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優しいカラスとクラスメイト
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しおりを挟むわたしと同じく休田静ちゃんも、おどろいた顔でわたしと千景くんを、交互に見ていた。
それなのに、この男と言ったら……
「じゃあ、俺は先に戻るね。
小羽さん、あとは頼んだよ」
それだけ言い残して、本当に去ってしまった。
まさかだけど……わたし、全部押し付けられた!?
「小羽さん、ごめんね。わたしに付き合わせちゃって」
「え、ぜ、全然! だだだ、大丈夫!」
悪いのはすべて、千景くんだから!
とは言えず黙っていると、休田静ちゃんは、千景くんの後ろ姿を見て、顔を赤らめていた。
え……、幻覚?
「ど、どうしたの?」
「ごめん、なんでもないの! 千景くんに、目を奪われてただけ!」
「目を……」
言葉の言い回しだと分かっていても、魔王サマ千景くんが、目玉を手に持つ姿を想像してしまう……。
いつも魔王サマ千景くんしか見てないから、実感ないけど……やっぱり千景くんって、人気があるんだなぁ。
まぁ、わたしには関係ない事だけどね!
「あ、それより。休田静ちゃん」
「どうしたの?」
ボブの髪を、きゅるんと揺らして、休田静ちゃんはほほ笑んだ。
「さっき、気を失う前……何かの声が聞こえた?」
「何かの声?」
「例えば、カラスの声……とか」
「……」
カラス――その言葉を聞いた瞬間。
休田静ちゃんは、小さな声で「あのね」と話した。
「さっき寝てる時にね、カラスの夢を見たの」
「え、どんな?」
「カラスが、自分の行きたい所に、自由に飛んでる夢。
わたしはなぜか、そのカラスの背中に乗ってるの。
わけわかんないけど、楽しい夢だった」
「休田静ちゃん……」
その時。休田静ちゃんは、少しだけ悲しそうに笑った。
「あの子も……今、自由に飛べているのかな。
そうだったら、いいな」
すると、その時。
彼女を見ていたカーくんが、広く大きく、羽を広げた。
そして――
『カァー!!』
物悲しくなった空気を切り裂くように、高い声で、一度だけ鳴く。
すると、カーくんの姿が視えないはずの休田静ちゃんは、下げてていた顔をパッと上げた。
そして空を見上げ、「うん」と頷く。
「いつか絶対、また会えるよね!」
休田静ちゃんが見上げた空。
それは、カーくんと出会った雨空ではなく――
どこまでも広がる、澄んだ青空だった。
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