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こわがり花りんと魔王サマ

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 わたしとタヌキくんの間に立つのは、千景くん。
「結界」と言ったことにより、一瞬だけ、星の形が千景くんの前に現れる。
 すると、タヌキくんは星に弾かれ、大きく後ろに下がった。
 どうやら星は、バリアの役割があるみたい。
 その後、星はすうと、消えていった。

「ち、千景くん……ありがとう。
 でも、なんでここに? 帰ったんじゃ……」
「あほか。知り合いがやられるのを、黙って見てるわけないだろ」
「ち、千景くん~!」

 泣きながら鼻水を流すわたしを見て、千景くんはドン引きしていた。
「きったねーな」と、わたしに白い目を向ける。
 でも、いいんだ。
 だって千景くんは、わたしを助けてくれた。
 見た目は怖いけど、本当はとっても優しい人なんだって。
 本当の千景くんを、知れたから。

「千景くん、本当にありがとう~!」
「かんちがいすんなよ。アトアジが悪いってだけだ」

 ん? アトアジ?
 千景くんは、わたしに背中を向けたまま話す。

「恨みを残したお前が妖怪になって、今度は俺を襲うかもしれないだろ?
 なんで助けなかったんだー!、ってな。
 そんなのは、死んでもごめんだからな。だから助けたまでだ」
「いくらなんでも、わたし妖怪にはならないもん!」
「ふん、どーだかな。
 ほら――また来たぞ」

 タヌキくんが、二本足でユラリと立ち上がる。
 その時、千景くんが「確認するけど」とわたしに尋ねた。

「人間の友達がいないから、せめて妖怪の友達を――
 そう思って、タヌキを助けようとしてるわけじゃ「断じて違います」……そうか、なら安心だ」

 人間の友達がいないから、妖怪の友達を作るって……。
 そんなこと、あるわけないじゃん。

「わたしは、ただ……話を聞いてあげたいの」

 タヌキくんは、さっき泣いてた。
 たった一人ぼっちで、悲しい思い出を背負ってた。
 それを知ったからには、助けてあげたい。
 見て見ぬふりは出来ない――

「わたしは……祓うんじゃなくて、元に戻してあげたいの。
 わたしたち人間のせいで妖怪になったなら、わたしたちの手で、
 タヌキくんを元に戻してあげたい」
「……チッ」

 え、舌打ち!?
 今のって「分かった」って、意気投合する流れじゃないの!?

「ち、千景くんを振り回してるのは分かってるよ?
 それは本当に、ごめんなさい。
 でも……」

 今まで私は、妖怪が視える人に出会った事がなかった。
 でも、今は――千景くんがいる。
 わたしと同じ景色を、千景くんも見てる。

 せっかく「視える仲間」が出来たんだもん。
 ここでケンカは、したくない!

「千景くんに、協力してほしい。
 タヌキくんを元に戻せるよう……
 わたしと一緒に、頑張ってくれないかな?
 お願いします!」
「……チッ」

 ひー! また舌打ちされた!
 もしかして千景くんと協力なんて、永遠に出来ないんじゃ――!?
 そう思っていると、

「仕方ねぇな」

 千景くんは構えていた手をゆっくり降ろし、タヌキくんの元へ走っていく。
 え、ちょっと待ってよ!

「危ないよ、千景くん……戻って!!」

 わたしが叫んだと同時に、千景くんは「わるいな」とつぶやいた。
 タヌキくんは、もう、目の前だ。
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