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金毛九尾
内裏の狐
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鳴神が晴明の庵に住まうようになってしばらく経つ。
今日も紫檀は晴明の元へ訪れては、「遊ぼう!」と晴明を誘っては、無下に断られて拗ねている。
「なぜあのように邪険に?」
鳴神が晴明に聞けば、
「紫檀と戦う理由はない」
晴明は、そう言うばかりだった。
何も、本気で殺し合おうと言うのではない。
紫檀が求めているのは、「遊び」なのだから、模擬的な手合わせくらいならしてやっても良いのではないかと、鳴神は思う。
「そう……ですか……」
「ほら! 鳴神も不思議に思うであろう?」
腑に落ちない鳴神に、紫檀がまとわりつく。
「しかし、晴明様には、晴明様のお考えが……」
「大切なことは、私の使いをしている内に分かっているであろう? 紫檀よ。そこから何をどう感じるかは、お前の自由だ」
「自由と申すなら、遊んでくれても罰は当たらないであろう?」
「わからぬ狐だ。鳴神が困っている。離してやれ」
鳴神を間に挟んでの紫檀と晴明のいつもの会話。
毎日のように似たような会話をしている。
「……紫檀よ。それに、どうも忙しくなってしまったようだ」
晴明の表情が曇る。
「式神か?」
「ああ。式神が妙な話を持ってきた」
「妙?」
「そうだ。どうも困ったことに、内裏に妖狐が現れたらしい」
妖狐と聞いて、紫檀の狐耳がピクリと震える。
「んあ? 儂は、そんなところへは行っておらんぞ? そんなところに行っても強い奴はおらん。つまらぬではないか」
「分かっている。相手は、金毛」
晴明は、式神の報告を鳴神と紫檀に説明する。
帝の寝所に、夜な夜な美女が現れる。
名を『玉藻の前』と名乗る美女を帝は気に入り、この玉藻の前と逢瀬を重ねた。
どういった理由でそこにいて、どのような出自なのかも分らぬ美女。
家臣にも言わずに秘密裏に重ねる逢瀬に、帝は夢中になった。
「次は、良く晴れた日の十六夜の月の下で」「あの梔子の花が咲きましたら」美女が告げる次の約束はどれも曖昧。帝は、今か今かと天を仰ぎ、梔子の花を眺めて、女との約束を待ち望み、気付けば政は放置し、女の事ばかりを考える日々となってしまった。
「ふうん。確かに妖くさい行動だが、それがどうして金毛の妖狐の仕業と分かった?」
「帝の様子がおかしくなったことを不審に思った者が陰陽寮に問い合わせた」
「ほう」
知らせを受けた陰陽寮で調査をした結果。その女は金毛の妖狐であると判明したのだという。
「だが、その妖狐、特に妖力は使っていないであろう?」
帝と逢瀬と重ねただけだ。
夢中になったのは、妖狐の仕業というよりかは、政《まつりごと》を放置して女に夢中になってしまった帝が悪いのではないかと、紫檀は思う。
そんな事まで妖が悪いとされれば、妖狐はうっかり人間に恋も出来ない。
「しかし、そういう訳にもいかないのだ。海の向こうでの恐ろしい話が伝わっている」
妲己《だっき》という九尾の妖狐。それが女媧《じょか》という女神の命で、皇帝に憑りついて、悪行を尽くしたのだという。
妊婦の胎を裂き、忠臣を残虐な方法で処刑して、国を乱した。
その結果、妲己は首を刎ねられて皇帝は打ち滅ぼされた。
「まあ……やりすぎだわな。女神の命であったとはいえ。しかし、それはあくまで妲己の話。玉藻の前の悪事ではないだろう?」
「人はそうは思わん。しかも間の悪いことに、帝が病となった」
「それを……妖狐の仕業だと……」
まあ、な。と一言。晴明は涼しい顔をしていた。
今日も紫檀は晴明の元へ訪れては、「遊ぼう!」と晴明を誘っては、無下に断られて拗ねている。
「なぜあのように邪険に?」
鳴神が晴明に聞けば、
「紫檀と戦う理由はない」
晴明は、そう言うばかりだった。
何も、本気で殺し合おうと言うのではない。
紫檀が求めているのは、「遊び」なのだから、模擬的な手合わせくらいならしてやっても良いのではないかと、鳴神は思う。
「そう……ですか……」
「ほら! 鳴神も不思議に思うであろう?」
腑に落ちない鳴神に、紫檀がまとわりつく。
「しかし、晴明様には、晴明様のお考えが……」
「大切なことは、私の使いをしている内に分かっているであろう? 紫檀よ。そこから何をどう感じるかは、お前の自由だ」
「自由と申すなら、遊んでくれても罰は当たらないであろう?」
「わからぬ狐だ。鳴神が困っている。離してやれ」
鳴神を間に挟んでの紫檀と晴明のいつもの会話。
毎日のように似たような会話をしている。
「……紫檀よ。それに、どうも忙しくなってしまったようだ」
晴明の表情が曇る。
「式神か?」
「ああ。式神が妙な話を持ってきた」
「妙?」
「そうだ。どうも困ったことに、内裏に妖狐が現れたらしい」
妖狐と聞いて、紫檀の狐耳がピクリと震える。
「んあ? 儂は、そんなところへは行っておらんぞ? そんなところに行っても強い奴はおらん。つまらぬではないか」
「分かっている。相手は、金毛」
晴明は、式神の報告を鳴神と紫檀に説明する。
帝の寝所に、夜な夜な美女が現れる。
名を『玉藻の前』と名乗る美女を帝は気に入り、この玉藻の前と逢瀬を重ねた。
どういった理由でそこにいて、どのような出自なのかも分らぬ美女。
家臣にも言わずに秘密裏に重ねる逢瀬に、帝は夢中になった。
「次は、良く晴れた日の十六夜の月の下で」「あの梔子の花が咲きましたら」美女が告げる次の約束はどれも曖昧。帝は、今か今かと天を仰ぎ、梔子の花を眺めて、女との約束を待ち望み、気付けば政は放置し、女の事ばかりを考える日々となってしまった。
「ふうん。確かに妖くさい行動だが、それがどうして金毛の妖狐の仕業と分かった?」
「帝の様子がおかしくなったことを不審に思った者が陰陽寮に問い合わせた」
「ほう」
知らせを受けた陰陽寮で調査をした結果。その女は金毛の妖狐であると判明したのだという。
「だが、その妖狐、特に妖力は使っていないであろう?」
帝と逢瀬と重ねただけだ。
夢中になったのは、妖狐の仕業というよりかは、政《まつりごと》を放置して女に夢中になってしまった帝が悪いのではないかと、紫檀は思う。
そんな事まで妖が悪いとされれば、妖狐はうっかり人間に恋も出来ない。
「しかし、そういう訳にもいかないのだ。海の向こうでの恐ろしい話が伝わっている」
妲己《だっき》という九尾の妖狐。それが女媧《じょか》という女神の命で、皇帝に憑りついて、悪行を尽くしたのだという。
妊婦の胎を裂き、忠臣を残虐な方法で処刑して、国を乱した。
その結果、妲己は首を刎ねられて皇帝は打ち滅ぼされた。
「まあ……やりすぎだわな。女神の命であったとはいえ。しかし、それはあくまで妲己の話。玉藻の前の悪事ではないだろう?」
「人はそうは思わん。しかも間の悪いことに、帝が病となった」
「それを……妖狐の仕業だと……」
まあ、な。と一言。晴明は涼しい顔をしていた。
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