流血剣士の恩返し

黒狐

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第一章 パーティーの離脱と単独行動 ラディウスside

4.1人で出来ること

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 ラディウスはギルドの依頼書に付属していた地図を頼りに、指定の場所へと歩みを進めていた。

 途中まで、田畑と村人達の家々が多かったが、次第に低い柵に囲われた木々が見えてきた。
 どうやらこの辺り一帯は全て果樹園らしく、色とりどりの果実がたわわに実っており甘い香りが漂ってくる。

 そして更に進むと、果樹園の入り口で手を振る女性を見つけた。
 ラディウスがその女性の側へと向かうと、彼女はお辞儀をすると元気よく挨拶をした。

「こんにちは!貴方が依頼を受けてくれた冒険者さんですか?私はここの果樹園の管理人をしているアイラと言います!」

 明るい笑顔を見せる彼女こそ、今回の依頼者であるアイラだ。

「俺の名前はラディウス、今日はよろしく頼む。…それで今日は何をすればいいんだ?なるべく力になれるよう努力する。」

 ラディウスの言葉にアイラは微笑むと、彼に説明を始めた。

「ではまず、私が指示したところの果実を採っていただけますか?今回はレモモの実と、ロベリーの実が対象です。採った果実はそれぞれの籠に入れて置いてください!」
「わかった、それでは取り掛からせて貰う。」

 そう言うとラディウスは、アイラに収穫する木を教えてもらい、早速瑞々しい果実に手を伸ばした。

 ◆

 鮮やかな黄色に色づいた爽やかな香りのレモモの実を収穫していく。

 男手が足りないと言うギルドでの話は本当のことだったようで、この場にはアイラとラディウスの2人しかいない。

「それにしてもヴェスタ豊穣の季節に、1人でこんな広い場所を管理するのは大変だろう。お前の両親は何をしているんだ?」
「基本的にお母さんは畑仕事をしているんですよ。お父さんは、最近魔物が森林に頻繁に出現することから、この村の人達と自警も兼ねて長時間、村と森林の見回りをしています。」

 アイラは穏やかに微笑みながら更に話を続けた。

「確かに大変なことも多いけれど、両親と私にとって、ここ果樹園は大切な場所なんです!それに、手が空いた時は互いに助け合っているのでそこまで不便はしていないんですよ。ここで作った果物や畑の野菜もしっかり売って生計を立てているので、ラント村での生活は意外と快適なんです。」

 アイラは話終わると、屈託のない笑顔をラディウスに向けた。

 ラディウスはそんな彼女のことを、まるで眩しいものを見るかのように目を細めた。

(…そうか、彼女は両親から無償の愛を受けて生きてきたんだな。)

「……成る程、そういうことか。いい家族に恵まれたんだな。」
「えへへ……ありがとうございます!……よし、次はロベリーの実ですよ!少し休憩したら早速取り掛かりましょう!」

 ラディウスの言葉に照れ臭そうに笑うアイラだったが、すぐに表情を引き締めると、次の果実の説明を始めた。
 その後も順調に赤く輝く果実を2人で収穫していった。

 ◆

「ふぅー…。これで今回の収穫分は終わりですね。お疲れ様です!」

 作業を始めてから数時間後……レモモの実とロベリーの実を無事収穫し終えた。

 籠の中にはたくさんの果実が山積みになっており、辺り一面に甘酸っぱい香りが広がっている。
 ラディウスは額に流れる汗を拭いながら、達成感に浸っていた。

(そう言えば……クレッドとハイレンは甘いものが好きだと言っていたな。)

 そんな時、ふとクレッド達との会話を思い出した。
 なんだか随分と、昔のことに感じてしまい思わず苦笑した。

 彼らの元を離れてまだ1日も経っていないというのに、僅かに感傷的な気分になってしまう。

 ——自分はいつの間に、彼らに心を許していたのだろうか。

 そんな様子のラディウスに、アイラは不思議そうな顔をしながら話しかけた。

「あの……ラディウスさん、どうかしましたか?もしや、具合が悪かったりしますか…!?」
「…ああいや、何でもない。少し考え事をしていただけだ。」
「そっか、なら良かった。」

 ラディウスはアイラの問いに答えると、彼女はホッとした表情を見せた。
 そして収穫した果物を小さな籠に詰めると、そっとラディウスに手渡した。

「正式な報酬はギルドから出ると思いますが、これは私からのちょっとしたお礼です。収穫のお手伝い、ありがとうございました。おかげで凄く、助かりました!」
「ああ、こちらこそ良い経験になった。……アイラ、1つだけお願いをしてもいいだろうか?」
「はい、なんですか?」

 小さな籠を受け取ったラディウスは、アイラの返事を聞くと先程より穏やかな声で告げた。

「この村に数日後、クレッド・オレオールの率いるパーティーがやって来る。その時に……収穫した果物を彼らにも少し渡して貰えないだろうか?」
「はい、勿論です!お安い御用ですよ!!」

 アイラが満面の笑みを浮かべながら了承すると、ラディウスはその笑顔を見て安心したように微笑んだ。

「そうか、感謝する。ではまた会おう。」
「ええ!また何かあったら依頼するわね!」

 ラディウスはアイラに礼を言うと、踵を返し果樹園を後にした。


 ——彼は大切そうに、果物の詰まった籠を抱えていた。
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