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こわがり花りんと魔王サマ

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「いつも、一人なんだし。今さら慣れっこだよ……」

 くちびるをキュッと噛み、茶色のモヤを見た。
 だけど――
 さっきまでモヤだった妖怪は、今や、少しづつ形ができてる。
 あれは……動物?

「短い耳に、尖った鼻。まるっこいフォルム……。
 そうか、タヌキだ!」

 すると茶色の妖怪は眩しく光り、モヤが晴れる。
 姿を見せたのは、やっぱりタヌキだった。
 だけど、目は赤いまま。
 普通のタヌキじゃないと、一目みただけでわかる。

『ニンゲン……、ゆるさない』
「それ……さっきも言ってたよね。
 ねぇ、聞いてもイイかな。
 あなたは、どうして妖怪になっちゃったの?」

 するとタヌキは、赤い目でジッとわたしを見る。
 この妖怪は、会話が出来るのかな?
 だったら良いんだけど……。

「わたし、小羽花りん。あなたの敵じゃないよ。
 わたしは、あなたを助けたいの!」
『! 花りん……?』

 タヌキは、わたしの名前を聞いて、ピタリと止まった。
 何だろう……?
 タヌキくんが次に何をするか分からなくて、思わず体に力が入る。
 だけど――

『う……っ、うわ~ん!』

 なんとタヌキくん。
 その場に座って、人間の子供のように、エンエンと泣き始めた。

『うわ~ん! うわ~ん!』

 目からポロポロ流れる涙が、すごく悲しそう。
 ナデナデしたら、怒るかな?

「えぇい、イチかバチかだ!」

 タヌキくんに近寄り、ヨシヨシと頭をなでる。

『花りん……?』
「泣き終わるまで、ここにいるから大丈夫。安心して。
 君は一人じゃないよ」

 ニカッと笑うと、タヌキくんの目の色が変わり始めた。
 赤色から、だんだんと――まぶしいほどの金色へ。

『ぼくは昔、この学校の子供たちに拾われたんだ』
「まちがって、山から下りてきちゃったの?」

『うん。ママとはぐれた。
 道に迷ってウロウロしていたら、学校に入っちゃったんだ。そして、子供たちに見つかった』
「……いじめられたの?」

 おそるおそる聞くと、タヌキくんは首をふった。

『ううん。とってもかわいがってくれたよ。
 ご飯も水も用意してくれて、休み時間になったら、遊びに来てくれた。
 でも……』

 すると。タヌキくんの金色の目が、にごってくる。
 キレイな金色は、影を薄めた。

『でも、子供たちは知らなかったんだ。ぼくがタヌキだってことを。
 タヌキの赤ちゃんは、よく子犬と間違われるから……』
「そっか。みんなはタヌキくんを、子犬だと思ったんだね」

 タヌキくんは、コクンと頷く。

『ぼくがタヌキだと分かった時から……ぼくは、いらない子になった。
 子供たちはご飯も水も、くれなくなった。
 それに……ぼくを、この学校から追い出したんだ』

 ――タヌキめ、あっちへ行け!
 ――きったねーな、タヌキ!
 ――よくも俺らをダマしたな!

『勝手にかんちがいしたのは、子供たちなのに。
 ニンゲンの方なのに……!』
「あ!」

 タヌキくんの目が、金色から赤色に変わって来た。
 いくら横で「タヌキくん、しっかり!」と言っても、私の声は、タヌキくんに聞こえないみたい。

『ニンゲン、許さない……!』
「タヌキくん!」

 わたしが伸ばした手もむなしく、タヌキくんにバシッと叩かれてしまう。
 すると、さっき校舎についていたようなひっかき傷が、わたしの腕に浮き上がる。
 腕から、血がジワジワにじんでる。
 少しだけ痛くて、思わず顔をしかめた。

「タヌキくん……っ」

 仲直り出来ると思ったけど、ダメなのかな?
 さっきまで、あんなに会話が出来ていたのに!

「目を覚まして、タヌキくん!」
『ギャオ―!!』

 ブンッ

 タヌキくんが、わたしに向かって鋭い爪を振り上げた。
 当たっちゃう……!!
 体を小さくして身構えた、その時だった。

「だから言ったろ、あほらしって――

 結界!!」
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