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1章.翼のない悪魔
3.連行
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─── 翌朝。
昨日の凄惨な出来事を忘れてしまったかのように、朝日はいつも通り登ってきた。
モリオンは洞窟の近くに生えている木から、木の実を採取していた。
鬱蒼とした森の中であったとしても、油断は禁物。いつ誰がどこから監視しているか分からない。
全身の痛みと、見つかってしまうかもしれない恐怖の中、彼は生きる為の食糧を必死に集めた。
数十分辺りを探し周り2日分の木の実が集まったところで、モリオンはほっと息をついた。
「これで、少しは安心できるな。」
モリオンは小さく呟くと、両腕に抱えた木の実を落とさないよう、慎重に抱えながらゆっくりと洞窟へ帰って行く。
しばらく歩いてようやく洞窟に戻って来たモリオンは、何処からか視線を感じ慌てて振り返った。
しかしそこには誰もおらず、鳥の囀りと木々の葉がさざめく音しか聞こえない。
先程の視線も今はもう感じない。
「俺の、気のせい……か?」
モリオンは首を傾げると、警戒しつつ洞窟に入っていった。
◆
その日の昼……遂に事件は起きた。
普段は動物の鳴き声と木々の擦れる音、川のせせらぎしか聞こえない静かな場所なのに、今は何故だかざわざわと騒がしい。
それは何者かが会話しながら洞窟へと近づいてくる音だった。
モリオンが慌てて外へ出るとそこには、洞窟を取り囲むように複数の天使がいた。
天使は彼を見つめると静かに問いただした。
「お前…悪魔だな?」
「っ……ああ、そうだ。」
静かで、されど威圧感のあるその言葉にモリオンは小刻みに震えながら頷いた。
その姿を見た天使達は顔を見合わせてた後、威圧感を放ちながらゆっくりと近づいて来た。
「近隣の村から、洞窟に悪魔が棲みついていると通報があった。貴様のことで間違いないだろう。それ以上怪我をしたくなければ大人しく捕まるんだ。」
「何故…人間が、俺の存在を……。ッ…まさか…!?」
モリオンの脳裏に、昨日翼と角を奪った悪魔達の姿が過る。
───彼の予感は的中していた。
モリオンを洞窟に捨てて行った悪魔達は、その後人間に化けて村に侵入していた。そこで出会った村人達に『森の奥の洞窟に、人を狙う悪魔がいる』と偽の噂を吹き込み、天使に通報するよう唆していたのだ。
悪魔である自分は、同族の手によって天使に売られた。行き着いた結論に、モリオンは絶望した。
目を見開いたままその場で立ち尽くしているモリオンに、天使の1人が捕縛用の鎖を巻きつけていく。
傷だらけの身体に容赦なく食い込む鎖に、モリオンは小さく悲鳴を上げた。
「ぐぅっ!…痛い、やめてくれ……!」
天使が拘束し終わる頃には、既に動けるような体力など残っていなかった。
鎖を引っ張られ、モリオンは洞窟から無理矢理引き摺られていった。
「これから貴様を、天界にある懲罰房へ連行する。」
嫌悪感を滲ませた冷たい視線を浴びせてくる天使達を見て、モリオンは心の中で呟いた。
(もう、嫌だ……。誰か、助けてくれ……!)
彼の心の叫びは誰にも届くことは無く、無常にも転移魔法陣へ放り込まれた。
天使達が魔法陣を起動させる強い光と衝撃に、一筋の涙を流したモリオンはそのまま意識を手放した。
昨日の凄惨な出来事を忘れてしまったかのように、朝日はいつも通り登ってきた。
モリオンは洞窟の近くに生えている木から、木の実を採取していた。
鬱蒼とした森の中であったとしても、油断は禁物。いつ誰がどこから監視しているか分からない。
全身の痛みと、見つかってしまうかもしれない恐怖の中、彼は生きる為の食糧を必死に集めた。
数十分辺りを探し周り2日分の木の実が集まったところで、モリオンはほっと息をついた。
「これで、少しは安心できるな。」
モリオンは小さく呟くと、両腕に抱えた木の実を落とさないよう、慎重に抱えながらゆっくりと洞窟へ帰って行く。
しばらく歩いてようやく洞窟に戻って来たモリオンは、何処からか視線を感じ慌てて振り返った。
しかしそこには誰もおらず、鳥の囀りと木々の葉がさざめく音しか聞こえない。
先程の視線も今はもう感じない。
「俺の、気のせい……か?」
モリオンは首を傾げると、警戒しつつ洞窟に入っていった。
◆
その日の昼……遂に事件は起きた。
普段は動物の鳴き声と木々の擦れる音、川のせせらぎしか聞こえない静かな場所なのに、今は何故だかざわざわと騒がしい。
それは何者かが会話しながら洞窟へと近づいてくる音だった。
モリオンが慌てて外へ出るとそこには、洞窟を取り囲むように複数の天使がいた。
天使は彼を見つめると静かに問いただした。
「お前…悪魔だな?」
「っ……ああ、そうだ。」
静かで、されど威圧感のあるその言葉にモリオンは小刻みに震えながら頷いた。
その姿を見た天使達は顔を見合わせてた後、威圧感を放ちながらゆっくりと近づいて来た。
「近隣の村から、洞窟に悪魔が棲みついていると通報があった。貴様のことで間違いないだろう。それ以上怪我をしたくなければ大人しく捕まるんだ。」
「何故…人間が、俺の存在を……。ッ…まさか…!?」
モリオンの脳裏に、昨日翼と角を奪った悪魔達の姿が過る。
───彼の予感は的中していた。
モリオンを洞窟に捨てて行った悪魔達は、その後人間に化けて村に侵入していた。そこで出会った村人達に『森の奥の洞窟に、人を狙う悪魔がいる』と偽の噂を吹き込み、天使に通報するよう唆していたのだ。
悪魔である自分は、同族の手によって天使に売られた。行き着いた結論に、モリオンは絶望した。
目を見開いたままその場で立ち尽くしているモリオンに、天使の1人が捕縛用の鎖を巻きつけていく。
傷だらけの身体に容赦なく食い込む鎖に、モリオンは小さく悲鳴を上げた。
「ぐぅっ!…痛い、やめてくれ……!」
天使が拘束し終わる頃には、既に動けるような体力など残っていなかった。
鎖を引っ張られ、モリオンは洞窟から無理矢理引き摺られていった。
「これから貴様を、天界にある懲罰房へ連行する。」
嫌悪感を滲ませた冷たい視線を浴びせてくる天使達を見て、モリオンは心の中で呟いた。
(もう、嫌だ……。誰か、助けてくれ……!)
彼の心の叫びは誰にも届くことは無く、無常にも転移魔法陣へ放り込まれた。
天使達が魔法陣を起動させる強い光と衝撃に、一筋の涙を流したモリオンはそのまま意識を手放した。
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