双子のボディーガードは最強吸血鬼と最恐騎士!?

またり鈴春

文字の大きさ
7 / 7

5滴➼これからも、ずっと一緒

しおりを挟む


「じゃあ――少しだけ我慢な」


王史郎が私の指から吸血し始めると、青い光が、二人を包むように現れる。

その光に触れた王史郎の傷は、痕を残さずキレイに消えた。


「さゆ、痛いところあるか?」
「ううん、ないよ」

「良かった。ありがとう、おかげで元気になった」
「うん!」


青い光は流れ星のように四方に飛び、だんだん輝きを失う。

最後の一筋になった光が、王史郎の左手に飛んでくる。そして薬指に巻き付いた後、指輪へと姿を変えた。


「キレイ……」
「この指輪から、今までにない力を感じる。これが契約したことで解放される、自分の本当の力なのか。すごいな」


王史郎は自分の手を握ったり開いたりしながら、みなぎる力を実感していた。さっきまでの疲れ切った顔は、もうどこにもない。


「さゆ、アイツはこの世に存在しちゃいけないモノだ。だから俺たちの手で倒してくる」


モクを見ながら、王史郎は宝石で剣を作る。その刃に、キラリと自分の顔を反射させた。

写っているのは、前だけを見る、青い瞳。
王史郎の、揺るぎない意志。

反して私は、王史郎、モク、イオくんを交互に見る。見れば見るほど、三人は似ていて……やっぱり親子なんだって実感する。


「王史郎、あのさ……モクを消さずに、改心させる方法ってないかな?」
「え?」

「だってモクは、王史郎とイオくんの父親でしょ?家族同士で、なんて……やっぱり辛いもん」
「さゆ……」


王史郎が笑ったかと思えば、私の両頬をパシッと両手で挟む。

そして「ばーか」と。私の髪を、ぐしゃぐしゃ撫でた。


「さゆは、そんなこと気にしなくていいだよ」
「でも」

「〝行ってらっしゃい〟って言ってくれれば、それでいいんだ。頼めるか?……ダメ?」
「うっ……」


こんな時に、眉を下げてしおらしくなる王史郎。

ズルい!
こんな顔されたら、もう反論できないじゃん!

悔しい気持ちを抑えつつ「いってらっしゃい……」と。納得いかない顔で、王史郎を見上げる。すると王史郎も、私を見つめていて……。

そうかと思えば、私の頬に、柔らかい物が当たった。王史郎の顔が、すごく近くにある。


「お、王史郎……?」
「……え、あ!悪い!」
「う、ううん……!」


頬にキスされた――と気づいたのは、王史郎が顔を真っ赤にした時。

彼は顔を赤くしたまま、意を決した顔で私を見る。


「さゆ、全部終わったら……話したいことがあるんだ。聞いてくれるか?」
「う、うん……」
「良かった。じゃ、いってきます」


パンッと、弓矢が放たれるような勢いで、王史郎は駆け出した。

全ての力を取り戻した王史郎が加勢にしたことにより、形成逆転した戦い。

優位になった王史郎とイオくんを見ながら……熱くなった頬に、手を当てる。


「王史郎のいう〝話〟って……ううん。今は戦いに集中しなきゃ!」


すると遠くにいるモクと目が合う。劣勢に追いやられ焦ったモクは、不気味な笑みを浮かべながら、鎌を私へ向けた。


「こうなったら、運命の子だけでも道連れにしてやる!」
「⁉」
「さゆ、逃げろ!」


私に向かって、大きな鎌が飛んでくる!それは二人の間をするりと抜け、私をめがけ、大きく振りかぶった!


「こ、こないでぇ!」


何か武器はない?
対抗できるものは……!

無我夢中で、ポケットに手を突っ込む。すると何かが指に当たる……これだ!


「さゆ!」


同時に、力強く抱きしめられる。
見ると、王史郎が私を抱き寄せ、鎌の軌道から逃がそうとしてくれていた。

今がチャンスだ!
鎌をかわしながら、ポケットから抜いた手を、モクへ見えるように突き出す!


