上 下
6 / 40
こわがり花りんと魔王サマ

しおりを挟む

「魔王……、じゃなくて。千景くん。
 どういう呪いをかけられたか、聞いてもいい?」
「……さっき、俺を変な呼び方しなかったか?」

 ブンブンと勢いよく、頭を左右に振る。
 すると千景くんは、ジト目でわたしを見てきた。
 だけど……「呪いねぇ」と。
 テンションが下がったような声を出す。

「呪いについては、また今度、話してやるよ」
「え! でも、」
「――小羽」

 大きな声を出すわたしに、千景くんは「静かにしろ」のポーズ。

「さっきからうるさい。授業中だぞ」
「え、あ……」

 千景くんは人差し指をピンと伸ばし、自分の口にあてた。
 カッコイイ千景くんがすると、なぜか王子様みたいにキマるから不思議――
 なんて思っていたのが、運の尽き。
 ボーッとしていたわたしの体は、急にぐらりと揺れ、地面に近づく。
 え、まさか……わたし、こけたの!?

「わ、わわわあ!?」

 パシッ

 何かにつかまろうと手を伸ばしたら、千景くんの腕に当たる。
 わたしは遠慮なく、千景くんの体に抱き着いた。
 すると――

「げ……!?」

 千景くんの顔が、みるみるうちに青くなる。

「ふぅ。なんとか、こけずにすんだ。
 千景くん、ありがとう!――って。
 千景くんこそ大丈夫? 顔が赤いよ?」
「う、うるせぇよ! きやすく俺にさわんな!」
「ひどい!」

 仮にもクラスメイトなのに!
 だけど悲しむわたしを横に、千景くんはビクッと体を震わせる。
 そして――

「あ、やっべ……!」

 それだけ言い残し、千景くんは、近くの草むらに隠れてしまった。
 ん? なぜ草むらに隠れるの?

「千景くん……大丈夫?」

 心配になって、急いでかけ寄る。
 だけど、そこにいたのは、魔王でも王子でもなく――

「にゃーん」
「……ネコ?」

 超絶かわいい、ネコがいましたとさ。

「ほうほう、ネコですか……」

 真っ黒のネコを前に、腕を組んで考える。
 学校に迷い込んだのかな?
 それとも、誰かが家から連れてきちゃったとか!?

「でも首輪がないなぁ。あ、そういえば――」

 確か、ネコってノドをマッサージすると気持ちいいんだっけ?
 よし!

「ほーらほら、マッサージだよ~。
 お、ゴロゴロっていい始めた」

 ネコは、わたしの手にされたい放題。
 無防備に体をねじったり、お腹を見せたりしてる。
 か、かわいい……!

「いま探してる千景くんも、これくらい可愛さがあったら、怖くないのになぁ」

 話し掛けると、ネコはとたんに、目を光らせた。
 ……ん?
 この目の鋭さ、どこかで見覚えがある!
 すると、まるで答え合わせをするように――ネコが口を開けた。

「悪かったな、可愛げなくて」
「……え?」

 ネコなのに、日本語をしゃべってる。
 それに、どこかで聞いたことがある声……
 え、もしかして――!?

「まさか、このネコ……千景くん!?」

 ネコを指さす手が、ガクガク震える。
 だって、だってだって!
 あの魔王サマ千景くんが、かわいいネコになって、喋ってるんだよ!?
 なんで、どういうこと!?
 そして、わたしのパニックがピークに達した時、

 ボフンッ

 白い煙と共にネコは消え、再び千景くんが姿を現した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

佐藤さんの四重奏

木城まこと
児童書・童話
佐藤千里は小学5年生の女の子。昔から好きになるものは大抵男子が好きになるもので、女子らしくないといじめられたことを機に、本当の自分をさらけ出せなくなってしまう。そんな中、男子と偽って出会った佐藤陽がとなりのクラスに転校してきて、千里の本当の性別がバレてしまい――? 弦楽器を通じて自分らしさを見つける、小学生たちの物語。 第2回きずな児童書大賞で奨励賞をいただきました。ありがとうございます!

