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天使くんの決意3
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「ど、どういうこと?」
焦る私に、天翔くんは少しだけ眉にシワを寄せた。
「このシャトルは、俺の天使の羽で作った。晴衣が打ちたい場所に飛ぶよう、細工がしてある」
「え……」
「晴衣にとって、この大会が最後の大会なんだ。だから、勝たせてあげる。このシャトルを使って、試合に勝って」
「っ!」
天翔くんは、私に無理やりシャトルを握らせた。いつものシャトルと重さは変わらない。
確かに、これなら相手の選手も「普通のシャトル」と思うはず。
でもね、天翔くん。
「この羽は、使えないよ」
「え……」
驚いた顔で、私を見る天翔くん。
何言ってんだって思うだろうね。
どうしてって疑問を持つだろうね。
でもね天翔くん。
このシャトルは、使ったらいけないんだよ。
「私のために大事な羽を使ってくれてありがとう。でもね、私は実力で勝負したいんだ。言ったでしょ?勝率が低くてもいい。参加することに意味があるって」
「でも、」
「最期の思い出作りのためにズルして勝っても、幸せになれない。自分の実力の中で精一杯あがいて、がんばりたいの。それが私なりの、生き方だから」
「晴衣……」
眉を八の字にして、悲しい表情を浮かべる天翔くん。初めて見る顔だ。
天翔くんも、そんな顔が出来るんだね。
「悲しい」って思う心が、あるんだね。
それが分かっただけで、とても嬉しくなった。
「ねぇ、天翔くん。私にいい物を見せてくれて、ありがとう」
「また“いい物”?」
「うん、とっても!」
天翔くんは私からシャトルを取ろうとする。
だけど……私は「お守りにさせて」と、天翔くんお手製のシャトルを引き取った。
その後、天翔くんは姿を消し、再び時間が進み始める。
そして――
「ゲームセット!」
「ありがとうございました……!」
結局、セカンドゲームも21点には届かず、私は負けてしまった。
試合があっけなく、幕を閉じていく。
(負けちゃった……)
部活をたくさん頑張った。
自主練も欠かさず行った。
皆から何度も声援を受け、
天翔くんからお守りを貰った。
だけど、勝てなかった。
「晴衣、お疲れ様!すっごくいい試合だった!頑張ったね、晴衣!」
「智恵ちゃん……」
「カッコよかったよ!」
「……~っ、うん」
勝てなかった。
でもね、それだけじゃないんだよ。
(あぁ、悔しいなぁ……っ)
悔しかった――という感情。
それは「こんなにやったのに勝てなかった」という、努力あってこそ生まれる感情。
そう。
今まで私は、よく頑張ったんだ。今の私のベストを尽くした。
だから、ちゃんと自分を褒めないとね。
そして、笑顔で天翔くんに報告するんだ。
「悔しかった。私、悔しかったよ智恵ちゃんっ!頑張ったのにぃ~……!」
「うん、そうだね。悔しいね」
「うぇ~っ……!」
大声で泣いて、少し落ち着いたら、今度は仲間の応援のため、また大声を張り上げた。
そして賑やかな大会は、終わりを告げる――
「あーぁ。天翔くんに良い報告が出来ないなぁ」
シャー
ふくれっ面をしながら、夕暮れに染ったオレンジの街中を、自転車で走る。
「あんなに自主練に付き合ってくれたのに負けるなんて、天翔くんに申し訳ないな。帰ったら、たくさん謝って、たくさんお礼を言おう」
ここまで考えた時。「あ」と我に返る。
なぜなら、天翔くんが言った言葉を思い出したからだ。
「そういえば私。この帰り道に事故にあって――死ぬんだった」
思い出した瞬間。
私の真横から、いきなり大型トラックが現れた。
それは全く予想できなかった事で、ブレーキも何もかも、間に合うはずがない。
そして――
ドン
鈍く重たい音がして、大型トラックに跳ねられた私。
その体は、空へと高く上がっていく。
(まるで、飛んでるみたい――)
そう思ったのを最後に。
