11 / 58
声宮くんと遊園地
5
しおりを挟むって!!
早い早い!入場ゲートが、もう目の前にある!本当に誰もいないじゃん!すぐ入れちゃうじゃん!誰か助けてー!
逃げようとする私の手を、声宮くんがグッと掴む。そして入場ゲートに並びながら「楽しみだなぁ」なんてニコニコ笑顔。え、笑顔!レアだ……!
じゃなくて!
「次の方、どうぞ~」
スタッフさんの声がした時。声宮くんは、私と繋がっている手をパッと離す。え、このタイミングで離すの!?
なんで!?と言いたげな私の顔を見て、声宮くんはいつもの意地悪い顔でニヤッと笑う。
そして自分の手を、私の顔の前でブラブラ揺らしながら「繋ぎたくねーんだよな?」と私を挑発した。
「~! つ、」
繋ぎたくありません!!
――そんなこんなで、お化け屋敷に入ったはいいものの……。
中は、まさに阿鼻叫喚。ヒュ~ドロドロ……というバックミュージックの他に、誰かの足音も常に聞こえてくる。
「こ、こここ、ここわ、わ……っ」
「おい、何やってんだよ。早く先に進むぞ」
真っ暗な中、私たちが進む道の端に、僅かな灯りが置いてあるだけ。
ここで声宮くんとはぐれたら、私……一歩も動けないと思う。こんな真っ暗な中、一人きりなんて絶対にイヤ!
「こ、声宮くん……!」
「ん~?」
返事をした声宮くんは、それはそれはいい笑顔をしていた。その笑顔が怖すぎるから、むしろ声宮くんがお化けなんじゃないかって思えて来る。
だけど、背に腹は代えられない……。私は、こんな所で一人ぼっちなんて嫌だ!
「て……手を……繋いでください……」
「え?オバケの歩く足音で聞こえなかったな~。そろそろ近くまで来てんじゃね?」
「私と早く手を繋いでください声宮くん!!」
お客さんの近くまで来たら全速力で迫ってくるっていうオバケ!すぐそこまで来てんの!?
そんな恐怖心に耐えられなくなった私は、声宮くんの手をギュッと握る。
まだ、声宮くんの返事を聞いてないのに。ぎゅっと、ぎゅーっと。両手で、声宮くんの手を握り締めた。
すると――
「おい、お前……」
「なんですかオバケですか早く走りましょう声宮くん!!」
「いや、ここ走るの禁止だっての……はぁ、まあいいや。ほら、ゆっくり歩くぞ」
オバケは全速力で走るのに、私たちは走るの禁止ってどういうこと――と思いながらも、声宮くんの手を強く握って、目を瞑ったまま進む。
私は怖さのあまり目が開けられないから、全てを声宮くんに委ねることにした。お願い声宮くん。私をゴールまで連れて行って……。
「どうか来ませんようにオバケが来ませんように来ても私を襲いませんように!!」
「横でお経のように喋るな。うるせぇ」
「今お経とか言わないで……!」
すると声宮くんが「チッ」と舌打ちをする。私をここに連れて来た張本人なのに、私を面倒くさそうに扱うのは解せない……。
だけど、声宮くんはこんな事を提案した。それは、私が怖くないようにする、おまじないみたいなもの。
「芽以、怖がらないで」
「え、何?今の声」
声宮くんとは違う声。すごく、優しい声。すると、声宮くんが「俺の声」と、あっけらかんと言った。
「え?今の声宮くんの声!?」
「お前な、俺は声優なんだぞ。声の一つや二つ、いや百個くらいは使い分けられるっての」
「ひゃ、百個……」
それは、オーバーな数字と思うことにして。だけど、すごい。声優って、そんなにいくつも声を使い分けることが出来るんだ。
「も、もっと言ってみて……?」
「ここを出たらジェットコースターに乗らない?」
「わ~もっと!」
「ジュースも飲みたいよね?」
「おー!」
いくつもの声色を使い分ける声宮くんがすごくて、思わず拍手をする。私の聞いた事ある声もあった!確か、今流行ってるアニメの主人公。
すごい……声宮くんって、本当に人気声優なんだなぁ。
「素はこんなドスの効いた声なのに」
「おい何か言ったか芽衣」
「(あ、魔法が解けた……)」
残念、と思うと同時に、もう一度「すごいね」と声宮くんを褒める。きっと、たくさん練習したんだろうなぁ。
声優の声宮くんって言ったら、世間でも知られている、超有名人だもんね。
だけど声宮くんは、私が褒めた途端に静かになった。あれ?今までの勢いは、どうしたの?
