5 / 10
5. 王家主催のパーティー
しおりを挟む──国王と王妃を交えて話し合ったあの日から、1か月が経った。
今日は王家主催のパーティーが開かれる日であり、ヴィオレット達は朝から王宮に向かう準備に追われていた。
「……よし、これで大丈夫ですね。とても素敵です、お嬢様。」
リリィは鏡の前に立つヴィオレットの姿を確認すると、満足そうに呟いた。
今日のヴィオレットは、普段と違い式典用のスーツを着用している。
王妃様直々に『今日のパーティーは男装姿で出席しても良いですからね。ヴィオレットちゃんとビアンカの婚約発表も兼ねていますから、貴方達らしい姿で是非参加して欲しいの。』と言われてしまったからには妥協はしないと決めていた。
髪の毛はお気に入りの白いリボンでポニーテールにした。
今日の為に王家から届けられたスーツは、美しい白色に淡い黄緑色の刺繍が施されている。
ビアンカの髪と瞳の色に合わせて作られたものだ。
ヴィオレットはそのことに気がつくと、胸の奥がきゅんと熱くなる。
(ビアンカ様に早く会いたい……。)
ヴィオレットは逸る気持ちを何とか抑えつつ、部屋を出て両親の元へと向かう。ドアを軽くノックして入室すると、笑顔の2人が出迎えてくれた。
「お父様、お母様、王宮へ向かう準備が出来ました。」
「おお、ヴィオレット!よく似合っているじゃないか。」
「本当に素敵なスーツね。ヴィオレット、とてもかっこいいわよ!ビアンカ様の隣に並ぶのが今から楽しみね。」
両親は口々に褒めてくれると、ヴィオレットの手を握って言った。
「さあ、そろそろ馬車へ向かわないと。皆が待っているぞ。」
「はい、お父様。」
ヴィオレットが返事をすると家族全員で玄関ホールへ向かった。
そこに待機していた使用人達に見送られて、ビアンカが待つ王宮へと向かった。
◆
王宮に到着し早速招待状を門番に見せると、ヴィオレット達はすぐにビアンカの元へと案内された。
「ビアンカ様、ごきげんよう。」
「やぁ、ヴィオレット。それにサンセール侯爵夫妻、おはよう御座います。」
ヴィオレットはドレス姿のビアンカに見惚れつつ挨拶をした。
髪の毛はまっすぐに下ろしてあり、彼の動きに合わせてさらさらと靡いている。
ドレスは美麗な菫色で、所々に薄赤紫色の小さな宝石が散りばめられていた。
紛れもない、ヴィオレットの髪と瞳の色だ。そのことに気がついたヴィオレットは思わず満面の笑みを浮かべた。
ビアンカもヴィオレットの姿を目にするなり、嬉しそうな表情に変化した。
「やはりそのスーツを選んで正解だった。ヴィオレットにとても良く似合っているよ。」
「ありがとうございます、ビアンカ様のドレス姿もとても綺麗で素敵です。」
「ふふっ、そうかい?嬉しいな。」
ビアンカは少し照れくさそうに微笑む。
そんな彼にヴィオレットは小さな声で尋ねた。
「ところで、ネグロ様…はどちらにいらっしゃるのですか?」
「ああ、兄上なら……ローズ子爵令嬢と共に別室で待機しているよ。パーティーが始まるまでの間に邪魔されても困るからね。」
ビアンカは以前馬車で送ってくれた時のように、パチンとウインクをするとヴィオレットにだけ聞こえるように囁いた。
「ヴィオレット、今日のパーティーで兄上達を嫉妬させてついでに一泡吹かせてしまおうか。」
「ビアンカ様……」
彼の悪戯っぽい笑顔につられて、ヴィオレットもくすっと笑う。
「ええ、そうですね。」
ビアンカはヴィオレットの言葉を聞いて満足そうに笑うと、会場入りまでの間ヴィオレットの両親達も交えて談笑を楽しんだ。
8
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?
いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、
たまたま付き人と、
「婚約者のことが好きなわけじゃないー
王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」
と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。
私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、
「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」
なんで執着するんてすか??
策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー
基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。


婚約破棄された令嬢の父親は最強?
岡暁舟
恋愛
婚約破棄された公爵令嬢マリアの父親であるフレンツェルは世界最強と謳われた兵士だった。そんな彼が、不義理である婚約破棄に激怒して元婚約者である第一王子スミスに復讐する物語。

美人の偽聖女に真実の愛を見た王太子は、超デブス聖女と婚約破棄、今さら戻ってこいと言えずに国は滅ぶ
青の雀
恋愛
メープル国には二人の聖女候補がいるが、一人は超デブスな醜女、もう一人は見た目だけの超絶美人
世界旅行を続けていく中で、痩せて見違えるほどの美女に変身します。
デブスは本当の聖女で、美人は偽聖女
小国は栄え、大国は滅びる。
【完結】リクエストにお答えして、今から『悪役令嬢』です。
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「断罪……? いいえ、ただの事実確認ですよ。」
***
ただ求められるままに生きてきた私は、ある日王子との婚約解消と極刑を突きつけられる。
しかし王子から「お前は『悪』だ」と言われ、周りから冷たい視線に晒されて、私は気づいてしまったのだ。
――あぁ、今私に求められているのは『悪役』なのだ、と。
今まで溜まっていた鬱憤も、ずっとしてきた我慢も。
それら全てを吐き出して私は今、「彼らが望む『悪役』」へと変貌する。
これは従順だった公爵令嬢が一転、異色の『悪役』として王族達を相手取り、様々な真実を紐解き果たす。
そんな復讐と解放と恋の物語。
◇ ◆ ◇
※カクヨムではさっぱり断罪版を、アルファポリスでは恋愛色強めで書いています。
さっぱり断罪が好み、または読み比べたいという方は、カクヨムへお越しください。
カクヨムへのリンクは画面下部に貼ってあります。
※カクヨム版が『カクヨムWeb小説短編賞2020』中間選考作品に選ばれました。
選考結果如何では、こちらの作品を削除する可能性もありますので悪しからず。
※表紙絵はフリー素材を拝借しました。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる