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声宮くんと遊園地

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「(じゃなくて!歌沢くんは!?)」


つい声宮くんに怒っていたけど、歌沢くんと声宮くんが鉢合わせちゃった!?またケンカにならなきゃいいけど!


「歌沢く、…………ん?」


見ると歌沢くんは、また変装をしていた。ニット帽にサングラス……。あれ?どうしちゃったの?


「歌沢くん?えと、あの……大丈夫?」

「ッ!」


すると歌沢くんは、急に向きを変えて走り出してしまった。……え!?”走り出してしまった”!?

「ちょっと!歌沢くんー!」と手を伸ばす私とは反対に、声宮くんは呑気なもので。


「よし、邪魔者は消えたな。行くぞお花畑」


と歌沢くんに伸ばした私の手を掴んで、声宮くんは階段を下り始める。


「い、行くって、どこに……場所は!?」

「デートって言ったら、行く場所は決まってんだろ」

「(デートした事ないから分からない……なんて言えない!)」


それに、声宮くんについていくのは何だか怖いし――と思って、止まったまま動かない私。

すると声宮くんは、素直についてこない私を見て「チッ」と舌打ちをする。そ、そういうのが怖いんだってば……!


「おい”これからデート”って顔じゃねーだろ、お前のツラ」

「だ、だって……っ」

「はぁ、仕方ねぇなぁ」


声宮くんはぶっきらぼうに私の手を離し、そして――何をするかと思えば、私と向かい合った。声宮くんは、私よりも五段低い階段に立っている。だから必然と、私より下の位置にいるわけで……


「な、なにをするの?」

「……今日だけ特別だ。お花畑にだけ特別」

「え?」


声宮くんは畏(かしこ)まって背中を曲げた。まるで王子様がお姫様にダンスを申し込む時みたいに……。実際は膝なんてついてないけど、二人の段差が、私の目にそんな甘い幻覚を移す。

「……っ!」

少し頬を染めた私を見て、ニヤッと笑った声宮くん。その右手が、ゆっくりと私に伸びてきて――


「お手をどうぞ、お花畑さん」


なんて。ややカッコ悪い決め台詞を言う。だけど、その表情はとても柔らかい。声宮くんが、こんなに自然に笑ってるのを初めて見た。その顔は――本当にカッコいい王子様。


「私、は……お花畑じゃ、ないよ……」

「じゃあ、芽衣」

「ッ!」


私の名前をサラリと言うから、不覚にもドキッとしてしまった。私の名前を知ってたんだ、っていう驚きと。何のためらいもなく呼んでくれたっていう、少しの嬉しさと。


「(普段は意地悪なのに、こういう時だけ意地悪じゃない声宮くんは……ズルい)」


どうやら私は、声宮くんの「気まぐれな優しさの1割」に弱いみたい。

声宮くんの手を掴むべきじゃないって思ってるのに、私は恐る恐る手を伸ばしてしまう。フルフルと、震えながら。


「(掴んじゃダメ、掴んじゃダメ……っ)」

「……」


まさに押したり引いたりの私の手。だけど、そんな優柔不断な私の手は――待ちきれないと急かされた声宮くんの手によって、強引に掴まれる。


グイッ

「わ、わゎッ!」

「時間切れだ、芽衣。お前はもう、俺が連れていくからな」

「(!だから、そういうセリフが……あぁ、もう!)」


恥ずかしくなって、声宮くんの手をギュッと握ってしまう。そして消えちゃうような小さな声で「強引すぎ」と文句を言ってみた。絶対に聞こえないって、そう思いながら。

だけど、


「強引じゃないと、芽衣を奪えないだろ」

「ッ!き、聞こえて、」

「声優はな、耳が良いんだよ。覚えとけ」

「~っ!!」


ニッと笑った顔に、少しだけ胸がときめいた気がして。あんなに意地悪い顔をしているのに、どこか無邪気に見えて。


「(声宮くんって、こんな雰囲気だったっけ?)」


そんな疑問を覚えながら、声宮くんに引っ張られていく私。そして電車を乗り継いで、とある場所に来た。

そこは――
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