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3章.日常

25.目覚め

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 それから数日間、アクロアは眠り続けた。体中の傷を回復させる為に、常に魔力や体力が枯渇状態になっているのだ。
 モリオンとセドニーは、アクロアの身体に巻いている包帯を取り替え、ベッドを清潔に保つよう配慮した。
 そして今朝、モリオンが新たな包帯に変えようと部屋を訪ねた時、アクロアはゆっくりと目を覚ました。

「ここ、は……?」
「屋敷の中だ、アクロア」
「モリオン……そうか、ちゃんと私は戻って来られたんだな……よかった……」

 アクロアはモリオンに支えられながら身体を起こすと、包帯が巻かれた自身の身体を不思議そうに見つめていた。
 セドニーもアクロアの声が聞こえたからか、慌てて部屋に入って来る。

「アクロア様!お目覚めになられて良かったです…!その、お身体の調子はどうですか?痛むところとか……」
「身体の傷と痛み自体は、私の魔力でかなり治癒している。しかし翼の切断面はまだ痛い。翼を修復するまで後2週間くらいはかかるな……」
「そうなのか…。アクロア、何か俺に手伝えることはあるか……?」

 モリオンがそう尋ねると、アクロアは穏やかな表情で答えた。

「今まで通り屋敷の家事や手伝いをしてくれるだけでも充分だ。だが……もし出来るなら今夜、私の隣で寝てほしい。その方がきっと安心して眠ることができる。」
「え!?え、あ、……わ、分かった……」

 モリオンが顔を赤くしながら返事を返すと、アクロアは小さく笑みを浮かべながら彼を見つめていた。

 ◆

 その日の晩、モリオンはトレーに2人分のカップとハーブティーを載せて、アクロアの部屋を訪ねていた。
 細やかな配慮の出来るセドニーが、『アクロア様が目覚めてようやく動けるようになったのです。折角の機会なのでお二人でひと月ぶりに、ゆっくりとお過ごししてはいかがでしょうか?』とハーブティーを用意してくれていたものだ。

 ドアをノックすると、中にいるアクロアから『どうぞ』と返事が来た。お茶を溢さないよう慎重に中に入ると、ベッドに腰掛けた状態の彼に出迎えられた。
 修復中の翼を気遣ってか、普段よりもゆったりとした格好をしている。

「ようこそ、モリオン。お茶はナイトテーブルに置いてくれ。」
「分かった、すぐ飲むからカップに注いでおくけど、どうする?」
「そうだな…折角だから、熱いうちにいただこうかな。」

 言われた通りにナイトテーブルにトレーを置くと、カップにハーブティーを注いでいく。

「いい香りだ、これはカモミールだな。」
「セドニーが準備してくれたんだ。たまには二人で、ゆっくり過ごして欲しいって。」
「あぁ…本当、セドニーには頭が上がらないな。」

 モリオンからカップを受け取ったアクロアは、一口飲むとリラックスしたのかゆっくりと息を吐いた。

「俺も……。俺も、アクロアがいなくなった時、セドニーに励まされて何とか頑張れたんだ。」

 モリオンは彼のいなかった1ヶ月間の事を、ポツリポツリと話していった。
 アクロアはお茶を飲みながら、時折合槌をうってモリオンの話を聞いていた。

「…お前達には迷惑をかけてしまったな…。すまなかった。けれどお前達に、危害が加えられていなくて本当に良かった。」
「あの時、傷だらけの姿で倒れているアクロアを見て、凄く怖くなったんだからな……頼むから、アクロアも…自分のことは大切にしてくれ……!」
「そうだな、お前を悲しませるようなことは、もうしないと誓う。」

 ポロポロと溢れ出す涙を必死に拭っていると、アクロアにそっと抱きしめられ頭を撫でられた。久しぶりに感じる彼の温もりに、モリオンは縋り付くように抱きしめ返した。

「とにかく、お前達が無事で良かった。
 ……さて、お茶も頂いたしゆっくりモリオンと話も出来た。そろそろ寝てしまおうか。」
「そう…だな」

 アクロアはモリオンを抱きしめたままベッドに横になると、ふかふかの布団を肩までかぶった。互いの鼓動と温もりで、次第に目蓋が落ちてくる。

「…アクロア、おやすみなさい」
「……あぁ。おやすみ、モリオン。」

 2人は向かい合った姿で、穏やかな眠りに落ちていった。
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