「モク!これを見て!!」
「!」


モクと、モクが操る鎌が、動きを止める。
次にモクはガクンと膝をつき、両手で顔を覆った。


「あぁ、百合葉……」


モクに見せたのは、この家に住んでいた家族四人の集合写真。皆が笑顔で写っている写真を見て、モクはハラハラ涙を落とす。

その姿から、さっきまでの気迫がまるで感じられない。むしろ、哀愁が漂っているっていうか……。

モクを見て混乱する私に、私たちと合流したイオくんが説明してくれた。


「百合葉は、俺たち母さんの名前だよ。アイツは……父さんは、母さんのことを心から想っていたんだ。でも体が弱くて、俺らが幼い時に病死した。一番落ち込んでいたのは、父さんだった」
「そうなんだ……」


私は王史郎の腕から抜け、モクに向かって前進する。

後ろから「さゆ!」と、私を止める王史郎の声が聞こえたけど……今は、写真を持っているから、大丈夫な気がする。

王史郎とイオくん・二人のお母さんである百合葉さんが、ここにいる皆を守ってくれている気がした。


「モク、聞きたいことがあるの。
どうして、強い力を手に入れたいの?」
「僕は……百合葉に、会いたかったんだ」


モクは泣き顔を隠そうともせず、私が差し出す写真を、大事そうに受け取る。ポタポタと、モクの悲しみが幾重にも床に散った。


「たった一度でいいから、百合葉に会いたかった。寂しかったんだよ、僕は百合葉が大好きだから」
「力を手に入れれば、死んだ人に会えると思ったの?」


私の言葉に、モクは力なく頷く。


「でも……僕が間違っていたね。子供たちを巻きんだ挙句、無関係な君を傷つけた。力なんていらない。そんな事をしなくても良かったんだ。だって百合葉は、ずっとここにいたんだから」


握った写真を、胸の前で抱きしるモク。

背を丸めて泣くモクは、急に小さく見えて……そんな父親の姿を、王史郎とイオくんは黙って見つめた。


「モク、あなたにやってもらいたい事があるの。

・王史郎が騎士団に戻れる方法。
・私の中にある赤い宝石を消す方法。
これらの方法を探してほしい。

そして一番重大切なのは……王史郎とイオくんに謝ること」

「うん……そうだね」


モクは写真を抱きしめながら、深々と二人に頭を下げた。目に溜まった大粒の涙が、ツララが落ちるように、すごいスピードで目から零れる。


「二人には、たくさんツライ思いをさせた。申し訳なかった――なんて言葉で償いきれるものではないと、分かっている。だから協力させてほしい。もう一度、父親を信用してほしい。僕が、必ず皆を元通りにしてみせるから」
「ってモクも言ってることだし、どうかな……?」


モクと一緒に二人を見ると、王史郎とイオくんは、それぞれ別の方向を見ていた。

だけど、どちらともなく「しょうがないな」と。呆れた声だけど、ちゃんとした「許し」が返って来る。


「ただし〝赤い宝石を消すこと〟を、最優先にしてくれ。分かっていると思うが、さゆが傷つかない方法でだ」
「もちろんだよ」

「全て元に戻してくれるなら……俺も許すよ」
「イオ……ありがとう」


モクがお礼を言った時。
線香花火のような淡い光が、モクの足元に浮かんでは弾ける。

よく見ると、モクの体の向こう側……
その景色が、透けて見える!


「え、これって⁉」
「あぁ、力を使いすぎたか……僕は少し眠るよ」
「ね、寝る⁉ちょっと!私の中の宝石はどうなるの⁉」


 スカッ

半透明になったモクに、もう触ることはできない。伸ばした手は、悔しくも空を切るばかり。

「どうなってるのー!」と慌てる私を一瞥した後、モクは二人に向き直った。


「彼女の中にある赤い宝石を、大切にするんだよ。もし壊そうなんて思ったら……」
「続きはなんだよ?父さん」


父さん――王史郎から、この言葉を聞いたモクの顔が、少し穏やかになる。嬉しそうに見えたのは、きっと気のせいじゃない。


「おい、父さん?」
「ふふ、ごめんね。時間切れだ。しばらくの間、おやすみ」


そう言い残したモクは、完璧に姿を消してしまう。

肝心な言葉が聞けずじまいとなり、私たちは声を揃えて「はぁ⁉」と叫んだ。


「宝石を壊しちゃダメなのかよ。どういう意味だ!」

「父さんが消す方法を探すから、それまで大人しくしてろって事かな?」

「え、じゃあ私は、それまで色んな人に狙われ続けるってこと⁉」

「さゆには俺のシルシがついてるから、ソコは大丈夫なはずだ。それに俺が絶対守るし」

「……っ」


カッと顔を赤くした私の横で、イオくんがため息をつく。


「なににしろ、再び父さんと会えるまでは何も分からない……か」


推理を重ねたところで、肝心のモクがいないんじゃ机上の空論だ。

私たちはため息をついた後、「とりあえずご飯を食べよう」と。各々の騒がしいお腹をさすった。


「あ、王史郎。ちょっとお願いがあるんだけど、いい?」
「なんだよ」

「私の部屋まで、連れて行ってほしいの」
「いいけど?何かあんの?」


小首を傾げる王史郎が、私をサッとお姫様抱っこする。慣れない態勢に、また顔が赤くなる!


