私の少ない命あなたなら幸せにしてくれる

mikadozero

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第三章 思い出

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時は週末。
約束していた遊園地にきている。

休日ということもあり、小さい家族連れが多かった。
そんな中、俺は葵と玲奈に腕を掴まれながら歩いていた。

「恥ずかしいんだけど…」

俺が、少し不満そうにいうと玲奈は力を込めて掴んでくる。

「悪い、悪い、ごめんって許して」

俺が玲奈に謝ると、玲奈は力を弱めてくれた。そして、葵がどこかの方向を指で指して言った。

「あれに乗りたい!」

そう言いながら葵がさした場所はジェットコースターだった。
俺は、本当のことを言うとジェットコースターは嫌いであった。どちらかというと絶叫系よりも静かに乗れる乗り物がよかった。

そんなことを考えているうちに葵と玲奈が腕を引っ張っていく。

「おいおい…玲奈お前は絶叫系嫌いじゃないのか?」

自分と同じ苦手な人を増やして乗らない作戦に出ようとしたのだが…

「いや、逆に好きだけど…アキ君嫌いなの?」

玲奈に言われてしまうとなぜだか否定ができなくなってしまう。
俺は意を決して言った。

「いや…お前が絶叫系嫌いだったら申し訳ないからな…」

頭の裏をかきながら言った。すると、葵が俺の耳元で囁く。

「あなた…絶叫系嫌いだもんね…」

「そうだけど…今回はしょうがなくだぞ!あと俺の耳元で囁くな」

そういうと葵は玲奈の隣まで小走りで追いつき俺は後ろのほうからついていく形になった。
順番待ちをしていると、玲奈が俺のすそを触って何か言いたそうにしている。俺は玲奈の口元に耳を近づけた。

玲奈は、周りに聞こえないような声で言った。

「トイレ…」

「いってこい。まだ時間はあるし」

俺はそう言い、玲奈をトイレに行かせた。葵がこちらを不思議な目で見ているが…目が合わないように俺は必死にそらした。

ー五分後ー

玲奈はトイレから帰ってきた。さっきの顔とは違く。どこかすがすがしさを感じる。
そして、やっと俺らの番が来た。

椅子に座り安全レバーを下す。

俺は一度深呼吸をして前を向いた。
やがて、動き出し…

そのあとの記憶は覚えてなかった。
ジェットコースター乗り場から降りてすぐのベンチに俺は俯いて座った。

すると、二人が俺隣に座って玲奈が背中を摩りながら言った。

「もしかして…アキ君絶叫系嫌いだったの?」

聞かれて俺は自我を取り戻してすっきりとした顔で言う。

「いや!楽しかったね!もう最高だった」

「じゃぁ何でそんな気分ダダ下がりなの?」

「それは…あれだ…お父さんが今日帰って来ないことを思い出してな…」

玲奈は納得したのかわからないがそのあとは何も質問してこずに飲み物を買いに行った。
葵は俺の肩に腕を回しながら言った。

「アキ君…言い訳見苦しいわよ!!」

「しょうがないじゃん!」

少し怒り気味で葵と言い合っていると…

「二人とも~買ってきたよ~」

その声を聞いて、俺と葵は少し距離をとった。それを見て玲奈は不思議だったのか…

「どうして…そんな座り方してるの?」

俺らは黙ってやり過ごした。玲奈は飲み物を渡してくれて話し出す。

「いやー次何乗る?」

一口飲んだ葵が言った。

「メリーゴーランド!」

「いいねぇ!」

玲奈はなぜか乗り気だった。二人は俺のほうを見て言った。

「「アキ君もいいよね?」」

二人からの圧は怖かった。俺は静かに頷くことしかできなかった。
そのあと、俺らはメリーゴーランドやいろいろな乗り物に乗った。

最後は遊園地の中で一番ゆっくりできる…

観覧車に乗った。

乗るとき三人で乗ったので少し驚かれてしまったが俺らには関係などなかった。
観覧車はゆっくりと上昇していく。

観覧車の中では重い空気が漂っていた。
誰も声を発しないで外の景色を眺めているだけ…

こんな観覧車はつまらないと思い俺は二人に話題を振った。

「今日の遊園地どうだった?」

玲奈がこちらを向いて言った。少しは興味を持ってもらえたみたいだ。

「楽しかった!!」

葵もオリジナルの感想を言ってくれるのかと思ったが…

「右に同じく」

玲奈は葵に利用されしまった。葵よそんなのでいいのかと思ってしまった。
俺は、外の夕日と街の風景を見ながら言った。

「今日は…久々に楽しめたのかもしれないなぁ…最近つまらないことばかりだったけど二人がいたから最近は楽しくなった」

そんなことを独り言のように言っていると二人は…

「「好きだよ!アキ君」」

そう言いながら俺の座っている席に飛び込んでくる。俺はいつものやつかと思ったが…

「今は…やめろ~ゴンドラが偏る~」

俺はゴンドラの中で叫んだのだった。
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