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声宮くんと遊園地

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「声宮くん、どうし、」


 どうしたの――?と言おうとした、その時だった。

 ポンと、私の肩に重みが乗りかかる。


「声宮くん……いくら手を繋ぎたいって言っても、肩に手を置かれるのはちょっと」

「は?」

「ん?」


 ポカンとした顔の声宮くんが、近くの灯りにともされて、良く見える。え?”ポカンとした顔”?

 声宮くんの両手を見る。一方は、私と繋いでいて。もう一方は、声宮くんの腰に置かれていた。

 え?じゃあ、私の肩に乗っている手って……


「み~つ~け~た~」

「ぎゃああああああ!!!!!?」
「お♪出た出た♪」


 その後、私が声宮くんを引っ張って、縦横無尽に走り回り、何とかゴールをする。

 だけど、走り回った際にお化け屋敷のセットをいくつか倒してしまい、ゴール後にスタッフさんから注意されてしまった。

 しかも「声優の声宮くんがこの遊園地に来ている」と噂が広がったらしく、遊園地の中は声宮くんを探す人でごった返していた。


 この二つが重なって、私たちは足早に遊園地を後にする。まさかの「お化け屋敷のみ」という散々なデートになってしまったのは……言うまでもない。


 そして、逃げるように遊園地から脱出して、帰りの電車を待つ間――

 声宮くんは、私の横で大笑いしていた。


「ぶぁはっはっは!お化け屋敷のセット壊して怒られる奴、見た事ねー!!」

「わ、笑わないでよ……っ!それに壊してない、倒しただけ!も、申し訳なく思ってるし、恥ずかしかったんだから……っ」

「はっは……あ~もうダメ、ちょっとタイム」


 そう言って、ふらりとどこかへ行く声宮くん。え、あれ?ちょっと、電車そろそろ来ちゃうよ?

 だけど声宮くんは、そんな事はお構いなし。どんどんと駅のホームの中を移動して、最後には見えなくなってしまった。


 ま、いっか。電車が来る頃には、戻ってくるよね?


「はぁ~疲れた……」


 ホームの椅子に座る。思い返せば、ずっと走っていた気がする。お化け屋敷の中でも、お化け屋敷を出てからも。

 だからか、すごく足が疲れてる。きっと、明日にはふくらはぎがパンパンなんだろうな……。


「喉、渇いたなぁ……」


 そう呟いた時だった。


「ほら」

「ひゃう!?」


 ピタリと、私の頬に冷たい何かが当たる。見ると、水の入ったペットボトル。どうやら、声宮くんが買ってきてくれたらしい。


「やる。ずっと走って喉が乾いたろ」

「あ、ありがとう……え、あ、お金!」

「いらねーよ。ほら、電車来ちまうぞ。さっさと飲め」

「えと、あの…………うん、ありがとう」


 こういう時は、甘えたら……いいんだよね?申し訳ない気持ち半分、そして……嬉しい気持ちが半分以上。


「ちょうど喉乾いてたの。嬉しい、ありがとう」

「ん」


 お礼を言った私の顔を、声宮くんは優しい顔をして見た。いつもの吊り上がった目じゃない。穏やかな目と、それに似合う穏やかな顔。

 ホームの椅子に座る私の目の前に立って、私が水を飲むのを、満足そうに見ている。


「(さっきは勝手にどこに行くのって思ってたけど、私のためにジュースを買いに行ってくれてたんだね)」


 ゴクゴク――冷たい水が、心地よく喉を通っていく。干からびた砂漠に水をあげてるような感じ。体中が「もっともっと」って水を欲しているのが分かる。

 ん?そう言えば、声宮くんのは?自分の水は持ってないみたいだけど……。


「声宮くんは?喉、乾いてないの?」

「あ?乾いてるに決まってんだろ」

「え……じゃあ、自分の水は?」


 聞くと、声宮くんは穏やかな顔から一変。ニヤリと笑って、私に顔を近づけた。そして、


「なんで一本だけしか買わなかったと思う?」


 なんて、その答えを私にせがむ。

 もちろん、勘の悪い私は、声宮くんの言葉がどういう意味か分からなくて、頭の上に疑問符を浮かべた。

 それを見た声宮くんは「やっぱお花畑だな」なんて言って……私の手から、飲みかけの水を取った。


「こうするために一本しか買わなかったんだっての」


 そう言って、ゴクリと水を飲む。私が飲んだお水を、一切のためらいもなく。飲み口に、自分の口をつけて――


「え!ちょ、待って!それは!」

「なんだよ芽衣、間接キスくらいで」

「(キスって言わないで……!)」


 不思議なことに――デートをしたのに、遊園地にまで行ったのに。

 間接キスという言葉一つで、私は声宮くんを今までで一番、意識してしまう。今が一番デートっぽい、なんて。そんな事を思った。
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