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こわがり花りんと魔王サマ

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「俺は、祓う以外やったことがない。
 浄化なんて生ぬるい事してたら、こっちがやられるからな。
 だから――俺は俺のやり方で、やらせてもらうぞ」
「ま、待って!」

 ブンッ

 千景くんは、腕をふり上げる。
 まさか、やっぱり「滅」とか言うんじゃないの!?
 そう心配したけど……

 ドゴッ

「はい、気絶」
「……あれ?」

 タヌキくんの首に、華麗にチョップをした千景くん。
 クリティカルヒットしたのか、タヌキくんは白目をむいて気絶した。

「おらよ。縛っといたぞ」
「はや!」

 ロープなんて、いつの間に……。
 っていうか、妖怪にもロープって効くんだね!

「ずっと、縛っておくの?」
「ずっとじゃねぇよ。お前が納得するまでだ」
「へ?」

 わたしが納得? どういうこと?
 すると千景くんは、ポケットに忍ばせていた救急セットを取り出す。
 そして傷の手当をし、包帯をぐーるぐる巻きながら、わたしに話してくれた。

「恨みの感情に乗っ取られてるタヌキを、元に戻したいんだろ?
 妖怪になっちまったタヌキは、もう普通のタヌキに戻れねー。
 だけど恨みを断ち切れば、凶暴化を押さえることは出来るはずだ」
「”乗っ取られる”って……」

 そう言えば、千景くんはさっきも言ってた。

 ――妖怪を前に、気を抜いたり、暗くなったりすんじゃねーよ。すぐ”乗っ取られる”ぞ

 乗っ取られるって、ようは……自分を失うって、そういう事なのかな?
 じゃあ、これからタヌキくんに自分を取り戻してもらえば、もう凶暴化はしないってこと?
 千景くんに祓われる心配もないってこと?

「良かった……。千景くん、ありがとう」

 傷の手当をしてくれた千景くんの両手を、ギュッと握る。
 すると――

「な……っ!」

 千景くんは一気に顔を赤くさせて、手をほどこうと、必死にもがいた。

「離せ! だから、俺に触るなって言ってんだろーが!」
「なんで触っちゃダメなの? ハイタッチくらいしたいよ!」
「これはハイタッチじゃなくて、握手だろうが!
 ――あ」

 千景くんが短く「あ」と言った後、すぐ。
 ボワンという音と共に、巨大な煙が現れる。
 そして煙は、まるっと千景くんを呑み込んだ。
 え! まさか新たな妖怪!?

「千景くん!」

 急いで煙をパタパタ(手で)扇いで、この場から飛ばす。
 しばらくすると、煙が晴れて来た。
 そして、そこにいたのは――

「……にゃぉ」
「ネコ千景くん!?」

 黒ネコに変化した、千景くんの姿。

「か、かわいい~!」

 撫でようとすると、ネコ千景くんは「シャー!」と毛を逆立てる。
 刺激しないよう触りたいけど……ムリそうだ。
 千景くんって、人間の時もネコの時も、触らせてくれないなぁ……。

 落ち込んでいるわたしの前で、千景くんは二本足で立ち上がる。
 プルプルと体を震わせて……なんか、怒ってる?

「だから触るなって言ったのに……。
 くそ、小羽のバカやろー! 絶対に許さないからな!
 二度とお前に触られないよう、遠くに行ってやる!」

 そう言い残し、ネコ化した千景くんは、本当に行ってしまった。
「授業中だからシー」と言っていた本人が、叫びたい放題さけんでたけど……まぁ、いいか。
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