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ヴィヴリオ・ポリスと不思議な本
しおりを挟むヴィヴリオ・ポリスは、不思議な図書館の管理人。
全ての本に目を通し、栞を挟み、物語が終わるその時まで見届け、『こんな世界、人生もあるのだ』と記憶することが彼女の使命だ。
時には途中で途切れ結末を見届けることが出来なかった物語や、人知れず消え去ってしまった物語もあった。
そんな物語ですら彼女は大切に記憶した。
そうして彼女は、数え切れない程の無数の書物をたった1人で管理しているのだ。
◆
ある日、ヴィヴリオは一冊の本が光り輝きながら空中に浮かんでいるのを発見した。
(あれは…以前読み終えた本。どうして宙に浮かんでいるの?)
それは彼女がこれまで見て来た本の中で初めて見る現象だった。
興味津々の彼女は、その本を手に取り、中身を覗き込んだ。
その本は不思議なことに、物語の内容が独りでに変化していた。
通常、本は筆者が描き出した物語がそのまま記されているが、この本は違った。
ヴィヴリオがページをめくるたびに、文字が浮かび上がり、新たな物語が展開されていくのだ。
◆
最初のページでは、青年の冒険者が古代の遺跡を探索していた。
しかし、ヴィヴリオが次のページをめくると、その冒険者は予期せぬ罠に捕まり、絶体絶命の危機に瀕していた。
ヴィヴリオは驚きながらも、その先のページをめくった。
次のページでは、冒険者は不思議な魔法の力を手に入れ、罠から脱出することに成功する。
(良かった、無事脱出できたのね。)
ホッと胸を撫で下ろしたヴィヴリオは、次の場面を確認する。
そこでは手に入れたその力が、徐々に彼を変えていく様子が描かれていた。
ヴィヴリオは物語が進むにつれ、冒険者の運命に胸を締め付けられるような感覚を覚えた。
ページをめくるたびに、冒険者の物語は様々な展開を迎える。
時には仲間と共に困難に立ち向かい、時には自身の力に振り回され、欲望に取り憑かれて堕落していく。
ヴィヴリオは様々に変わりゆく冒険者の心情や行動に心を揺さぶられながらも、最後まで彼のことを見守り続けることにした。
◆
物語が最終章に差し掛かる頃、冒険者が最大の試練に直面する場面へと進んでいった。
彼は過去の選択と向き合い、自らの運命を切り拓く決断を迫られた。
ヴィヴリオは手に汗を握りながら、その瞬間を迎えるのを待った。
冒険者は悩み迷いながらも、最終的には自分の信念に従って行動を起こした。
彼はその力を正義のために使い、弱者を守ることに尽力した。
その選択は冒険者自身に大きな変化をもたらし、彼の心は成長し続けた。
そして、物語は遂に大団円を迎える。
冒険者は仲間と共に最終決戦へ臨み、ラスボスとの壮絶な戦いを繰り広げ、勝利を手にした。
しかし、その戦いの果てに彼はラスボスの攻撃から仲間を庇う為に魔法の力を使い果たし、犠牲となった。
物語は本来なら生存する筈の彼が死亡し、その命と引き換えに仲間と世界を救うという結末を迎えたのだ。
『大切な仲間を守れた、この世界を、多くの人を救えた。……だから今度は、たった1人の女の子を救いに、俺は行くんだ。』
仲間に囲まれた彼は、最期にその言葉を言い残して、短くも満ち足りた人生を終えた。
◆
ヴィヴリオはその最後のページを閉じると、深い感慨に浸った。
初めて感じた喪失感と切なさに、彼女はほろほろと涙を流した。
冒険者の彼が与えてくれた新たな体験と気づきに満ちた日々が、彼女の孤独に満ちた人生に小さな輝きを与えた。
ヴィヴリオはその本を大切に胸に抱えながら、1人その場を去ろうと歩み出す。
するとその場に、自分とは違う誰かの靴音が響き渡った。
驚いて振り向いたその先には───
「やっと見つけた、俺の大切な人。」
ヴィヴリオ・ポリスは孤独から解放された。図書館に保管された無数の物語と人生がそこに存在していて、それらが確かに自分を支えてくれているのだと……そのことに気がついたのだ。
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