「さゆ、王史郎の抱っこが嫌なら、いつでも俺が変わるからね?」

「こら、イオ」
「は、はは……。ありがとう、イオくん」


イオくんのウィンクを見届けた後。ボロボロの廊下を進んだ私たちは、ついに私の部屋へ到着する。


「あった!」


駆け寄った先には、机上に置いたままのオムライスがある。昨日、王史郎が作ってくれたご飯だ。


「良かった~、無事だった!」


無傷のオムライスを見て、ホッと胸を撫で下ろす。王史郎が書いてくれた「ゴメン」の文字も、ちゃんと残ってる!


「ゲ……さっきの戦いで痛んでるんじゃね?やめとけよ」
「大丈夫!王史郎のスマホで写真を撮った後に、ぜーんぶ食べるよ!ごめんって謝ってくれたの、嬉しかったし」
「さゆ……」


眉を下げた王史郎が、一歩、また一歩と私に近づく。


「昨日は悪かった。頭ごなしに怒りすぎた。昨日は、さゆがイオと仲良く帰って来たり、さゆがイオの制服を着てるのがムカムカして……嫌だったんだよ」
「え、それって……」


王史郎の青い瞳と目が合う。窓から入る日光で、「青」は眩しいほどキラキラ光っている。

そのキラキラは、私の胸の中にも降ってきて……トキメキが、どんどん積もった。

だってさ、さっきの王史郎の言葉。
勘違いじゃなければ、ヤキモチだよね?

それに、さっき頬にキスされたし、戦いが終わったら聞いてほしいことがあるっていうし!


一体どうしちゃったの、王史郎!


ボボボと顔を赤く染めた私の頭は、もう沸騰状態。

でも至近距離に王史郎のかっこいい顔があるし、ドキドキしすぎて目が回っちゃいそう!

そんな私の混乱に気付かないらしい。
王史郎は、構わず話を続けた。


「さっきさゆが言ってくれたこと、ぜんぶ嬉しかった。一緒に戦うとか、俺が必要とか――思えば俺って、一人で寂しかったのかもな」


ハハと笑う王史郎が、寂しそうに揺れている。

初めは、グラグラ。
次第に、グラングラン。

……ん?
王史郎、なんで揺れてるの?


ここで、朝起きた時のことを思い出す。

確か、風邪薬を取りに行こうと部屋を出た時、モクに会ったんだっけ?

――あぁ、そうだ。

私、風邪引いてたんだった!王史郎が揺れてるんじゃなくて、私がフラフラしてるんだ!


「さゆとケンカして、部屋に一人になって思ったんだ。さゆと離れることほど、嫌な事はないなって――もう二度と、ケンカしないって約束する。

だからさゆも、俺のそばから離れるな。
俺は、さゆがいないとダメらしい……って。

おい、さゆ?」

「も、もうだめぇ~……」

「は?こんな時に……おい、しっかりしろ!」


さゆ――!


