流血剣士の恩返し

黒狐

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第一章 パーティーの離脱と単独行動 ラディウスside

3.ラント村へ

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 1人で宿屋を発ったラディウスは、
 道中で荷馬車に便乗させてもらい目的地を目指していた。

「いやぁ、兄ちゃんのおかげで助かったよ!ありがとうな!」

 そう言う男は、ラディウスが乗っている荷馬車の御者を務めている人物だった。
 荷物を結ぶ紐が解け、様々な物が散乱し途方に暮れていた所を、偶然通りかかったラディウスが助けたことで事なきを得たのだ。
 その男は、人の良さそうな笑みを浮かべながら礼を言うと、手綱を操り荷馬車を走らせる速度を上げた。

「ラント村までは後2時間程かかるが、到着するまではゆっくりしててくれ。」
「ああ…ではお言葉に甘えさせて貰おう。」

 クレッド達は街での依頼が残っている為、数日間はあの街から動けない。
 その間に、少しでも情報を集めたり1人でも出来る依頼をこなしておきたい。
 ガタゴトと荷馬車に揺られながら、ラディウスはそんな事を考えた。

 ◆

 荷馬車はあれ以来順調に進み、目的地のラント村が薄っすらと見え始めた。
 そんな時、御者の男が再び話しかけてきた。

「そうだ、最近魔物が各地で活発化しているらしくてな。俺達が今向かっているラント村の被害は今のところ出ていないが、近くの森林には今まで生息していなかった凶悪な魔物が出現しているみたいだ。」
「今までいなかった魔物が…?」

 ラディウスが聞き返すと男は頷いて更に話を続けた。

「ああ、そうだ。だから兄ちゃん、くれぐれも1人で森林に入るなんてことはしないでくれよ。」
「…わかった。肝に銘じておく。」
「そうしてくれ。だが村も必ずしも安全とは限らない、充分注意していてくれ。」

 御者はそう言うと、荷馬車を村の入口付近に停車させた。
 ようやくラント村に到着したのだ。

 ラディウスは荷馬車から降りると、御者の男にお礼を伝え、早速村の散策を始めた。

 ◆

 ラント村は田園の広がる穏やかな場所だった。作物を育てるための水路が引かれており、狭い畦道が張り巡らされている。
 その畦道を歩くこと数分、 目的の場所である冒険者ギルドに到着した。

「ここか……」

 木造建ての建物を見上げつつ建物の扉を開くと、そこは木漏れ日の差す落ち着いた雰囲気に包まれていた。
 ラディウスはギルドの受付カウンターまで歩いて行くと、そこにいる女性に声をかけた。

「すまない、少し聞きたいことがあるんだがいいだろうか?」
「はい、どのようなご用件でしょうか?」

 ラディウスは受付の女性に自身の名前と職種を名乗り、単独でも受けられる依頼を尋ねることにした。
 すると彼女は、様々な種類の依頼書の中から1人で受けることのできる依頼をピックアップして来た。

「今は果実の収穫や屋根の補修、力仕事等の依頼があります。どれにしますか?」
「……そうだな」

 ラディウスはその中から果実の収穫依頼書を手に取った。

「この依頼を受けようと思うのだがどうだろうか?」
「はい、大丈夫ですよ。では手続きを行いますね。」

 そう言いながら彼女は依頼書を受け取ると、手元にある判子を押すとラディウスに手渡した。

「これで登録完了です。報酬についてはこちらに受け取りに来てください。それと、依頼主さんにはきちんと許可を取ってから作業を行って下さいね」
「ああ、分かった。」

 手続きを終え、依頼書を受け取ったラディウスはそのままギルドを出て依頼者の元へ向かっていった。
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