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祓う千景くんとチキンなわたし

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「はぁ、はぁ……。
 千景くん、ニワトリを、祓ったの?」
「あぁ」

 シュタッと、四本の足でカレイに着地する千景くん。
「礼なら、いらねーぞ」と、わたしを見てふんぞり返っている。
 だけど千景くん、違うの。
 わたしが言いたいことは、お礼じゃなくて――

「なんで祓っちゃったの!?」
「……へ?」

 怒るわたしを前に、ズルリとコケる、ネコ千景くん。
 目をパチパチさせ、驚いている。

「まさかお前、あのニワトリと友達になれると思ったのか?」
「友達じゃなくて、浄化しようと思ってたの!
 ニワトリは興奮していただけで、時間がたって落ち着けば、話が出来たかもしれないじゃん!」

「話をして、どーすんだよ」
「妖怪の心が、救われるかもしれないじゃん!」

 すると千景くんは「ウソだろ……」と言って、眉の真ん中に、シワを寄せた。

「タヌキが食われかけたんだぞ?
 それに、お前の体力はどうだったよ?
 あのまま走っても、すぐにニワトリに捕まる。
 捕まってたらどうなってたか……
 食われかけたタヌキを見たんだから、カンタンに想像つくよな?」
「そっ、それは……!」

 確かに――捕まったら、食べられていたかもしれない。
 危険な状況だったかもしれない。
 でも、だからって……。

「滅の力で押さえつけるのは……違うよ」

 いつもクラスの人に話を聞いてもらえず、からかわれて口を閉ざすわたし――
 そんなわたしと、さっきのニワトリを、どうしても重ねてしまう。

「……っ」
「……はぁ」

 ネコ千景くんは自分のため息を、まるでポイ捨てするように吐き捨てた。

「確かに、この前タヌキやカラスを、すぐに祓おうとしたのは悪かった。
 けどな。
 “すべての妖怪が良い奴”ってわけじゃねーだろ。
 人間と同じだ。妖怪だって良い奴もいれば、悪い奴もいるんだよ」

 ぐぬぬ、確かに……。
 そもそもが悪い妖怪なら、いくら話を聞いたところで、いい方向には転ばない。状況は悪化するだけ。
 イコール、人間のわたし達が危険な目にあう。

「俺の呪いは、妖怪がかけたものだ。
 妖怪が視えるってだけで、アイツらは絡んでくる。
 こっちは、別に視たくて視てる訳じゃねーってのに」
「じゃあ、呪いをかけられた時も……」

「そーだよ。あの日、妖怪と目が合った。
 関わりたくないからムシしてたら、ムカついたのか、追いかけられた。
 ……怖いと思ったよ。そうしたら、呪いをかけられた。
 その時に学んだ。
 妖怪に隙を見せたら、負けなんだって」
「あ、だから、あの時……」

 ――少しでも隙を見せたら、つけこまれんの。俺みたいにな

 あれは、千景くんの実体験だったんだ……。
 千景くんは、ネコになった自分の手を見る。

「その日から……俺は妖怪が大嫌いになった。
 妖怪と名のつくものは、すべて敵。祓う対象なんだよ」
「千景くん……」

 その時、わたしはおずおずと手を挙げる。

「あの、すごく今更なんだけど。
 妖怪にかけられた呪いって、まさか……」
「……」

 ブスリとはぶてた、ネコ千景くん。
 その顔に「わざわざ言わせるのか?」と書いてある。
 いや、わたしも何となく「何の呪い」かは分かるけど……。
 一応、ハッキリさせておかないと、ね?
 すると、ネコ千景くんは後ろを向く。
 そして一時間目が始まるチャイムを聞きながら、ポツリとつぶやいた。

「俺は、ネコに変化する呪いをかけられた。
 その呪いをかけた妖怪。
 その名前は――猫又だ」

 ◇
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