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こわがり花りんと魔王サマ
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しおりを挟む『こっちに……、きて』
う……。
学校へ登校中の足が、ピタリと止まる。
わたしは、いま――
聞きたくない声を、キャッチしてしまった。
『こっちだよ……、こっち』
まただ。
また聞こえる。
人ではない、あの声が!
『早く、こっち……。来て……』
「うぅ……」
まるで、すぐ耳元で聞こえている感じ。
ボソボソって、ささやいているような……。
「こういう時は……、聞こえないフリ!」
ふたをするように、両耳に手をあてる。
ふっふっふ。
これなら「声」も聞こえな、
『きて……、来て……早く』
な、なにー!?
まさかの、ノーダメージ!?
「やっぱり、逃げるに限るー!!」
どんな事をしても、声は消えてはくれない。
わたしは、白旗を上げる代わりに。
「あ~」と耳にふたをして、うなりながら学校へダッシュした。
あ~、朝から疲れたくないのに……!
どうして毎回、「こうなる」のー!
わたし、子羽(こわ)花りん(かりん)。
小学四年生の十才。
肩より少し長いこげ茶色の髪に、まあるい目がチャームポイントの、とっても元気な女の子!
……じゃなくて。
本当は、何に対しても怖がりな、おくびょうものの女の子。
名前をイジられて、
「子羽花りんは、こわがりちゃ~ん」
なんて、クラスの皆から言われてる。
本当は、からかわれるのはイヤ。
だって恥ずかしいし、悲しいもん。
でも、クラスの雰囲気を、悪くするのもイヤ。
「こわがりのくせに、ハンコ―してくるんだ?」とか言われて、目をつけられたくないし……。
だからわたしは、みんなから何を言われても、言い返したりしない。
ヘラヘラ笑って、なんとかやり過ごしてる。
そう、わたしこと子羽花りんは、
とっても怖がりな、ヘイワ主義しゃなのです!
あ、友達はゼロ人だよ?
みんなは、わたしを「からかいたい」けど「友達にはなりたくない」みたい。
ほんと、勝手だよね。
でも、ハンコ―しないよ!
だって、ヘイワ主義しゃだからね!
でも、「友達はほしい」っていつも思ってる。
わたしだって、友達に話し掛けられたいし、お話したいよ。
でも――
『来て……』
「もうー! わたしに話し掛けてくれるのは、どうして、いつも人間じゃないの~!?」
耳にまとわりつく声を聞いて、ため息が出る。
そう。
わたし「だけ」に聞こえる、この声は……
人の声じゃない。
「こわいよ~……!」
耳と目を閉じて、走っていたわたし。
当たり前だけど、きちんと前が見えなくて……。
ドンッ
「い、いたた……」
何か固いモノに、思い切りぶつかった。
う~。本当、ツイてない……。
もう一度ため息をつき、学校を目指す。
だけど、その時。
『おい、こっちを見ろ』
「!?」
今までとは違う、ハッキリした声。
しかも……。
すっごく、エラソーな言い方!
「”こっちを見ろ”、だって……?」
見るワケないじゃん!
だって見たら最後、絶対にからまれるもん!
そんなのイヤ!
わたしは無事に、学校に行きたいの!
「スルーだ、逃げろー!」
足に力をこめて、全力ダッシュ!
逃げても声は聞こえるかも――と思ったけど、不思議なことに。
それ以降。
あの声は、まったく聞こえなかった。
◇
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