王史郎の声が、一音一音、耳の奥で木霊する。

真剣な顔したり、照れたように赤くなったり。
色んな顔で、私の名前を呼んでいる。

心配かけてごめんね、大丈夫だよ――って言いたいのに。口を出たのは、九年間言えずじまいだった言葉。


「王史郎、守ってくれて、ありがとう……」
「え?あぁ」

「これからは、ずっと一緒……スー」
「!!」


予期せぬ言葉に、王史郎の顔がリンゴみたいに赤くなる。

だけど自分の胸に寄りかかったまま、コテンと寝た私を見て。王史郎は「あ~もう!」と、盛大にため息をついた。


「ずっと一緒、なんて。殺し文句すぎるだろ……。
起きた時、〝忘れた〟なんて言わせないからな」


王史郎は熱くなった私の体をひょいと持ち上げ、ベッドに移動させる。

覚えのある浮遊感に安心したのか、私は寝言で「ふふ」と笑ってしまった。


「おうし、ろう……」
「ふっ。なんだよ、ご主人サマ」


私をベッドに降ろした後。王史郎はおもむろに私の前髪を上げ、額に口づけを落とした。


「早く元気になれよ、さゆ」



☪︎·◌˳𓇬‬




翌日。
良く寝たおかげか、体はスッキリ!
熱も下がったようで、おでこがひんやりしてるくらい。


「そう言えば……」


昨日、部屋に王史郎がいる時。
何かがおでこに当たったような……。

 コンコン


「さゆ、起きてるか?」
「王史郎!うん、起きてるよ」


私の返事を聞いた後。お水と薬と、更にウサギの形をしたリンゴをお盆に乗せ、王史郎が部屋に入る。


「風邪はどうだ?」
「もう平気!リンゴ切ってくれたの?」

「食べられるなら、と思って」
「食べる!お腹ペコペコだったんだ~」


シャクシャクとリンゴを頬張る私を見ながら。王史郎はポツリポツリと「その後」を話してくれた。


「あれからモクは姿を見せない。イオが騎士団の力を結集してコンタクトを取ってはいるが、音沙汰なしだ」
「イオくんと騎士団って、今ケンカしてるんじゃなかったっけ?」


「イオが、騎士団に全ての事情を話した。モクは愛する妻を亡くし悲しみに暮れた結果、俺に禁忌をほのめかし赤い宝石を生み出した――ってな。

驚くことに〝宝石を壊すことで全ての罪を許す〟と言ってくれたらしい。騎士団にとって赤い宝石は目の上のタンコブだから、それさえ消えてくれればいいんだと」


目の上のタンコブ……確かに。
吸血鬼に赤い宝石が渡ったら、敵が強くなって大変なことになるもんね。


「あと、家は完璧に直ったから、もう普通に過ごせるぞ」
「へぇ⁉」


悲惨な状態だった、あの家が〝直った〟⁉
ボコボコの穴だらけで、所々コンクリートが剥き出しだったのに⁉

ビックリ仰天な私の顔を見て、王史郎は吹き出す。


「〝ある人〟が、手を貸してくれたんだ。会ってみるか?」
「ある人?」


王史郎からスマホを渡される。見ると、既に「発信中」の画面になっていて……え。私、寝起きだよ⁉

「むり!出られないよ!」と王史郎に言っても、スマホを突き返される。うぅ、どうやら私が話さないといけないみたい。

すると、画面がパッと変わる。
写っていたのは……


『ハロー、さゆ!元気だった?』
「お、お母さん⁉」


相手は、なんと私のお母さん!その後ろで「お父さんもいるぞ~」と、お父さんが笑顔で写っている。

これって一体、どういうこと⁉


『さゆは風邪だって聞いたけど、もう体調は大丈夫なの?』
「うん!もうすっかり!
って、それどころじゃないよ!どうして王史郎のスマホに、お父さんとお母さんが写ってるの?」


するとお母さんが、眉を下げて謝った。


『さゆ、いきなり日本へ送ってしまってごめんね。
でも、それが王史郎くんとの〝約束〟だったのよ』
「王史郎との約束……?というか〝送る〟って、私がテレポートしたこと?」


お母さんが頷く。
そして衝撃の発言をした。


『今まで黙っていたけど、お母さん魔女なの。生まれつき魔力があってね、イギリスでは〝そういう生業〟の仕事をしているのよ。あ、お父さんは一般人ね』
「えぇ⁉」


お母さんが魔女⁉
そんなの全然しらなかったよ!

……いや、でも昔。

私が泣いてる時にぬいぐるみが浮いたり、人形が勝手に喋ったりって事があったかも。あれって、お母さんの魔法だったんだ!