すると、しばらく黙った後に。声宮くんは、ポツリと零す。
「いくら凄いって言われても――本当に出したい声は、もう出ないけどな」
「え……?」
いつになく、おしとやかに喋る声宮くん。暗いから顔がよく見えないけど……その声色は、なんだか落ち込んでいるみたいだった。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
氷鬼司のあやかし退治
桜桃-サクランボ-
児童書・童話
日々、あやかしに追いかけられてしまう女子中学生、神崎詩織(かんざきしおり)。
氷鬼家の跡取りであり、天才と周りが認めているほどの実力がある男子中学生の氷鬼司(ひょうきつかさ)は、まだ、詩織が小さかった頃、あやかしに追いかけられていた時、顔に狐の面をつけ助けた。
これからは僕が君を守るよと、その時に約束する。
二人は一年くらいで別れることになってしまったが、二人が中学生になり再開。だが、詩織は自身を助けてくれた男の子が司とは知らない。
それでも、司はあやかしに追いかけられ続けている詩織を守る。
そんな時、カラス天狗が現れ、二人は命の危険にさらされてしまった。
狐面を付けた司を見た詩織は、過去の男の子の面影と重なる。
過去の約束は、二人をつなぎ止める素敵な約束。この約束が果たされた時、二人の想いはきっとつながる。
一人ぼっちだった詩織と、他人に興味なく冷たいと言われている司が繰り広げる、和風現代ファンタジーここに開幕!!
荒川ハツコイ物語~宇宙から来た少女と過ごした小学生最後の夏休み~
釈 余白(しやく)
児童書・童話
今より少し前の時代には、子供らが荒川土手に集まって遊ぶのは当たり前だったらしい。野球をしたり凧揚げをしたり釣りをしたり、時には決闘したり下級生の自転車練習に付き合ったりと様々だ。
そんな話を親から聞かされながら育ったせいなのか、僕らの遊び場はもっぱら荒川土手だった。もちろん小学生最後となる六年生の夏休みもいつもと変わらず、いつものように幼馴染で集まってありきたりの遊びに精を出す毎日である。
そして今日は鯉釣りの予定だ。今まで一度も釣り上げたことのない鯉を小学生のうちに釣り上げるのが僕、田口暦(たぐち こよみ)の目標だった。
今日こそはと強い意気込みで釣りを始めた僕だったが、初めての鯉と出会う前に自分を宇宙人だと言う女子、ミクに出会い一目で恋に落ちてしまった。だが夏休みが終わるころには自分の星へ帰ってしまうと言う。
かくして小学生最後の夏休みは、彼女が帰る前に何でもいいから忘れられないくらいの思い出を作り、特別なものにするという目的が最優先となったのだった。
はたして初めての鯉と初めての恋の両方を成就させることができるのだろうか。
【完結】アシュリンと魔法の絵本
秋月一花
児童書・童話
田舎でくらしていたアシュリンは、家の掃除の手伝いをしている最中、なにかに呼ばれた気がして、使い魔の黒猫ノワールと一緒に地下へ向かう。
地下にはいろいろなものが置いてあり、アシュリンのもとにビュンっとなにかが飛んできた。
ぶつかることはなく、おそるおそる目を開けるとそこには本がぷかぷかと浮いていた。
「ほ、本がかってにうごいてるー!」
『ああ、やっと私のご主人さまにあえた! さぁあぁ、私とともに旅立とうではありませんか!』
と、アシュリンを旅に誘う。
どういうこと? とノワールに聞くと「説明するから、家族のもとにいこうか」と彼女をリビングにつれていった。
魔法の絵本を手に入れたアシュリンは、フォーサイス家の掟で旅立つことに。
アシュリンの夢と希望の冒険が、いま始まる!
※ほのぼの~ほんわかしたファンタジーです。
※この小説は7万字完結予定の中編です。
※表紙はあさぎ かな先生にいただいたファンアートです。

モブの私が理想語ったら主役級な彼が翌日その通りにイメチェンしてきた話……する?
待鳥園子
児童書・童話
ある日。教室の中で、自分の理想の男の子について語った澪。
けど、その篤実に同じクラスの主役級男子鷹羽日向くんが、自分が希望した理想通りにイメチェンをして来た!
……え? どうして。私の話を聞いていた訳ではなくて、偶然だよね?
何もかも、私の勘違いだよね?
信じられないことに鷹羽くんが私に告白してきたんだけど、私たちはすんなり付き合う……なんてこともなく、なんだか良くわからないことになってきて?!
【第2回きずな児童書大賞】で奨励賞受賞出来ました♡ありがとうございます!
左左左右右左左 ~いらないモノ、売ります~
菱沼あゆ
児童書・童話
菜乃たちの通う中学校にはあるウワサがあった。
『しとしとと雨が降る十三日の金曜日。
旧校舎の地下にヒミツの購買部があらわれる』
大富豪で負けた菜乃は、ひとりで旧校舎の地下に下りるはめになるが――。
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。
悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~
橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち!
友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。
第2回きずな児童書大賞参加作です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる