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2章.断罪 ※
15.強制転移
しおりを挟む─────それから数ヶ月間。
モリオンは、アクロアとセドニーと共に屋敷で平和に過ごしていた。
常に仕事が忙しいアクロアのお手伝いをしたり、暑い日には屋敷の目の前にある湖で涼んだりした。
育てた野菜を使って料理をしたり、なかなか寝付けない日は、甘くゆったりと身体を重ねたり……。そんな穏やかな日々が続いていた。
しかし突然、事件は起きた。
「アクロア様、大変です!」
買い出しで外出していた筈のセドニーが、慌ただしく部屋に飛び込んできた。
「セドニー、何があった!」
「先程、天界の門が開かれたらしく、多くの天使達がこちらに向かって押し寄せて来るのを目撃しました!」
「なんだと…!?一体何故、こんなタイミングで……」
アクロアの顔に珍しく焦りの色が浮かぶ。
「恐らく、今回の狙いはモリオン様ではなく……アクロア様、貴方です!」
セドニーは大鷲の姿に戻ってアクロアの肩にとまると耳打ちをする。
「……モリオンと、悪魔と共に暮らす私を、断罪しに来たのか。」
数ヶ月前、屋敷でモリオンを襲ったあの天使を思い出す。転送する際に天界に報告する…そう言っていた気がするが、今頃になってそれが実行されたのだろう。
(第一天使長には、モリオンと暮らす許可を得ている。ともなればあの天使は、第一天使長以外に報告したのか…。厄介だな)
「アクロア…!!」
アクロアが今回のことについて考え込んでいると、部屋の扉が勢いよく開きモリオンが飛び込んできた。
「さっきセドニーに聞いた、天界から天使が来てるって。俺達は…アクロアは、大丈夫なのか!?」
モリオンが不安気な声を上げながらアクロアに近づくとギュッと抱きついた。その身体は小刻みに震えている。
「大丈夫…大丈夫だ、モリオン。奴らの狙いは私だ、お前は何も心配しなくて良い。」
アクロアはモリオンを安心させるように、優しく頭を撫でると部屋を出て行こうとした。
「待て!俺も行く!!」
その姿に嫌な予感を感じたモリオンは、必死に引き留めようと背後から再び抱きついた。
「いや、これは私の問題だ。お前はここに居て、セドニーと共に私の帰りを待っていてくれ。」
アクロアは振り向いてモリオンを優しく抱きしめ返すとそっと身体を離し玄関へと向かっていった。
「アクロア……」
モリオンの目には涙が滲んでいた。
「私は、行かねばならない…。今度は必ず、モリオンを守る。」
アクロアは振り返ることなく、扉の前へ歩みを進める。そして、ドアノブに手をかけようとした瞬間勢いよく扉が開け放たれ、沢山の下級天使達が屋敷の中へなだれ込んできた。
「上級天使、アクロア…貴殿は悪魔を匿うだけでなく、天界の掟を破り悪魔とまぐわったそうだな。その罪を償ってもらおうか!」
リーダー格と思われる天使は、大剣を構えるとアクロアに一気に間合いを詰めて来る。そんな状況でも同様しないアクロアは、決意を秘めた表情で静かに口を開いた。
「もちろん、貴様らの言う罰は受けるつもりだ。しかし屋敷に残すモリオンと、使いの大鷲には手を出すなよ。もし危害を加えでもしたら、その時は貴様らを死ぬよりも辛い目に合わせるぞ?」
アクロアは6枚の翼を威圧するように広げると、リーダー格の天使は頷いた。
「…承知した。貴殿の断罪が終わるまでは、彼らに手出しをしないと約束しよう。……お前達、アクロアを天界に転送するぞ。」
リーダー格の天使がそう言うなり、アクロアの周りを囲う天使達が、彼の手首に魔力封じの枷をかけ、飛べないように翼に鎖を巻き付けていく。
「準備は済んだな…。では天界に転送する。アクロア、覚悟をしておくんだな。」
天使達は一斉に転移陣を展開し、アクロアに向かって光を放った。
「くっ……」
あまりの眩しさに一瞬にして視界を奪われ、モリオンは思わず目を瞑ってしまった。
光が収まりそっと目を開けた時には、アクロアの姿は無くなっていた。
「感謝しろ、欠陥品の悪魔。お前の命はアクロアの手で守られたのだからな。」
未だ屋敷に残っているリーダー格の天使は、それだけ言い残すと残った天使と共に魔法陣を展開し、この場を離れようとする。
「アクロアを…彼を、返してくれ!!」
モリオンは涙を流しながら訴える。
「それは出来ない相談だ。悪魔に関わった者は例外なく処分しなければならない決まりだからな。」
天使のリーダーはそれだけ言うと、残りの天使達を引き連れて転移して行った。
漸く静寂の訪れた屋敷には、モリオンとセドニーだけが取り残された。
「アクロア様、どうか、ご無事で……!」
「ぁ…ぁあ…、アクロアぁぁ……ッ!!」
アクロアという、大切な存在を突然奪われてしまったモリオンは、その場に崩れ落ちると悲痛な声で泣き叫んだ。
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