「でも!どうしてあの日、私を日本へ送ったの?」


私の質問に、お母さんが視線を落とす。
そして「あの日」と、重たい口を開いた。


『九年前。イオくんに抱えられてさゆがウチに帰って来た時、ビックリした。さゆは血だらけ、イオくんも消耗しきっていたんだもの。

事情を聞けば、モクのせいでさゆの体に宝石が埋まり、王史郎くんは吸血鬼になったとか――絶望したわ。同じ親として、子供にそんな酷なことをするなんて。許せなかった』


ふぅ、と息を吐くお母さん。
その肩にお父さんが寄り添い、しっかり支えている。


『でも一番ビックリしたのは、吸血鬼になって間もない王史郎くんが、その力を使ってモクを封印したことよ。

その後、王四郎くんは、私に二つのお願いをした。

幼少期のさゆの記憶を、私に預かってほしい。
赤い宝石の存在を隠す力を貸してほしい、と』

「王史郎が……」


チラリと王史郎を見る。
彼は表情を変えず、静かに聞いていた。


『私は王史郎くんと協力し、強力な魔力を作った。そうしてモクと、さゆの体に眠る赤い宝石――この二つを、固く封印したの。二人で力を合わせれば、封印は長く持つ。でも……デメリットもある。

どちらかの封印が解けたら、どちらかの封印も解ける――魔法は、完璧じゃない』


そうだったんだ……。
私の知らない事実に、圧倒される。

今まで私が平和に過ごせていたのは、二人の魔法で、宝石が封印されていたから。

王史郎とお母さん、二人のおかげだったんだ。


『その後、王史郎くんたちが日本に戻るというから、ある約束をしたの。イギリスにいるモクの封印が解けた時、一番にさゆが狙われる。その時は、王史郎くんの元へ、さゆを送らせてほしい。どうか守ってやって――ってね』
「それで、私一人が日本へ送られたんだね……」
『ごめんね。モクに対抗できるのは、封印までこぎつけれた王史郎くんしかいないと思ったの。そこへさゆを送るのが一番安全だろうって……無理を言ったわね、王史郎くん』


すると、王史郎は背筋をシャンと伸ばして答えた。


「そもそも俺はさゆを守る気でいたので、全然問題ないです。……と言っても、風邪を引かせてしまいましたが」
『そこに関しては、さゆの不摂生だと思うから気にしないでね。ね、さーゆ?』
「うぅ……!」


確かに、濡れた服のまま爆睡して、風邪を引いちゃった私だけど!私が悪いけど!

離れているのに、どうして私のことが分かるの、お母さん!


『本当は、私がモクを再び封印するはずだったのに。出来なかった挙句、逃げられて……ごめんなさいね王史郎くん。テレポートを使って応戦したかったのだけど、モクとやり合って魔力が残ってなかったの』
「お母さん……」


お母さんが悔しそうに俯く。いつだってニコニコ優しいお母さんだけど、こんな顔もするんだ。

その時、思った。
必死になったら、きっと大人も子供も関係ないんだって。モクも、子供みたいに宝石に執着していたし。

すると、王史郎の掠れた声が聞こえる。


「さゆが日本に来た時、〝ついにこの時が来たんだ〟と思った。父さんの封印が解けたんだって。父さんを、消す時がきたんだって……。
でも、さゆが父さんを信じてくれた。
父さんが父さんに戻るきっかけを、作ってくれた。
本来であれば、どんなことがあろうと俺が父さんを消すべきだったのに……心のどこかで、この結果にホッとしている自分がいるんです。
裏切るような事をして、本当にすみません」
「……ッ」


初めて聞く、王史郎の本音。

今まで気丈に振る舞っていたけど……モクの息子である王史郎が、何も思わないわけないじゃん。自分の父親を消すなんて、内心は傷ついたはず。

私は画面の写らないところで、王史郎の服を引っ張る。

これ以上、自分を責めないでほしかったし、私もこの結果が一番良かったって思っているから。

だから――


「謝らないで、王史郎」
「さゆ……」


するとお母さんも、画面の中で頷く。


『そうよ、謝らないで王史郎くん。あなたは何も悪くない。むしろ、ここまでさゆを守ってくれて、本当に感謝しているの』
「……そんなことないです、俺は」
「ううん、王史郎はスゴイよ!本当に、カッコイイんだから!」


傷ついた顔を見ていられなくて、両親が見ていることも忘れて王史郎に詰め寄る。すると王史郎の頬が、だんだん赤く色づいていく。


「さゆ……もう、いいから……っ」
「……あ」


二人で姿勢を正し、再び画面に向き直る。すると写っていたのは、お母さんではなくお父さんだった。


『王史郎くん。失礼だが、今その家に住んでいるのは、君とさゆの二人だけかい?』
「あと、たまに双子のイオがいます」
『若い男女が、三人で!』


目つぶしでも食らったように、お父さんは顔を覆う。そして、とんでもない事を言い始めた!


