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祓う千景くんとチキンなわたし
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しおりを挟む「おはよう、花りんちゃん!」
「休田静ちゃん、おはよう」
朝、登校して教室に入る。
すると休田静ちゃんが、なんと挨拶をしてくれた。
カラスの妖怪――カーくんを助けた、心優しい女の子。
「今日の宿題やってきた? 難しかったよね~」
「休田静ちゃんも、難しいって思った? わたしも、けっこう苦戦して……」
「……」
「えっと、あの……?」
休田静ちゃんは、わたしを見て何も言わなくなった。
あれ? わたし……何か言っちゃったかな!?
だけど、心配するわたしをよそに、休田静ちゃんは「ぷは!」と、可愛い笑顔を浮かべる。
「花りんちゃん、なんでわたしの事をフルネームで呼ぶの?
聞いてたら、もう可笑しくて!」
「え、あ……ごめんね。クセで」
ぺこり、頭を下げる。
すると休田静ちゃんは、髪が乱れることを気にせず、思い切り首を振った。
「違う、怒ってるんじゃないんだよ?
あのね、花りんちゃんさえ良ければなんだけど……静って、呼んでほしいの!」
「静、ちゃん……?」
「そう!」
休田静ちゃん、じゃなくて。
静ちゃん――
声に出すと、一気に距離が縮まった気がする。
気はずかしくなって、ポポポと顔が赤くなった。
「花りんちゃん、顔が赤いよ? 大丈夫?」
「へ、へへへ、へーきですさ!」
「ふふ。“ですさ”ってなに?」
顔に手をやって、クスクス笑う休田静ちゃん――じゃなくて、静ちゃん。
はじける笑顔を浮かべる静ちゃんを前に、わたしは……。
――わたしと話して、クラスの人の目とか、大丈夫なのかな?
そんなこと。
「こわがりちゃんと話してるのかよ~」とか、静かちゃんがからかわれそうで……。
そういうの、静かちゃんは気にしないのかな?
「どうしたの? 花りんちゃん」
「えっと……」
わたしと話してて大丈夫?なんて。
すっごく勇気がないと、できない質問だ。
わたしはこわがりで、臆病者だから……できない。
妖怪には立ち向かっていけるのに、どうしてクラスメイトには言いたいことも言えないんだろう……。
わたし、やっぱりダメダメじゃんー!
チーン――
鐘の音と一緒に、頭上にあらわれるどんより雲。
すると、その時。
「あれ? 二人一緒なんて、めずらしいね。
もしかして、友達になったの?」
「え……」
顔を上げると、いたのは千景くん。
思わぬ王子様の登場に、静かちゃんは目をハートにした。
「千景くん! おはよう!
そうだよ、わたし達、友達になったんだぁ!
名前で呼び合う約束をしたんだよ」
「え!」
わたしたち、友達なの!?
静ちゃん、王子様を前に興奮して、頭が正常に働いてないんじゃ……!?
「静ちゃ、ぐふゥ!?」
静ちゃんに「早まらないで!」と言おうとしたら、千景くんに、肘で頬をグリグリされる。
い、いたい!
あなたの肘に、ドリルでも埋まってるんですか!?
千景くんは、皆に見えない位置で、わたしにドリル攻撃をかます。
そしてわたしを黙らせておいて、静ちゃんと平気で話を続けた。
「へぇ、友達かぁ。いいなぁ。
俺も、休田さんと小羽さんと、友達になりたいなぁ」
「ちょ、ぐふゥ!」
肘ドリル、深い……!
わたしに反論のスキを与えない千景くんに、静ちゃんは超高速で頷いていた。
「ぜひ! ぜひだよ、千景くん!」
「よかった。これからよろしくね、休田さん。
小羽さんも――ね?」
「は、はひ……」
魔王様のオーラを出す彼に「イヤです」とは言えず……。
わたしは、力なくうなずくしかなかった。
さらに千景くんは「さっそくなんだけど」と、わたしに振り返る。
「小羽さんに、係のことで話があるんだ。ちょっといい?」
「え……、イヤで、」
拒否しようとした、その時。
魔王サマ千景くんは、皆には見えないように、手を「滅」の構えにする。
そしてわたしの耳元で、こうささやいた。
「コッチの事で話があんだよ」
「コッチ、というのは、」
「決まってんだろ――妖怪の事だ」
「……」
「滅」の構え、イコール、「妖怪」のこと。
わたしの知らない間に、秘密の合図が出来ていた。
◇
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