私の意識も、そして命も。
その灯りを、ゆっくりと消していった。
焦る私に、天翔くんは少しだけ眉にシワを寄せた。
「このシャトルは、俺の天使の羽で作った。晴衣が打ちたい場所に飛ぶよう、細工がしてある」
「え……」
「晴衣にとって、この大会が最後の大会なんだ。だから、勝たせてあげる。このシャトルを使って、試合に勝って」
「っ!」
天翔くんは、私に無理やりシャトルを握らせた。いつものシャトルと重さは変わらない。
確かに、これなら相手の選手も「普通のシャトル」と思うはず。
でもね、天翔くん。
「この羽は、使えないよ」
「え……」
驚いた顔で、私を見る天翔くん。
何言ってんだって思うだろうね。
どうしてって疑問を持つだろうね。
でもね天翔くん。
このシャトルは、使ったらいけないんだよ。
「私のために大事な羽を使ってくれてありがとう。でもね、私は実力で勝負したいんだ。言ったでしょ?勝率が低くてもいい。参加することに意味があるって」
「でも、」
「最期の思い出作りのためにズルして勝っても、幸せになれない。自分の実力の中で精一杯あがいて、がんばりたいの。それが私なりの、生き方だから」
「晴衣……」
眉を八の字にして、悲しい表情を浮かべる天翔くん。初めて見る顔だ。
天翔くんも、そんな顔が出来るんだね。
「悲しい」って思う心が、あるんだね。
それが分かっただけで、とても嬉しくなった。
「ねぇ、天翔くん。私にいい物を見せてくれて、ありがとう」
「また“いい物”?」
「うん、とっても!」
天翔くんは私からシャトルを取ろうとする。
だけど……私は「お守りにさせて」と、天翔くんお手製のシャトルを引き取った。
その後、天翔くんは姿を消し、再び時間が進み始める。
そして――
「ゲームセット!」
「ありがとうございました……!」
結局、セカンドゲームも21点には届かず、私は負けてしまった。
試合があっけなく、幕を閉じていく。
(負けちゃった……)
部活をたくさん頑張った。
自主練も欠かさず行った。
皆から何度も声援を受け、
天翔くんからお守りを貰った。
だけど、勝てなかった。
「晴衣、お疲れ様!すっごくいい試合だった!頑張ったね、晴衣!」
「智恵ちゃん……」
「カッコよかったよ!」
「……~っ、うん」
勝てなかった。
でもね、それだけじゃないんだよ。
(あぁ、悔しいなぁ……っ)
悔しかった――という感情。
それは「こんなにやったのに勝てなかった」という、努力あってこそ生まれる感情。
そう。
今まで私は、よく頑張ったんだ。今の私のベストを尽くした。
だから、ちゃんと自分を褒めないとね。
そして、笑顔で天翔くんに報告するんだ。
「悔しかった。私、悔しかったよ智恵ちゃんっ!頑張ったのにぃ~……!」
「うん、そうだね。悔しいね」
「うぇ~っ……!」
大声で泣いて、少し落ち着いたら、今度は仲間の応援のため、また大声を張り上げた。
そして賑やかな大会は、終わりを告げる――
「あーぁ。天翔くんに良い報告が出来ないなぁ」
シャー
ふくれっ面をしながら、夕暮れに染ったオレンジの街中を、自転車で走る。
「あんなに自主練に付き合ってくれたのに負けるなんて、天翔くんに申し訳ないな。帰ったら、たくさん謝って、たくさんお礼を言おう」
ここまで考えた時。「あ」と我に返る。
なぜなら、天翔くんが言った言葉を思い出したからだ。
「そういえば私。この帰り道に事故にあって――死ぬんだった」
思い出した瞬間。
私の真横から、いきなり大型トラックが現れた。
それは全く予想できなかった事で、ブレーキも何もかも、間に合うはずがない。
そして――
ドン
鈍く重たい音がして、大型トラックに跳ねられた私。
その体は、空へと高く上がっていく。
(まるで、飛んでるみたい――)
そう思ったのを最後に。
私の意識も、そして命も。
その灯りを、ゆっくりと消していった。
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