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声宮くんと遊園地

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 次の日。

 朝ごはんを食べるために、寮専用の食堂に入った時。私は驚きのあまり、ひっくり返るかと思った。

 だって、私の目には……


「おい、どけよお花畑。そんな所でボーッと突っ立ってると轢くぞ」

「(あぁ、なんで、なんで……っ)」


 声宮くんの左手の薬指に……私と繋がる赤い糸が、なぜか巻かれてある。


「(なんで声宮くんの薬指と結ばれてんの!?私の赤い糸ー!)」


 よりにもよって、声宮くん……。あの口が悪くて偉そうで、すぐに舌打ちをしてため息をつく、あの声宮くん。


「(という事は、声宮くんが私の運命の人!?ウソでしょー!最悪だ……!)」


 あ、だけど……


 ――怪我は?


 たまに優しいところも……あったりするんだよね。声宮くんは。


「おいお花畑、その耳は飾りかよ。聞こえてんのか?」

「(ムッ……)」


 だけど、基本は、この性格。俺様で口が悪いのが、声宮くんだ。だから「声宮くんと赤い糸で結ばれた!嬉しい~!」と絶対ならない。それに、声宮くんは昨日エレベーターの中で、


 ――超忙しい俺の時間を、お前みたいなお花畑のために割くのは不本意だが。このまま後輩野郎に負けるのも気に食わねぇ。だから、お前に好かれるために、俺がわざわざお前とデートしてやるって話だ


 こんな事を言う人だよ!?これからデートしましょうって誘う相手に、こんなズタボロな事を言う人だよ!?声宮くんは、意地悪な性格が9割、残りの1割が気まぐれな優しさで出来てるに違いない。

 だから、声宮くんが運命の人ってのは、間違いだと思いたいんだけど……


「(赤い糸、ガッチリ巻き付いてるよねぇ~)」


 でも、こうなったら、イチかバチかだ!


「(赤い糸さん、お願い!声宮くんから離れてください!!)」


 ムリなお願いだとは思いつつ、心の中で必死に祈ってみた。すると、

 ヒュン

 と赤い糸は、声宮くんの指から離れて、どこかへ行ってしまった。


「(え……ほ、ほどけた!?)」


 赤い糸って、ほどけるの!?っていうか、私の願いを聞いてくれるの!?


「(私の願いを、もしも聞いてくれるなら……っ)」


 頭の中に浮かぶ、あの日の場面。その日の私は、涙を流しながら、何かを見ていた。夢中で――


「(って、さすがに私の願いを聞いてくれるってのは……ナイか。うん。ないな。でも、どこに行ったんだろう。赤い糸……)」


 訳が分からなくてと「う~ん」と唸る。すると、頭をゴツンと重めにノックされた。


「いっ!?」

「おいお花畑。聞いてんのかよ。早く席に着けって、そう言ってんだよ」

「わ、わかってるよ……。何もゲンコツ入れなくたって、」

「ボーッとしてるお前が悪い」


 フンと、鼻を鳴らして私の横を通り過ぎる声宮くん。もう、私の横を通れるなら、何も怒ることなかったじゃん。

 内心ムッとしていると、すれ違いざまに声宮くんがボソリと呟く。


「元気そうだな」

「え――?」


 振り返って声宮くんを見ると、もう席に座って朝ごはんを食べていた。

 ”元気そうだな”って……。まさか、昨日の私を心配してくれてたとか?さっきの間に、私の調子が悪くないか、観察してくれていたとか?


「あ、ありがとう……?」


 これは……気まぐれな優しさの1割、かな?「気まぐれ」とは分かっていても、心配してくれた事が嬉しくて、つい喜んでしまった私。そんな私に、自分で喝を入れる。だって、声宮くんはさっき、私の頭にゲンコツしたんだよ?

 だけど、怖い声宮くんがモテる理由が分かった気がする。だって、ふいに優しくされると……女子はそのギャップにクラクラしちゃうよ。
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