『母さん、さゆが心配だから、今すぐ日本へ行こう』
「え!」


声を上げた私を見て、お父さんの目がキラリと光る。


『このままじゃダメだと、お父さんの本能が言ってるんだよ!だから今すぐ迎えに行こう、早く早く!お父さんは、もう準備万端だよ⁉』


だから早くテレポートを使って!と叫ぶお父さんを押しのけ、再びお母さんが画面へ移る。


『そうしてあげたいのは山々なんだけど、魔女としての仕事が残っているのよ。だから迎えに行くのは、もう少し先になるかしらね☆』


その時、お母さんが私にバチンッとウィンクをした。
んん?……え?

まさかお母さん、私に気を遣ってる⁉
私が王史郎のこと好きだと思ってる⁉

水から出た魚のように、口をパクパク動かす。そんな娘をクスリと笑った後、お母さんは王史郎と話を続けた。


『王史郎くんたちには迷惑をかけると思うけど、さゆを頼んでいいかしら?モクが戻って来るまでの間、私たちもコッチで赤い宝石のことを調べておくわね』
「もちろん大丈夫です。俺も、さゆと一緒にいたいので」
「⁉」


サラッと爆弾発言をかます王史郎。

言葉の意味、分かってる?
恥ずかしいこと、平気で言えちゃうんだ⁉

目をグルグルさせ、のぼせた私を見て。お母さんが「あらあら」と口に手を添える。

「若いっていいわね~」と笑う後ろで、お父さんは白目をむいていた。今にも泡を吹きそうなんだけど、大丈夫かな……。


『じゃあ、さゆ。お二人に、失礼のないようにね。
王史郎くん、これからもよろしくね。イオくんにもそう伝えてくれると嬉しいわ』
「はい。こちらこそよろしくお願いします。家をなおしてくださり、ありがとうございました」

『また何でも言ってね。あ、そうだ。こっちにあるさゆの私物を、テレポートで送るわね』
「ありがとう、お母さん!」

『それじゃあ、元気でね』
『さゆ!絶対に会いにいくからなー!』


ふふ、と笑うお母さん。
なぜか号泣のお父さん。

賑やかな二人が画面から消えた後。
ほどなくして、パッと私の荷物が現れる。


「私の荷物ー!やっとスマホゲットだ!長かったよ~」
「そんなに嬉しいか?」


眉を八の字にする王史郎に、私のスマホをズイと差し出す。


「そりゃ嬉しいよ!これでいつでも王史郎と連絡とれるもん。ってわけで連絡先、交換しよ?」
「わ、わかったよ……」


モジモジしながら王史郎は私のスマホを取り、慣れた手つきで連絡先を交換した。連絡先一覧に「王史郎」の文字がある。それだけで、なんだか嬉しい……かも。


「ありがとう、王史郎」
「……」
「ん?どうしたの?」


静かになった王史郎の顔を覗きこむ。顔には「困惑」の二文字。


「さゆって、他の奴にも、こんな風に交換したりすんのかよ?」
「え?そりゃ〝交換して〟って言われたら、するけど……」


でも普通だよ?――言いかけた言葉は、王史郎に抱きしめられ、頭から吹っ飛ぶ。


「な、え⁉ちょ、王史郎!何してるの⁉」
「さゆが倒れる前、俺が言ったことを覚えてるか?」
「え……?」


そう言えば、昨日。
王史郎が私に、何か言っていたような……。


私がイオくんと一緒に帰って来たのが嫌とか。
私と離れるのが嫌だとか。
私がいないとダメだとか…………ん?


そう言えば、あれってどういう意味なの?
まさか、そのままの意味――?


ボンッと顔を赤くした私を見て「思い出したみたいだな」と王史郎が笑う。


「俺、今までさゆを〝仲の良い女の子〟って思っていたけど……それは違うって、昨日やっと気づいた。さゆを特別な女の子だと思っていたからこそ、守りたいと思ったんだ。

さゆは?さゆは、俺に何も思ってない?俺って、気軽に連絡先を交換できる、男子友達の一人?」
「え、いや……えっと……」
「俺は、さゆの特別じゃない?」


黒い瞳に見つめられる。
というか、かなりにじり寄って来られてる!

あまり近づかれると、昨日ほっぺにキスされたことを思い出すから、やめてほしい……!