大嫌いなキミに愛をささやく日

またり鈴春
児童書・童話
私には大嫌いな人がいる。 その人から、まさか告白されるなんて…! 「大嫌い・来ないで・触らないで」 どんなにヒドイ事を言っても諦めない、それが私の大嫌いな人。そう思っていたのに… 気づけば私たちは互いを必要とし、支え合っていた。 そして、初めての恋もたくさんの愛も、全部ぜんぶ――キミが教えてくれたんだ。 \初めての恋とたくさんの愛を知るピュアラブ物語/

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

人魚姫ティナリア

佐倉穂波
児童書・童話
 海の国に住む人魚ティナリアは好奇心旺盛。  幼なじみのルイを巻き込んで、陸のお祭りへ出掛けました。  21話完結。  番外編あり。 【登場人物】 ティナリア……好奇心旺盛な人魚の女の子。 ルイ……ティナリアの幼なじみ。人魚の男の子。 ローズマリー……貴族の女の子。 ヒューリック……王子さま。  表紙はAIイラストアプリ「Spellai」で作成したものを編集して、文庫本の表紙みたいに作ってみました。  児童小説なので、出来るだけ分かりやすく、丁寧な文章を書くように心掛けていますが、長編の児童小説を書くのは初めてです。分かりにくい所があれば、遠慮なくご指摘ください。  小学生(高学年)~中学生の読者を想定して書いていますが、大人にも読んでもらいたい物語です!

がらくた屋 ふしぎ堂のヒミツ

三柴 ヲト
児童書・童話
『がらくた屋ふしぎ堂』  ――それは、ちょっと変わった不思議なお店。  おもちゃ、駄菓子、古本、文房具、骨董品……。子どもが気になるものはなんでもそろっていて、店主であるミチばあちゃんが不在の時は、太った変な招き猫〝にゃすけ〟が代わりに商品を案内してくれる。  ミチばあちゃんの孫である小学6年生の風間吏斗(かざまりと)は、わくわく探しのため毎日のように『ふしぎ堂』へ通う。  お店に並んだ商品の中には、普通のがらくたに混じって『神商品(アイテム)』と呼ばれるレアなお宝もたくさん隠されていて、悪戯好きのリトはクラスメイトの男友達・ルカを巻き込んで、神商品を使ってはおかしな事件を起こしたり、逆にみんなの困りごとを解決したり、毎日を刺激的に楽しく過ごす。  そんなある日のこと、リトとルカのクラスメイトであるお金持ちのお嬢様アンが行方不明になるという騒ぎが起こる。  彼女の足取りを追うリトは、やがてふしぎ堂の裏庭にある『蔵』に隠された〝ヒミツの扉〟に辿り着くのだが、扉の向こう側には『異世界』や過去未来の『時空を超えた世界』が広がっていて――⁉︎  いたずら好きのリト、心優しい少年ルカ、いじっぱりなお嬢様アンの三人組が織りなす、事件、ふしぎ、夢、冒険、恋、わくわく、どきどきが全部詰まった、少年少女向けの現代和風ファンタジー。

恋より友情!〜婚約者に話しかけるなと言われました〜

k
恋愛
「学園内では、俺に話しかけないで欲しい」 そう婚約者のグレイに言われたエミリア。 はじめは怒り悲しむが、だんだんどうでもよくなってしまったエミリア。 「恋より友情よね!」 そうエミリアが前を向き歩き出した頃、グレイは………。 本編完結です!その後のふたりの話を番外編として書き直してますのでしばらくお待ちください。

校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話

赤髪命
大衆娯楽
少し田舎の土地にある女子校、華水黄杏女学園の1年生のあるクラスの乗ったバスが校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれてしまい、急遽トイレ休憩のために立ち寄った小さな公園のトイレでクラスの女子がトイレを済ませる話です(分かりにくくてすみません。詳しくは本文を読んで下さい)

処理中です...