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謎のイケメンとバナナ
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しおりを挟む「バナナ、うめぇ……!」
「……えっと。そろそろ、何があったか聞いてもいいかな?」
わたしが家から持って来た生ぬるいバナナを、目の前で、一心不乱に食べている黒猫――もとい、ネコ化した野良千景くん。
「まさか昨日から、ずっとネコのまま?」
「そーだよ。戻らねんだよ、人間に」
「やっぱり……!」
昨日のイヤな予想、的中!
すると間の悪いことに、キーンコーンカーンコーンとチャイムが鳴る。
どうやら、一時間目が始まるみたい。
「行けよ、俺のことはイイから」
「千景くん……」
ネコの姿のまま、強がりを言う千景くん。
プイと、そっぽを向いた後ろ姿……。
そんなの、放っておけるわけないよ。
「行かないよ。千景くんを、このまま放っておけないもん!
どうやったら人間に戻るか、色々試してみよう!」
「例えば?」
「え? えっと……」
期待にかがやく、千景くんの目。
だけど、次のわたしの一言で、
「例えば、バナナを食べる……とか?」
「……」
目のかがやきは瞬時に消え、代わりに浮かぶ「諦め」の文字。
千景くんはため息をついた後。
残ったバナナを、ゆっくりと食べ始めた。
◇
ネコ千景くんが、バナナ完食後。
わたしと千景くんは、校舎裏で作戦会議をしていた。
「いつも、どうやったら人間に戻るの?」
「わからねぇ。体がムズムズしてきたら、人間に戻る合図だ。
だから、そういう時は、いつも何かに隠れてコッソリ人間に戻ってる」
「そ、そうなんだ……」
千景くん、大変な環境下にいるんだね……。
妖怪の呪いにかかる――
それがどういう事なのか、改めて知る。
「千景くんが祓い屋だから、狙われたのかなぁ?」
「は?」
「妖怪は、祓い屋と一般人の見分けがつくんだね。
それで、祓い屋である千景くんを狙って、呪いを、」
「なぁ……」
「ん?」
ネコ千景くんが、自分の肉球を、ポムポムと私の膝に押し当てる。
や、やわらかい……!
突然の癒しに、頭がぽややんとなる。
そうか、これが「脳が溶ける」って事なんだね!
だけど、次に聞こえたのは――
「俺、祓い屋じゃねーけど?」
「へ?」
溶けた脳が、すごい勢いで、元の形に固まっていく。
えっと……今、なんて言った?
「千景くんは、祓い屋なんだよね?」
「だから、ちげーって。
俺は、ただの、一般人」
まるで自慢するように、二本足で立ち上がるネコ千景くん。
ネコが二本足で立ってるのも衝撃だけど……。
千景くんが祓い屋じゃない方が、何倍も衝撃的だよ!
「えぇ!?
千景くんが祓い屋じゃない!?
なんで今まで言ってくれなかったのー!?」
「知らねーよ! お前が勝手に勘違いしたんだろーが!」
「そうなんだけど、そうじゃなくて!」
でも、千景くんが祓い屋じゃないなら、アレはどう説明するの!?
「あの“滅”は?“結界”は!?
千景くんが祓い屋だから、出来るんじゃないの!?」
だけど千景くんは、首をフルフルと振った。
オーマイガー。どうやら違うらしい。
「呪いを受けた日から、呪ったヤツに仕返しをしようと思って、死ぬ気で練習した。
自主勉だ。じーしゅーべーん」
「つ、つまりは呪詛返し……!」
呪った相手を呪い返してやる!っていうアレだ!
一般人が「滅」や「結界」が使えるようになるって、すごすぎない!?
「なんたるド根性……!」
「ふん。全然、嬉しくねーな」
それに――と、千景くん。
「オレは元々“視える”タイプだからな。そういう奴は、祓う素質があるんだろ。
だからお前も――
視えるんなら、練習次第で技が身につくと思うぞ?」
「祓う技……。わたしに必要かなぁ?」
「妖怪の気持ちに寄り添う“浄化”だけじゃ、限界がくるぜ。
前も言ったろ――妖怪は、全部が良い奴じゃねぇ。
力づくで抑え込まねーといけない時があるんだ」
「う……」
実際に呪いをかけられた人の言葉は、重みがある……。
思えばわたし、今まで「運良く」無事だっただけだもんね……。
千景くんのように、技を覚えないといけないのかも。
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