「ち、近いよ!王史郎!」
「あ、悪い。人間に吸血する時かなり近づくから、通常の距離感がバグってるんだよな」


ぽりっと頬をかきながら、ウソ偽りなしの顔で喋る王史郎。

私は「吸血」の言葉を聞いて、ある日のことを思い出す。


それは、王史郎が女子生徒の血を吸っていた時。

あぐらをかいた足の上に、女の子を抱きかかえて、そして……あぁ、なんか嫌だな。胸が苦しくなってきた。ムカムカしてきたし……。


「王史郎。あぁいうことは、もう……」
「なんだよ。〝あぁいうこと〟って」
「――え⁉」


思わず声に出ちゃってた!
ヤバ、と思った時は、既に遅くて。

私が何を言いたいか分かった顔をした王史郎は、得意気に口にニンマリ弧を描く。


「そう言えば、契約を結んだら、俺はご主人サマの血しか飲めないんだった」
「え?」

「ということは俺は今後、さゆの血しか飲まないってわけだ」
「そう、なんだ……」


ホッと短く吐いた息が、王史郎の目にしっかり映る。彼が更に口角を上げたのは、言うまでもない。


「俺を独り占めできて満足ですか?ご主人サマ」
「!」


私の気持ちを的確に当てる王史郎。なんて勘の鋭さ!

楽しそうにベッドに座る王史郎の背中を、グイッと押し戻す。


「さすがに今は飲まないよね?ほら私、病み上がりだし!血がマズくなってるかも」
「んなわけあるか。もう何回も飲んでるんだから分かるよ、さゆの血は美味しい」
「ッ!」


く、食い気味で否定された!
副音声で「だから今すぐ飲ませて」とも聞こえる!


「な、なんで……なんでそんなに余裕なの⁉」
「なんでって、昨日お前が言ったんだぞ。血を飲んでとか、指輪をもらうなら俺がいいとか」
「え?」


記憶を整理する。

あれは確か、モクとの戦闘の終盤で――あぁ!
少しずつ記憶の蓋が開き、ほどなくして全て思い出す。

そう言えば、昨日……言った!!
恥ずかしいことばっかり言った!

わぁ~、ハッキリ思い出しちゃった!


「どうやら、ぜーんぶ思い出したようだな」
「ひぃ!」


王史郎が私を覗き込む。
その時、信じられないくらい心臓がはねて……やっと自覚した。


どうして他の子の血を吸うのが嫌なのか。
どうして王史郎を見ると心臓が跳ねるのか。
どうして「王史郎から指輪がほしい」と思ったのか。

――簡単なことだ。
答えは、私の中にあった。


「――……っ」


自覚してしまった。
この気持ちの名前を、見つけてしまった。


私は、恋をしているんだ。

どうしようもないくらい、王史郎が好きなんだ――


「なぁ、さゆ。今さゆの血がほしいって言ったら、怒るか?」
「え……」


さっきまでの意地悪は、どこかへ行ったらしい。王史郎の優しい顔が〝好きな人補正〟も入って、キラキラ輝いている。


「血を吸われるのが嫌なら、正直に嫌って言ってくれ。無理しなくて大丈夫だから」
「大丈夫だからって……」


吸血鬼のご飯=人の血なのに。
飲まなくて大丈夫、なんてこと、あるわけないのに。

こんな時でさえ、私を気持ちを大事にしてくれる王史郎。……ズルい。

そんな優しさを見せられたら、もう素直になるしかない。


「……ぃ、ぃぃょ」
「え」

「私の血……飲んでいいよ、王史郎」
「!」


恥ずかしさで声が震える私を見て――王史郎は、ふっと笑った。


「本当にいいのか?」
「い、いいっ」

「場所は?耳たぶにする?」
「耳たぶは蚊みたいだから……嫌」


耳まで顔を真っ赤にさせた私を見て、王史郎は「また虫かよ」と笑った。

そして――


「さゆ、好きだよ」


私の首に、甘く優しく、噛みついた。



「おーい!
さゆー、王史郎ー!」



「!」
「!?」


ピョン、と私たちはウサギのように跳ねた後、全く違う場所へ移動する。

ドドドと一階から駆け上がったイオくんが部屋の扉をあけたのは、ちょうどその時だった。



「追加のオムライス、出来たけどー?」
「あ、オムライス!まだ残しててくれたの?」


エプロン姿のイオくんを、指を組んで見つめる。料理はしないって聞いてたけど、すごい板についてる!


