42 / 49
金毛九尾
蓮
しおりを挟む
紫檀が全身を振るわせてクルリ回る。
「どうせ戦うことになるんだから、まだるっこしく説得なんてしなくて良かったではないか!!」
紫檀の声色はウキウキしている。
至上の存在である九尾狐と戦う機会なんてそうそうある物ではない。
どう考えても格上の九尾が、怒りに満ちた様子で目の前にいる。
周囲の空気が凍り付く。
張り詰めた……いや、そんな言葉では足りない。
一歩前に進めば喰い殺されそうな圧を感じる。
狐火を全身にまとった金色の大狐は、虚空に浮かび、紫檀たちを見下ろす。
「すごいな!!」
「アホ狐。完全にこちらが不利になってしまったではないか」
「だが、本気の九尾だぞ!! 姑息な手で絡めとるなどもったいない……いやいや、失礼ではないか」
本来は、鳴神がまず説得し、それに応じないようであれば、結界の中に潜んでいた晴明達が、九尾の動きを少しでも封じで、ともかくこの都からは退去させ、そこでまた策を講じて戦意を削ぐ予定であった。
「さて、どうするか……私と鳴神と紫檀。この三人でかかっても、九尾を抑える力があるのかどうか……」
思案する晴明の言葉を、鳴神が大人しく待つ。
「爺《じじい》の策は待ってられん!!」
ピョンと跳んだ紫檀が、玉藻の前に一人立ち向かっていく。
玉藻の前が、冷たい目を紫檀に向ける。
「なんとも子狐というものは、無礼で無謀な……妖狐の里で礼節を教わったはずではないのか?」
「あいにくその手の座学は全部居眠りで聞いておらん」
「その居眠りが命取りになろうこと、後悔するが良い」
玉藻の前が目を細めた瞬間に、大きな狐火が紫檀を包む。
狐火に包まれた途端に辺りの風景が消えて見たこともない沼が広がる。
「これが九尾の結界……」
「焼き殺す気で放った狐火であったが、どうやら座学以外は真面目に学んではいるようだな」
すうっと降り立つ女の姿に戻った玉藻の前。
玉藻の前の足元に、薄紅色の蓮の花が現れてその足を支える。
――玉藻の前の結界の中。全ての物が、玉藻の前の都合に合わせて存在するということなのだろう。
「子狐、どうする? ここは、わらわの結界の中。お前がどうあがこうが、何も変わらない」
高みの見物をするつもりなのだろう。
玉藻の前は、蓮の上でくつろいでいる。
何も無いように見えていた沼は、もはや蓮の群生地と化して、水面は見えない。
青い蓮の葉、白や薄紅の蓮の花、華の蕾《つぼみ》。
紫檀は蓮に囲まれ身動きが取れなくなる。
「くぅ!」
紫檀が自らの狐火で周囲の蓮を焼き払っても、蓮は次から次へと沼から生えて紫檀を囲む。
「なんとも愉快な!」
紫檀がもがいている様子を見て、玉藻の前が悠然と笑う。
「どうせ戦うことになるんだから、まだるっこしく説得なんてしなくて良かったではないか!!」
紫檀の声色はウキウキしている。
至上の存在である九尾狐と戦う機会なんてそうそうある物ではない。
どう考えても格上の九尾が、怒りに満ちた様子で目の前にいる。
周囲の空気が凍り付く。
張り詰めた……いや、そんな言葉では足りない。
一歩前に進めば喰い殺されそうな圧を感じる。
狐火を全身にまとった金色の大狐は、虚空に浮かび、紫檀たちを見下ろす。
「すごいな!!」
「アホ狐。完全にこちらが不利になってしまったではないか」
「だが、本気の九尾だぞ!! 姑息な手で絡めとるなどもったいない……いやいや、失礼ではないか」
本来は、鳴神がまず説得し、それに応じないようであれば、結界の中に潜んでいた晴明達が、九尾の動きを少しでも封じで、ともかくこの都からは退去させ、そこでまた策を講じて戦意を削ぐ予定であった。
「さて、どうするか……私と鳴神と紫檀。この三人でかかっても、九尾を抑える力があるのかどうか……」
思案する晴明の言葉を、鳴神が大人しく待つ。
「爺《じじい》の策は待ってられん!!」
ピョンと跳んだ紫檀が、玉藻の前に一人立ち向かっていく。
玉藻の前が、冷たい目を紫檀に向ける。
「なんとも子狐というものは、無礼で無謀な……妖狐の里で礼節を教わったはずではないのか?」
「あいにくその手の座学は全部居眠りで聞いておらん」
「その居眠りが命取りになろうこと、後悔するが良い」
