抜けがけ禁止×王子たちの溺愛争奪戦

またり鈴春

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声宮くんと遊園地

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って!!

早い早い!入場ゲートが、もう目の前にある!本当に誰もいないじゃん!すぐ入れちゃうじゃん!誰か助けてー!

逃げようとする私の手を、声宮くんがグッと掴む。そして入場ゲートに並びながら「楽しみだなぁ」なんてニコニコ笑顔。え、笑顔!レアだ……!

じゃなくて!


「次の方、どうぞ~」


スタッフさんの声がした時。声宮くんは、私と繋がっている手をパッと離す。え、このタイミングで離すの!?

なんで!?と言いたげな私の顔を見て、声宮くんはいつもの意地悪い顔でニヤッと笑う。

そして自分の手を、私の顔の前でブラブラ揺らしながら「繋ぎたくねーんだよな?」と私を挑発した。


「~! つ、」


繋ぎたくありません!!


――そんなこんなで、お化け屋敷に入ったはいいものの……。

中は、まさに阿鼻叫喚。ヒュ~ドロドロ……というバックミュージックの他に、誰かの足音も常に聞こえてくる。


「こ、こここ、ここわ、わ……っ」

「おい、何やってんだよ。早く先に進むぞ」


真っ暗な中、私たちが進む道の端に、僅かな灯りが置いてあるだけ。

ここで声宮くんとはぐれたら、私……一歩も動けないと思う。こんな真っ暗な中、一人きりなんて絶対にイヤ!


「こ、声宮くん……!」

「ん~?」


返事をした声宮くんは、それはそれはいい笑顔をしていた。その笑顔が怖すぎるから、むしろ声宮くんがお化けなんじゃないかって思えて来る。

だけど、背に腹は代えられない……。私は、こんな所で一人ぼっちなんて嫌だ!


「て……手を……繋いでください……」

「え?オバケの歩く足音で聞こえなかったな~。そろそろ近くまで来てんじゃね?」

「私と早く手を繋いでください声宮くん!!」


お客さんの近くまで来たら全速力で迫ってくるっていうオバケ!すぐそこまで来てんの!?

そんな恐怖心に耐えられなくなった私は、声宮くんの手をギュッと握る。

まだ、声宮くんの返事を聞いてないのに。ぎゅっと、ぎゅーっと。両手で、声宮くんの手を握り締めた。

すると――


「おい、お前……」

「なんですかオバケですか早く走りましょう声宮くん!!」

「いや、ここ走るの禁止だっての……はぁ、まあいいや。ほら、ゆっくり歩くぞ」


オバケは全速力で走るのに、私たちは走るの禁止ってどういうこと――と思いながらも、声宮くんの手を強く握って、目を瞑ったまま進む。

私は怖さのあまり目が開けられないから、全てを声宮くんに委ねることにした。お願い声宮くん。私をゴールまで連れて行って……。


「どうか来ませんようにオバケが来ませんように来ても私を襲いませんように!!」

「横でお経のように喋るな。うるせぇ」

「今お経とか言わないで……!」


すると声宮くんが「チッ」と舌打ちをする。私をここに連れて来た張本人なのに、私を面倒くさそうに扱うのは解せない……。

だけど、声宮くんはこんな事を提案した。それは、私が怖くないようにする、おまじないみたいなもの。


「芽以、怖がらないで」

「え、何?今の声」


声宮くんとは違う声。すごく、優しい声。すると、声宮くんが「俺の声」と、あっけらかんと言った。


「え?今の声宮くんの声!?」

「お前な、俺は声優なんだぞ。声の一つや二つ、いや百個くらいは使い分けられるっての」

「ひゃ、百個……」


それは、オーバーな数字と思うことにして。だけど、すごい。声優って、そんなにいくつも声を使い分けることが出来るんだ。


「も、もっと言ってみて……?」

「ここを出たらジェットコースターに乗らない?」

「わ~もっと!」

「ジュースも飲みたいよね?」

「おー!」


いくつもの声色を使い分ける声宮くんがすごくて、思わず拍手をする。私の聞いた事ある声もあった!確か、今流行ってるアニメの主人公。

すごい……声宮くんって、本当に人気声優なんだなぁ。


「素はこんなドスの効いた声なのに」

「おい何か言ったか芽衣」

「(あ、魔法が解けた……)」


残念、と思うと同時に、もう一度「すごいね」と声宮くんを褒める。きっと、たくさん練習したんだろうなぁ。

声優の声宮くんって言ったら、世間でも知られている、超有名人だもんね。


だけど声宮くんは、私が褒めた途端に静かになった。あれ?今までの勢いは、どうしたの?

すると、しばらく黙った後に。声宮くんは、ポツリと零す。


「いくら凄いって言われても――本当に出したい声は、もう出ないけどな」

「え……?」


いつになく、おしとやかに喋る声宮くん。暗いから顔がよく見えないけど……その声色は、なんだか落ち込んでいるみたいだった。
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