抜けがけ禁止×王子たちの溺愛争奪戦

またり鈴春

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歌沢くんとマラソン大会

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【今日こそデートしましょう!約束ですよ!花畑先輩!】


 というメールを、歌沢くんから貰ったのは――声宮くんのデートから、数日経った日の事だった。


「(で、デートって言っても……)」


 歌沢くん、今日がマラソン大会って知ってるのかな?

 夢咲学園は割とスパルタで、マラソン大会は長距離コースが用意されている。

 部活して鍛えてる人しか、時間内にゴール出来ないって有名なの。だから、マラソン大会の日は、皆フラフラで帰宅してる。

 そんな日に……デート?


「歌沢くん、絶対マラソン大会の事を忘れてるよね……」


 メールで教えてあげようとした、その時だった。コツンと、頭に軽い衝撃が加わる。

 見上げると、体操服を持った声宮くんが立っていた。「変態」という言葉付きで。


「へ、ヘンタイ!?誰が……っ」

「お前だっての、芽衣」

「め、芽衣って……」


 デートは終わったのに、普通に名前で呼ぶんだ……。

 少し気恥ずかしさを覚えていると「あること」に気づく。そう、赤い糸。


「(声宮くんの指から、赤い糸がほどけてる!)」


 ビックリして二度見する。だけど何度見ても、声宮くんの薬指に赤い糸はなかった。この前はあんなにガッチリ巻きついてたのに……。


「(なんで……)」

「芽衣、何かあったのかよ」


 私が真剣な顔のまま固まってるから、どうやら声宮くんは心配してくれたらしい。グイッと私をのぞきこむ。


「え、近……っ」

「調子悪いなら、マラソン大会は無理すんなよ」

「声宮くん……」


 あれ?声宮くんが優しい。舌打ちとか、ため息が代名詞の声宮くんが……優しい!

 まさかデートをした事により、あの声宮くんに変化が、


「走れねー奴がコースにいても邪魔なだけだからな。さっさと回れ右して家に帰れ」

「(ひ、一言多いんだってば……!)」


「マラソン大会は出るもん」と宣言して席を立つ。すると、周りにいたのは……見事に男子だけだった。


「ん?あれ?」

「ここ、今から男子が着替えるんだけど?変態さん?」

「(それで変態って言ってたのかー!)」


 私は自分の体操服を持って、急いで教室を後にする。廊下では鈴ちゃんが「遅いよ~」と言って、私を待ってくれていた。


「中で何かあったのかと思った~」

「ご、ごめんね。ちょっとボーっとしてて……」


 鈴ちゃんは、おっとりしている頭脳明晰なしっかりした女の子。ボブヘアの黒髪が少しウェーブがかっていて、とっても可愛いの。

 それにね、


「芽衣ちゃん、何かあった?私でよければ、いつでも相談してね?」

「鈴ちゃん……」


 とっても優しくて、いつも私を思ってくれるんだよ。私の大好きな友達なんだ。


「大丈夫。また声宮くんにいじめられただけだよ」

「それを大丈夫って言っちゃう芽衣ちゃんって……すごいね」

「え」


 すごい……のかな?すると、既に体操服に着替えた歌沢くんが、こっちに向かってやって来ていた。


「(あ、歌沢くんだ…………ん!?)」


 歌沢くんが「花畑先輩!」と嬉しそうに手を振る中。私は、歌沢くんの薬指に釘付けになった。

 なぜなら――赤い糸が、歌沢くんの薬指に巻きついているから。もちろん、糸の反対側は私の薬指に巻かれてある。


「(今度は歌沢くんと赤い糸で繋がってる!?だとしたら、私の運命の人は歌沢くん!?)」


 な、なんで!?この前は声宮くんだったじゃん!なんちゅー優柔不断な赤い糸!しっかりしなさい!

 なんて、赤い糸に怒っても無意味。ガッチリ歌沢くんの薬指に絡みついてる……。
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