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声宮くんと遊園地

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「ゆ、遊園地!?」

「そー。やっぱデートって言ったら、ここだよな」

「にしても、なんでメガネと帽子?」

「俺は人気声優として顔バレしてるからな。変装だっての」

「(変装さえもサマになるって……腹立つな)」


 そんなこんなで着いた先は、遊園地。

 平日の夕方近くだというのに、遊園地は賑わっていた。主にカップルで。


「(他の人が見たら、私と声宮くんも彼氏彼女に見えるのかな……?)」


 そう思うと手汗がジットリ出てきた。しまった、冷や汗が……!

 声宮くんに「きったねー」なんて言われないために、繋がっている手をすぐに離す。すると声宮くんは、ムッとして顔で私の名前を呼んだ。


「おい、芽衣。なに手を離してんだよ」

「だ、だって……」

「これからデートなんだぞ?ほら、手よこせよ。いくら汗っかきでも、俺は気にしねーよ」

「(遠回しに”汗ばんでる”って言われてる!)」


 やっぱり汗の事に気づかれてた!と思うと、妙に恥ずかしくなって。私は、自分の両手を胸の前でギュッと握る。

 ふっふっふ。これで手は繋げまい……!

 そんな悪あがきをした私を見た声宮くん。お決まりのため息を、これでもかと深くついた。


「はぁ~仕方ねぇな。じゃあ、アレ行くか」

「あ、あれ……?」


 不思議がる私を見て、声宮くんはニッと笑った。その顔に不安になったのは、言うまでもないよね……!


「ど、どこに行くの!?」

「まーまー、ついてくりゃ分かるって」


 今度は強引に手を握ろうとしなかった声宮くん。手を繋がないまま、声宮くんが前、私が後ろと、二人は縦に並んで歩く。

 遊園地の中は混雑していて、何度も人に当たってしまう。ドンと、肩が思い切りぶつかって、思わず顔が歪んでしまった。今のは……ちょっと痛かったなぁ。

 私の前を歩く、声宮くんの背中を見る。私が人にもみくちゃにされているとは知らず、涼しい顔をして歩いている。

 っていうか、声宮くんがカッコ良いから、まるでパレードみたいに、声宮くんが行く道を皆が率先して開けていた。イケメンっていいなぁ。色々お得だ……。


「(ってか、デートっていうなら、少しは私の事を気にしてくれてもいいじゃん……)」


 大丈夫か?とか、ちゃんとついてきてるか?とか。そんな確認をするために、たまには後ろを振り返ってくれてもいいじゃん。


「(まぁしょせん、勝負のためだけのデート、だもんね)」


 歌沢くんと勝負するための、形だけのデート。いくらときめく事を言われても、中身はこんなもんだよね。

 声宮くんの気まぐれな優しさの一割を、さっき何度も見ちゃったから……声宮くんに幻想を抱いちゃった。しっかりして私……!

 声宮くんは、意地悪が9割!もう忘れない!

 私が自分に喝を入れ直した、その時。声宮くんが「お」と顔を上げる。彼の視線を追って、私も顔を上げるのだけど……


「よし、着いたぞ。ここに入る」

「こ、ここここって…………!!」


 目の前に広がるアトラクション。それは――


「入場者の後ろを、全速力で追いかけてくる事で有名なお化け屋敷だ!」

「(ひィィィー!!!!私、お化け苦手なのに!!)」


 ウキウキしている声宮くんには悪いけど、なんで遊園地一発目でお化け屋敷なの!?デートって言うなら、もっと女子が喜びそうな所から連れて行ってよね!

 と、そんな私の気持ちが手に取るように分かったのか。声宮くんは「なんでお化け屋敷きたんだって思っただろ」とニヤニヤした顔で私を見た。


「お前が俺と手を繋がねーっていうからだ」

「へ?どういう、」

「このお化け屋敷に入ってもなお、”手を繋がない”なんて。そんな事が言えるかなぁ~?」

「!」


 わ、罠だ!!策士だ!!

 私が自分から「手を繋いでほしい」って言わせるために、わざとお化け屋敷を選んだんだ!


「ず、ずるいよ!」

「ズルくて結構。言っておくけど、俺はどんな事をしてでも芽衣と手を繋ぐからな」

「!」


 そういう言い方が、女子の誤解を招くんだって……!なんか、ときめいちゃうじゃん!私の事をそこまで思ってくれてるの?とかって、勘違いしちゃうじゃん。


「た、ただの勝負なのに……そこまでしないくても、」


 すると声宮くんは「何言ってんだよ」と私の頭にポンと手を置いた。


「今はデートしてんだ。勝負なんて忘れて、純粋に楽しもーぜ」

「え……」

「お、ガラガラだからすぐ入れるぞ」

「え!?」


 声宮くん、勝負の事を忘れてたんだ……。私は、てっきり……。
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