「王史郎が〝さゆがうるさそうだから残しておけ〟って言うから、追加で二つ作ったよ。
さゆ食べれそう?良ければ食べよ?
その……みんなで一緒に」

「イオくん!」
「イオ、お前……」


ツンデレなイオくんの、滅多に聞けない素直な言葉。私と王史郎は、まるでハイハイ出来た赤ちゃんを褒めるように近寄った。


「イオくん~、素敵だよ!」
「こ、子供扱いしないでよ!」

「お前、ちゃんと素直に言葉に出来るんだな」
「誰かさんを見て反面教師してるんだよ」


さんざん揉みくちゃに頭を撫でられたイオくんが、ついに怒る。


「もう!いいから、二人とも早く降りてきてよね!」


そしてドスドスと階段を降りる音が聞こえた。すごい地響き!


「また、さゆのお母さんに魔法で直してもらわないといけないかもな」
「ふふ。二人の役に立てるならって、お母さん喜ぶよ」


二人で笑い合った後、バチッと視線が絡まる。

恥ずかしくて、目を逸らそうとしたけど……肝心なことを言ってないと気づいて、王史郎の耳に近寄った。


「あのね王史郎……私も、大好き」
「!」


カッと顔を赤くした王史郎を見て、また私も固まる。

し、しまった!
すごく気まずい!!
イオくんと一緒に、下へ降りれば良かった!


「と、いうわけなので……あの、じゃあ!」


ビュンと、王史郎を置いて、部屋を後にする。

そんな私の後ろ姿を見届けた王史郎は、「はあ~~~~」と床に座り込んだ。


「あー、ダメ。可愛いすぎる」


ニヤニヤが止まらない王史郎は、私と「本当の契約をした時に出来た指輪」に目をやる。
そして――


「さゆの分も、用意しなきゃな」


呟きながら、満面の笑みを浮かべた。



【 End 】
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

そうして、女の子は人形へ戻ってしまいました。

桗梛葉 (たなは)
児童書・童話
神様がある日人形を作りました。 それは女の子の人形で、あまりに上手にできていたので神様はその人形に命を与える事にしました。 でも笑わないその子はやっぱりお人形だと言われました。 そこで神様は心に1つの袋をあげたのです。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

パンダを演じたツキノワグマ:愛されたのは僕ではなく、塗りたくった小麦粉だった

tom_eny
児童書・童話
「なぜ、あいつばかりが愛される?」 山奥の孤独なツキノワグマ・ゴローは、人々に熱狂的に愛される「パンダ」に嫉妬した。 里で見つけた小麦粉を被り、彼は偽りのアイドルへと変貌を遂げる。 人々を熱狂させた「純白の毛並み」。 しかし、真夏の灼熱がその嘘を暴き出す。 脂汗と混じり合い、ドロドロの汚泥となって溶け落ちる自己肯定感。 承認欲求の果てに、孤独な獣が最後に見つけた「本当の自分」の姿とは。 SNS時代の生きづらさを一頭の獣に託して描く、切なくも鋭い現代の寓話。 #AI補助利用

ローズお姉さまのドレス

有沢真尋
児童書・童話
*「第3回きずな児童書大賞」エントリー中です* 最近のルイーゼは少しおかしい。 いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。 話し方もお姉さまそっくり。 わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。 表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

小鳥

水翔
絵本
小鳥と少女の物語

緑色の友達

石河 翠
児童書・童話
むかしむかしあるところに、大きな森に囲まれた小さな村がありました。そこに住む女の子ララは、祭りの前日に不思議な男の子に出会います。ところが男の子にはある秘密があったのです……。 こちらは小説家になろうにも投稿しております。 表紙は、貴様 二太郎様に描いて頂きました。

瑠璃の姫君と鉄黒の騎士

石河 翠
児童書・童話
可愛いフェリシアはひとりぼっち。部屋の中に閉じ込められ、放置されています。彼女の楽しみは、窓の隙間から空を眺めながら歌うことだけ。 そんなある日フェリシアは、貧しい身なりの男の子にさらわれてしまいました。彼は本来自分が受け取るべきだった幸せを、フェリシアが台無しにしたのだと責め立てます。 突然のことに困惑しつつも、男の子のためにできることはないかと悩んだあげく、彼女は一本の羽を渡すことに決めました。 大好きな友達に似た男の子に笑ってほしい、ただその一心で。けれどそれは、彼女の命を削る行為で……。 記憶を失くしたヒロインと、幸せになりたいヒーローの物語。ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:249286)をお借りしています。

処理中です...