あ、でもね!大丈夫だよ。いくら眩しくても、ずっと照らし続ければ、ちゃんと一人一人が見てくれるから。歌沢くんの魅力が、きちんと皆に伝わっていくから。
かくいう私も、この前、声宮くんから庇って貰ったでしょ?私はあの時、歌沢くんのカッコよさを知ったんだよ。私はもう、歌沢くんのファンなんだから!」
「……」
「あ、あれ?」
何言ってんだコイツ……って思われたかな。アイドル業界の事を知りもしないで、知ったふうな口をきくなって。そう思ったかな?
だけど、私の心配は不要だったみたい。歌沢くんは寝転がったまま、自分の片手を、私の顔の高さまで持ち上げた。
そして、少し照れくさそうな顔で、
「手、握ってもらってもいいですか?」
「え、あ……うん」
そう「お願い」をしてきた。私は少し緊張しながら、歌沢くんの白い手を握る。彼の右手を、私の左手で包み込む。
すると、歌沢くんは「先輩はすごいなぁ」と小さな声で呟いた。
「すごい?私が??」
「俺、真っ暗なエレベーターの中で……花畑先輩が、この学園に来た理由を聞いて」
「あ~。声宮くんにバカにされた、アレね……」
――なんでこの学園に来たの?
――私は、運命の人を見つけに!
「俺、思ったんです。自分の思いを素直に言える人はすごいなって。強いなって。そして……羨ましいなって」
「羨ましい?」
「俺は売れてないから……アイドルしてるって堂々と言えないんです。学園にいる時は“王子”なんてチヤホヤされて。
だけど、一歩外に出たら無名のアイドルで。その差が……俺はいつも恥ずかしいんです」
「そっか、そうだったんだね」
確かに、自分の置かれている立場が場所によって違うって……結構しんどいかもしれない。
私は「ハァ」と小さくため息をついた歌沢くんの手を、少しだけ強く握る。
ギュッ
そして、本音で話す。
歌沢くんには本当の私の思いを聞いて欲しいって――そう思った。
「エレベーターの中では、あぁ言ったけど。実は、この学園に来た理由はね……私の好きな声優さんを探すためなの」
「好きな声優?」
「私が子供の頃に、好きになったキャラクターの声を担当してたんだけど……急に声優活動をやめちゃって」
歌沢くんは「それは辛いですね」と、体を起こして、私を見てくれた。眉が八の字になっているのが、私に寄り添ってくれてるようで嬉しい。
「でも、この夢咲学園には、声優が多く通ってるって噂に聞いてね!寮生活になるし家族にも会えなくなる。だけど……もし好きな声優さんに会えるならって思うと、迷いはなかったの」
「あ……じゃあ花畑先輩が言っていた“運命の人”って、」
「うん。好きな声優さんの事」
へへへと笑うと、歌沢くんは「そうだったんですね」とリラックスした表情で笑ってくれた。
だけど、その後すぐに険しい顔つきになる。そして、
「悔しいなぁ」
「へ?」
私から視線を逸らし、キラキラ光る川を見ながら。歌沢くんは、ポツリと本音を漏らした。
「歌沢くん、私ね。さっき歌沢くんに会った時に、君はすごい人だなって思ったんだよ」
「俺が、すごい……?」
「うん」
鈴ちゃんの表情を見てれば分かるよ。あの一瞬のうちに、鈴ちゃんの心に入っていった歌沢くん。
他者を魅了する――歌沢くんの、その輝きは、きっと他の人が持っていないものだから。
「アイドルの事は詳しくは分からないけど……でも私が思うのは、歌沢くんは眩しいって事かな」
「俺が……眩しい?」
「そう。太陽と一緒だよ。眩し過ぎて、皆ギュッと目を瞑っちゃうの。だから歌沢くんの本当の魅力を、まだ皆が見えてないんじゃないかなって。そう思うんだ」
「!」
歌沢くんは、一瞬だけ驚いた顔をした。その顔は、彼の手の下から少しだけ覗いていて。眉間に皺を寄せた表情が……今度こそ泣いてるんじゃないかって思った。
「あ、でもね!大丈夫だよ。いくら眩しくても、ずっと照らし続ければ、ちゃんと一人一人が見てくれるから。歌沢くんの魅力が、きちんと皆に伝わっていくから。
かくいう私も、この前、声宮くんから庇って貰ったでしょ?私はあの時、歌沢くんのカッコよさを知ったんだよ。私はもう、歌沢くんのファンなんだから!」
「……」
「あ、あれ?」
何言ってんだコイツ……って思われたかな。アイドル業界の事を知りもしないで、知ったふうな口をきくなって。そう思ったかな?
だけど、私の心配は不要だったみたい。歌沢くんは寝転がったまま、自分の片手を、私の顔の高さまで持ち上げた。
そして、少し照れくさそうな顔で、
「手、握ってもらってもいいですか?」
「え、あ……うん」
そう「お願い」をしてきた。私は少し緊張しながら、歌沢くんの白い手を握る。彼の右手を、私の左手で包み込む。
すると、歌沢くんは「先輩はすごいなぁ」と小さな声で呟いた。
「すごい?私が??」
「俺、真っ暗なエレベーターの中で……花畑先輩が、この学園に来た理由を聞いて」
「あ~。声宮くんにバカにされた、アレね……」
――なんでこの学園に来たの?
――私は、運命の人を見つけに!
「俺、思ったんです。自分の思いを素直に言える人はすごいなって。強いなって。そして……羨ましいなって」
「羨ましい?」
「俺は売れてないから……アイドルしてるって堂々と言えないんです。学園にいる時は“王子”なんてチヤホヤされて。
だけど、一歩外に出たら無名のアイドルで。その差が……俺はいつも恥ずかしいんです」
「そっか、そうだったんだね」
確かに、自分の置かれている立場が場所によって違うって……結構しんどいかもしれない。
私は「ハァ」と小さくため息をついた歌沢くんの手を、少しだけ強く握る。
ギュッ
そして、本音で話す。
歌沢くんには本当の私の思いを聞いて欲しいって――そう思った。
「エレベーターの中では、あぁ言ったけど。実は、この学園に来た理由はね……私の好きな声優さんを探すためなの」
「好きな声優?」
「私が子供の頃に、好きになったキャラクターの声を担当してたんだけど……急に声優活動をやめちゃって」
歌沢くんは「それは辛いですね」と、体を起こして、私を見てくれた。眉が八の字になっているのが、私に寄り添ってくれてるようで嬉しい。
「でも、この夢咲学園には、声優が多く通ってるって噂に聞いてね!寮生活になるし家族にも会えなくなる。だけど……もし好きな声優さんに会えるならって思うと、迷いはなかったの」
「あ……じゃあ花畑先輩が言っていた“運命の人”って、」
「うん。好きな声優さんの事」
へへへと笑うと、歌沢くんは「そうだったんですね」とリラックスした表情で笑ってくれた。
だけど、その後すぐに険しい顔つきになる。そして、
「悔しいなぁ」
「へ?」
私から視線を逸らし、キラキラ光る川を見ながら。歌沢くんは、ポツリと本音を漏らした。
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