玉藻の前が目を細めた瞬間に、大きな狐火が紫檀を包む。
狐火に包まれた途端に辺りの風景が消えて見たこともない沼が広がる。
「これが九尾の結界……」
「焼き殺す気で放った狐火であったが、どうやら座学以外は真面目に学んではいるようだな」
すうっと降り立つ女の姿に戻った玉藻の前。
玉藻の前の足元に、薄紅色の蓮の花が現れてその足を支える。
――玉藻の前の結界の中。全ての物が、玉藻の前の都合に合わせて存在するということなのだろう。
「子狐、どうする? ここは、わらわの結界の中。お前がどうあがこうが、何も変わらない」
高みの見物をするつもりなのだろう。
玉藻の前は、蓮の上でくつろいでいる。
何も無いように見えていた沼は、もはや蓮の群生地と化して、水面は見えない。
青い蓮の葉、白や薄紅の蓮の花、華の蕾《つぼみ》。
紫檀は蓮に囲まれ身動きが取れなくなる。
「くぅ!」
紫檀が自らの狐火で周囲の蓮を焼き払っても、蓮は次から次へと沼から生えて紫檀を囲む。
「なんとも愉快な!」
紫檀がもがいている様子を見て、玉藻の前が悠然と笑う。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部
山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。
これからどうかよろしくお願い致します!
ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。
京都式神様のおでん屋さん
西門 檀
キャラ文芸
旧題:京都式神様のおでん屋さん ~巡るご縁の物語~
ここは京都——
空が留紺色に染まりきった頃、路地奥の店に暖簾がかけられて、ポッと提灯が灯る。
『おでん料理 結(むすび)』
イケメン2体(?)と看板猫がお出迎えします。
今夜の『予約席』にはどんなお客様が来られるのか。乞うご期待。
平安時代の陰陽師・安倍晴明が生前、未来を案じ2体の思業式神(木陰と日向)をこの世に残した。転生した白猫姿の安倍晴明が式神たちと令和にお送りする、心温まるストーリー。
※2022年12月24日より連載スタート 毎日仕事と両立しながら更新中!
鎌倉最後の日
もず りょう
歴史・時代
かつて源頼朝や北条政子・義時らが多くの血を流して築き上げた武家政権・鎌倉幕府。承久の乱や元寇など幾多の困難を乗り越えてきた幕府も、悪名高き執権北条高時の治政下で頽廃を極めていた。京では後醍醐天皇による倒幕計画が持ち上がり、世に動乱の兆しが見え始める中にあって、北条一門の武将金澤貞将は危機感を募らせていく。ふとしたきっかけで交流を深めることとなった御家人新田義貞らは、貞将にならば鎌倉の未来を託すことができると彼に「決断」を迫るが――。鎌倉幕府の最後を華々しく彩った若き名将の清冽な生きざまを活写する歴史小説、ここに開幕!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大日本帝国、アラスカを購入して無双する
雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。
大日本帝国VS全世界、ここに開幕!
※架空の日本史・世界史です。
※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。
※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
大江戸町火消し。マトイ娘は江戸の花
ねこ沢ふたよ
歴史・時代
超絶男社会の町火消し。
私がマトイを持つ!!
江戸の町は、このあたしが守るんだ!
なんか文句ある?
十五歳の少女お七は、マトイ持ちに憧れて、その世界に飛び込んだ。
※歴史・時代小説にエントリーして頑張る予定です!!
※憧れの人に会いたくて江戸の町に火をつけた歌舞伎の八百屋お七。その情熱が違うベクトルに向かったら? そんな発想から産まれた作品です♪
※六月にガンガン更新予定です!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる