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うれしいごほうび!

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 ロロが私の元へ来て、一週間。
 今まで嫌いだったレッスンだとかお勉強だとか――それらの事に、ヤル気が出てきた私。
 レッスンの先生や側近から掛けられる言葉が、うってかわって、温かいものに変わった。

「最近のミア王女は素晴らしいですわね」
「一時はどうなるかと思ったが、見違えたな」
「これなら、いつどこの王子に見初められてもおかしくないですね!」

 お城で働く皆に、たくさん褒めてもらえる私。
 褒められるのって、すっごく嬉しい!
 この世界で、やっと私が認められたみたいで!
 だけど――
 すみません、私の頭の中は……

「ねぇロロ。私、いつ連くんと結婚できると思う?」
「…………」

 一日一回は、この質問をロロにしてしまうほど……
 結婚の事で、頭がいっぱいなんです!

「なぁミア、お前ちょっと頭を冷やせ」
「キンキンに冷えてるよ! 任せて!」
「うそこけ! 湧きすぎて沸騰してんだろうが!」

 ロロは、私の結婚願望を「無茶だ」という。
 まずは連くんと会えるようにするため、両国を仲良くさせろっていうんだけど……。
 でも、一体どうしたらいいんだろう。

「ハート国の実権は、お父様が握ってるんだよね。だから例え娘であっても、私は口を出す事ができないの。ましてや、スター国と仲良くしてほしいなんて……」

 部屋に飾っているお父様の写真を見る。
 白いヒゲに、赤い高級なマント。
 そして、いつも手に持っている長い杖。
 お父様は、いつだって厳しくも優しい、強い王様だ。

「まずは政権に口出しできるほどの知識を、頭に入れるんだな。賢くなれって事。
 国内の政治を多少まかせられたら、少しはチャンスが、」
「……ねぇ、ロロ」

「あ?」
「私、ロロに大事な事を言ってなかった」

 急に真面目な口調になった私を見たロロ。
 食べかけのクッキーを置いて、私の傍に飛んできてくれた。

「なんだよ?」
「うん。実は、私ね」

 こう見えて、中身は十歳なの――
 私がそう言うと、ロロはビックリしたのか。
 出していた羽がヒュンと引っ込んだ。
 す、すごい速さ……!

「じゅ、十歳……?」
「うん。十歳の、まだ子供。
 そう言えば、まだ言ってなかったなぁって思って。
 ごめんね? 言うのが遅くなって」

 ロロは、最初こそ目を点にしていた。
 だけど、しばらく黙った後は「アハハ!」と、ロロにしては、珍しく豪快に笑う。

「いやいや、ちょっと落ち着けって。
 なんで二十歳の見た目で、中身が十歳なんだよ。ありえねーだろ」
「いや、でも実際に私がそうで……。
 あ、ついでに言うと、たぶん連くんも」
「はあ!?」

 一国の王子と王女の中身が十歳って、どうなってんだよ!?
 そう叫ぶロロの言い分はもっともで、私こそ「なんで王女に転生したんだろう?」って何度も思った。
 転生するならするで、十歳っていう年齢は、せめて合わせてほしかったし!

「こう見えて私、まだ小学生なんだよ~」
「小惑星……?」
「違う、小学生!」

「小学生」という単語を知らなかったロロに、かみ砕いて説明する。
 そして全てを話し終わった時――
 ロロは、なぜか疲れていた。

「どうしてミアが文字の読み書きが苦手か……、やっと分かった。十歳じゃ、そりゃ分かんねーって……。
 悪かったな。今まで勉強だ、レッスンだを強要してきて。
 十歳のお前には、分からなくて当たり前だわ」
「え?あ、う~ん……まぁね。そりゃ大変だったよ。でも、」

 でも、あの日。
 ロロに言われた言葉は忘れない。

 ――この国の政権を握って、スター国と仲良くなるよう仕向ければいいんだよ
 ――そうすりゃ、行く末は王子と王女の結婚、とかなるんじゃね?

 この言葉があったから、私は新たな希望が持てたんだもん。
 私はいつか偉くなって、絶対にスター国と仲良くして連くんと結婚するんだから!

「連くんと会いたいし結婚したいから、ロロにあぁ言われて良かったよ!
 最近、みんなに褒めてもらえるしね!
 だから最近の私の頑張りは、私にとって良い事だらけかな!」
「ミア……」

 えへへ~と照れた私に向かって、手紙を書く便せんを、ロロは渡してきた。

「手紙?」
「そう。書けよ、スター国のレン王子に。
 俺が飛んで、持って行ってやるから」
「え……、いいの!?」

 すると、ロロはコクンと頷く。
 黒色の短い髪が、ロロの動きに沿ってサラリと揺れた。

「ありがとう! 書く、書くよ私!」
「はいはい、文字を間違えるなよ」
「はーい!」

 そう言って、必死に机に向かう私。
 たまに辞書を引きながら、そして言葉を選びながら……「こうでもない、あぁでもない」と手を動かす。
 そんな私を見て、ロロが一言。

「スター国のレン王子も、中身が十歳……ねぇ。
 でも、変なんだよな。ミア王女は勉強が出来なくて”ダメ王女”って呼ばれてたけど……。
 レン王子は、そういうマイナスな噂が全くないんだよな」

 むしろ――と、ロロは探偵のように、顎に手を添える。

「むしろ、レン王子は歴代のどの王子よりも秀才で敏腕だって……、そんないい噂で持ち切りなんだよな。
 ミア、その噂の事を、知ってんのか?」

 レン王子の中身は、私と同じく小学生の連くんなのか――
 ロロの心配は、必死に手紙を書く私の耳には届かなかった。
 それほど集中していた私は、三日という長い時間をかけ……連くんへ渡す手紙を、やっと完成させる。

「ロロ、長い距離だけど、本当に大丈夫?」
「休み休みいくから、気にすんな」
「無理しないでね?」

 ロロがスター国へ出発する日。
 私は窓辺に立ち、ロロの無事を願っていた。
 だけど……

「俺に無理してでも、手紙を届けてほしいだろ?」
「う……」

 そんな事を言われて、少し動揺する私。
 だけど、次に急いで首をふる。

「そりゃ、一生懸命に書いた手紙だから、連くんに読んでほしいよ。
 だけど……ロロに何かあってまで、届けてほしくない」
「え」

「無理そうだったら、絶対に引き返してきて。
 いい?ロロ、約束だよ!」
「ミア……」

 いつもは口が悪いロロも、今ばかりは素直な様子。「分かった」と、控えめに頷いた。

「無理はしない。
 だけど、簡単に諦めたりもしない。
 約束する。
 俺は、ミアの頑張りを無駄にしない――
 これでいいだろ?」
「……うん!」

 大きな私の手を、小さなロロの手。
 お互いが握り拳を作り、コツンとぶつけ合う。

「いってきます、ミア」
「いってらっしゃい、ロロ!」

 蝶々の形をした、綺麗な透明の羽。
 それを最大限に広げて、ロロは飛び立った。

「連くん……手紙、読んでくれるといいな」

 気づけば、私は祈るように両手を合わせてロロを見送っていた。
 そしてもう見えない小さな姿に、しばらく手を振り続けたのだった。
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