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一章 二節 前世のお話

九.五話 私も……

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病院に着くと、病室のベットで寝ているお兄ちゃんがいた。
すぐそばに医師がおり、医師は重い顔をしながら話していた。

「えぇ、あなた息子さんはとても危険な状態の陥っております。なので、私たちが全力を尽くしますのでどうかご安心を」

バインダーを持って話していた医師が病室から出ると、病室は沈黙に包まれた。
なぜか、お兄ちゃんの寝ているところはVIPなどが使う病室であった。

そして、ベット一つに対して部屋が広すぎる……うちの財政でこんなところに止められたのがびっくりしている。


部屋の端にあった、椅子に腰をかけながらお母さんは言った。

「さっきの説明聞いた?」

お母さんが頭を抱えながら言うのでお母さん表情を見ようと一瞬顔を上げてから言った。

「……聞いたよ……起きる確率は低いんでしょ?」

お母さんは数秒間黙った後言った。

「そうよ。起きる確率はもう無いに等しい。だけど、わたしは起きると思って……生かしておくつもり……」

「そんなこと言わないで!!」

わたしは大声で言った。お母さんは驚いたのか顔を上げて私の方を見て言った。

「ごめんなさい……あなたにとっては大切な兄よね……ごめんなさい」

「……わたしも少し頭を冷やしたほうがいいのかな」

わたしは、お兄ちゃんの手を握っていたが優しく手をベットに置いてわたしは病室を出ようとした。
病室を出ようとスライドするドアに手をかけようとすると……

「大丈夫なのか!?」

大声で入ってきたのはお父さん。
わたしの記憶が正しければお父さんは北海道に出張していたはず……ここは東京。

北海道からは一日ではつかないはず……

「お父さん!?」

わたしは目の前に突然お父さんが現れて驚いて尻餅をついてしまう。
わたしはお父さんを見上げながら言った。

「お父さん……なんでここに……」

「そりゃ当たり前だろ!!息子が事故にあったと聞いたら飛んで帰ってくるわい」

そう言いながら、わたしの横を通りお兄ちゃんのそばに行った。
お父さんは必死に起きるはずがないお兄ちゃんに対して大声で話しかけていた。

わたしはその光景を見て、馬鹿馬鹿しく見えた。

わたしは病室を出て病院の屋上に足を運んだ。

屋上の手すりに手を置きながら綺麗な夕焼けを見ていた。
すると、後ろの方からドアが開く音がした。私は思わず振り返ってしまった。そこにいたのは知らない女の人。私は誰だと思いながら見ていると……

「あなた……もしかして梓四郎の妹?」

「そうですけど……」

私は戸惑いながらも、相槌を打ってしまった。
その女は少しづつ近づいてきてから言った。

「もう四郎君はいないの?」

「いえ、一応生きてはおります」

「そう……」

どこか悲しそうな表情を浮かべながら、その女は去って行ったのだった。


ー3年後ー


お兄ちゃんが植物状態になり早三年。
私は中学三年生だったが、今ではお兄ちゃんが事故にあった時と同じ年齢になってしまった。

「お兄ちゃん……」

私はお兄ちゃんの顔を優しく触りながら呟いた。
だが……お兄ちゃんの生命状態ももう限界であったのだった。

ピーピーピー

病室に響き渡る心電図の音。
そして、心臓の動きが止まったことを示す音が病室に響き渡る。


わたしは、お兄ちゃんの手を握り……


「よく頑張ったねお兄ちゃん」


笑顔で話しかけた。
まだ、お兄ちゃんの手は温かく人間らしさが残っていた。

私は、病室を出て屋上へと向かった。

そして、手すりを乗り越えて……


「お兄ちゃん……今向かうからね」


そう言い手を横に広げて、私は屋上から飛び降りた。
これが、誰かの為になるならと思いながらも私は飛び降りた。

親がなんと言おうと私は死ぬと決めていた。


これで……お兄ちゃんのそばに行ける。


私はそう思い、目を閉じた。
そして、次に目を開けたときには、お兄ちゃんが視界の中にあったのだった。
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