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第三章 森林にて
魔物との遭遇
しおりを挟む【Side:主人公】
「キャー、イケメンアイドルグループよ。ねぇ、見て見てハルカ!」
「大丈夫、見テル見テル。イケメンだね。カッコイイネ………」
「もっとちゃんと見てよ、エンジェル・セブンよ! エンジェル・セブン! この曲も素晴らしいわ!」
ボクは死んだ魚のような目でテレビを見続ける。今日はアイドルのライブ映像が放送されているんだ。
『ぁぁぁ、………これは、カオスだぁ』
ボクは一体何を見ているのだろう。
『エンジェル・セブン』というアイドルグループは7人で構成されていて、アイドルらしいイケメンはたったの1人だけ。他のメンバーは……………残念過ぎる。肥満体形の男性もいる。
ボクは彼等の歌を聞いているだけで酷く酔いそうになる。鳥肌まで立ってきた。歌唱力までもが酷過ぎるんだ!
女性たちの耳にはこれが神々の熱唱やパフォーマンスにでも見えているのだろうか。
『醜いお前たちに、オレ様の愛を届けてやるよ!(投げキッス)』
『『『『キャー、遠藤く~~ん、大ッ好きーー!!』』』』
あー、なるほど。このメンバ―で随一の超肥満体形の彼が遠藤君なのね………。
太り過ぎているだけでなく、ちょっと髪の毛が薄い気もするんだけど、ボクの気のせいだろうか…………。
『お前たちはオレ様のものだ。これからもオレ様に貢いでくれるよなァァアーーー!!』
『『『『勿論よーーー!!』』』』
ファンの人たち………だね。
テレビ画面には度々ピンクの法被を着て騒いでいる女性集団が映ってくる。現地はとても盛り上がっているみたいだ。
マイクパフォーマンスで『貢げ』とか、遠藤君はそんな事を言って大丈夫なのだろうか。
超肥満体形でぽっちゃり系アイドルの範囲を逸脱した彼の容姿とマイクパフォーマンスにボクは戦慄を覚えた。
しかも他のアイドルメンバーまでもが遠藤君同様にズケズケと気持ち悪い内容を呟き始めた。ボクの脳はもう容赦なく揺さぶられて、目がグルグルと回ってきた。
この中継は全国放送なんだよね………?
彼等エンジェル・セブンは大丈夫なのだろうか。特に彼等の頭が。
今この場でワクワクした雰囲気で見ているのはリディアだけ。
そろそろボクは目が朽ちて、耳が捥げてしまいそうだ。
ちなみに、今いる場所はアンジェリーナさんの病室だから当然彼女もいる。
アンジェリーナさんはアイドルたちを見て首を捻り、何が良いのか良く分かっていない感じだ。それが大正解だと思います。
どうしてこんな事になったんだろうねぇ…………。
顔を斜め上方に向けて思わず遠い目をする。
この状況を説明するためには、少し時間を遡らなくてはいけない。
◆◆◆◆◆
ボクがリディアと連絡先を交換した次の日から、彼女とは毎日スマホ越しに最低1時間でも連絡することになった。
そうする切っ掛けとなったのは、前世の知識によるものだった。EMMというオンライン英会話ビジネスを思い出したんだ。
ボクが日本語教師として1時間でも時間をとれば、多少なりともリディアの語学学習が捗るのではないだろうか。少なくとも、分からない所を積極的に色々と質問しやすい環境は必要だろうと思ったんだ。
そして、彼女は本気で日本語を勉強したく思っていた結果、アイドルに手を出し始めたんだ。
ボクが映画や音楽をよく見聞きして趣味から英語が出来るようになったという話を自分の日本語学習にも取り入れたわけだ。
そして、話は冒頭に戻る。今日はテレビで数少ない日本人アイドルグループ『エンジェル・セブン』の生放送があるとのことで一緒に見る事になったんだ………。
「このエンジェル・セブンって、日本では今、1番流行ってるんでしょ?」
「そう、らしいね………」
「日本のアイドルってユニークなメンバーが多いのね。こうしてテレビで見る限りだと、皆ハンサムに見えるわ」
リディアの言葉を聞いて『眼科に行った方が良いのでは?』と内心で疑問を抱いたけど、言葉にはしない。
実際彼女が言うように、日本では今『エンジェル・セブン』が一番熱いアイドルグループだ。
容姿や曲、パフォーマンスなどが、この日本基準ではかなり高く評価されている。
以前の自分は何を履き違えていたのか、この『エンジェル・セブン』を結構気に入っていた………。
でもね、流石に今はあり得ないと思っているよ。
前世の『本物の男性アイドル』たちに比べれば、目の前で歌い踊る彼等はどれだけ稚拙なことか。
「ねぇ、ハルカ。多くのファンたちが此の遠藤という人を凄く応援している気がするのだけれど、このグループの中では彼が1番人気なのかしら?」
「ど、どうかな……。ボクはあまり彼等のグループが好きじゃないからさ~。ハ、ハハハ………」
おかしいな。この世界って美醜の価値観まで逆転していたのかな――そんなことない筈なんだけど………。
恐らく女性たちの広大なストライクゾーンが原因ではないだろうか。
「ねぇねぇ、この遠藤が今何を言っているのか通訳してくれるかしら?」
「それは………………」
ボクは彼女からの要求にゴクリと唾を呑んだ。
『伝え……られないかな。11歳のリディアには早過ぎるッ!』
自身の表情筋が盛大に引き攣っているのを感じる。
その時の遠藤君は、なんとアイドルとしては信じられない程の18禁な言葉をファンに対して叫んでいたのだ。
『この映像、本当に全国放送して大丈夫なのッ!? 遠藤君、暴走し過ぎでしょ!!』
ボクは結局、リディアには彼の言葉を聞き逃したと伝え、誤魔化すしかなかった。
流石に11歳の女の子に18禁でチョメチョメなことを伝えるなんてボクには出来なかったよ。
にしても、この様なアイドルグループが日本一の男性アイドルだなんて……………世紀末か。
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